ものがたりvol.3『モルモットの稲荷さん』
こんにちは、作詞家の大貫理音です。
ひとりのぽんこつクリエイターがお送りするマガジン『ものがたり』は、わたしが出逢ったたくさんのひと・もの・ときなどの日々徒然記録。
今日はたいせつな家族、モルモットの稲荷(イナリ)さんのお話をお送りします。
わたしが大好きな動物のモルモット。過去には曲にするくらいその生態に魅了されています。
我が家のムードメーカー稲荷はモルモットの男の子。トマトやりんごなど野菜と果物が大好き。
りんごといえば英語圏で『the apple of one's eye』という言葉があります。「目の中に入れても痛くないくらい愛おしい」という意味で、人の眼は堅くリンゴの様な形をしていて、その眼がなければ何も見る事が出来ない大切な物という表現。考え方としては日本にも同じような言葉があり、表現の根底にある想いは万国共通なんだと気付かされました。
『りんご/apple』という果実、実はだいぶ古い歴史があります。以前わたしが焼いたケーキにも使った『ブラムリー』という種類はヨーロッパのお庭の果樹としてポピュラーなもの。日本でいうとお庭の夏みかんや柚子の樹のような存在です。
りんごの歴史をもっと遡ると、言葉が発展する前の時代には果物というと全部『apple』だったそうです。その名残を持つ果物のひとつがパイナップルことパインアップル。アダムとイブに出てくるりんご、はたしていまのりんごのような果物だったのでしょうか。ドリアンだったりして。笑
そんなりんごとモルモットの稲荷とは少し縁のある果物になりました。
わたしが創作した音楽作品【屋根裏の歌劇座】で稲荷を擬人化したキャラクター『イナリ』もたまたま偶然『大切な人にりんごをあげるキャラクター』として生み出しました。
もちろんモルモットの稲荷がりんご好きだったこともありますが、こんなにもイナリの存在にふさわしい果物だったとは思わずに、後付けではありますが良き設定となった気がします。
イナリは屋根裏の歌劇座の星歌隊 見習いモルモット。りんごのような真っ赤な眼と絹糸のような金色の髪の毛を持つ純粋無垢な男の子。
舞台デビューを目指して言葉を学ぶため「やさしい」を教えてくれた1000人に「りんごあげる」企画を開催中。SNSでぜひ応援フォローしてみてください。
@utainari
またまた前置きが長くなりましたね。仕様です。恐れ入ります。
ところで今日8月12日は我が家の家族モルモットの稲荷さんのお誕生日。ここ数年はフルーツや新鮮な野菜を用意してお祝いしていた日ですが、今年はちょっぴり心の置き場所がふわりとしています。
SNSをご覧になっている方は「最近は写真が上がらないな〜」と、なんとなく察してくださっている方もいるかもしれませんが。
稲荷さんは虹の橋を渡りました。2月の寒い日の夜のことでした。
SNSやイベントの際に「稲荷くんは元気ですか?」と聞かれるたびに心苦しく、その場の空気を重くしたくなかったためこの場を借りてご報告いたします。可愛がっていてくださった皆様へのお知らせが遅くなってしまってごめんなさい。
稲荷のことを覚えていてくださる方のお言葉に、想いに、どれだけ支えられたかわかりません。これからもぜひ遠慮なく稲荷のお話を聞いてくださいね。もれなく親バカなわたしが拝めます。
ただ当時は突然のことに、季節が過ぎ春になってもなかなか現実を受け入れることができずにいました。ケージをおいていた場所がポツンと空間になっていることを直視できず、わたしたち家族はとても辛いく苦しい毎日でした。初夏の先日の引越しでようやく稲荷のいない毎日を受け止めて、時間も進みだした気がしています。
あの日は昼間ケージのお掃除をして、家族と一緒に部屋で少しだけ戯れながらケージに戻し、最後に口にしたのは大好きな産地直送のレタス(日が経っていてちょっと萎びていたかも)でした。もっと他にあっただろうと、新鮮で美味しいものをたっぷり食べて欲しかったと思うのは自己満足なのでしょうか。
ついさっきまでは動き回って水を飲んでいたのに、わたしが同じ部屋で1時間ほどうたた寝をしている間に、ひとりでさっさと虹の橋を渡って行ってしまったのです。あの日の自分の記憶と気持ちをここに記しておきたいと思います。
(家族の死と向き合う描写が苦手な方はスルーしていただき、下部の写真集をお楽しみください。モルモット好きの方も、あまりよく知らない方もこの機会にぜひ、写真だけはみていってくださると嬉しいです)
その日は珍しく家にはわたしも家族も、一日中みんながいた日だった。いつもの家族がいる家で、稲荷といつものように過ごした一日。愛らしく動いて元気に鳴く姿をみたさいごの日になった。これまで病気ひとつせずいつでも元気でマイペースの、稲荷らしいといえばそうだったのかもしれない。
声もなく苦しむ様子も見せずに普段どおりのんびりと過ごしていた彼が、あまりにも動く気配がなく嫌な予感がしてケージをのぞくと、すでにぐったりとしている姿があった。まだやわらかくて少し温みを感じる稲荷。さっきまでたしかに動いていたし鳴いていた。わたしの手から野菜を食べていたのに。とても信じがたい絶望の光景。
「家族として最後まできちんと見送ってあげなければ」と少し開いたままの目を夫が閉じた。ぷるぷるのくちびる、意外と大きい足の裏、艶やかな毛質のせなか、ふわふわの毛質のおなか。わたしは体の隅々までこの目でしっかりとみて覚えておくのだという思いで濡れタオルで綺麗に拭いた。ちいさなダンボール箱に保冷剤を敷き詰めて、りんご柄のやわらかなタオルに寝かせて、たくさんのお花と大好きだった野菜で囲むように一緒に供えた。
お見送りは自宅火葬を選んだ。こちらから出向くものとばかり思っていたが、たまたま電話で問い合わせたサービスが自宅まで火葬車で来るものだった。足型を取ってくれたり後日稲荷の名前を書いたご挨拶はがきが届いたりと、最後までとても親身に対応してくれる信頼できる会社を選べてよかった。そして即日はもう予約が取れず、数日お家に置いてあげられること、寒い季節であることに少しだけほっとしたのを覚えている。
火葬の日は今にも雨が降りそうな曇り空。朝一で依頼をしたため目が覚めてすぐ抱きあげた。最後の抱っこ。火葬車の扉が閉まる瞬間は涙で直視できなかった。しばらくして担当の方は骨になった稲荷のアゴはこれですと顔の形に並べて説明した。ふもふでやわらかくてあたたかかったそれはほんの数十分で違うものになってしまった。星柄の可愛い骨壷ケースを選び、夫と一緒に骨を拾い壷に納めた。動物であってもこの国の仕組みは人間の火葬と同じなんだなあと思った。稲荷は最後までずっとわたしたち家族と一緒におうちにいられたんだなあと、骨壷を抱えてしばらくぼんやりしていた。
最後に、稲荷の写真と思い出のお話で終わりたいと思います。
稲荷を譲り受けた友達の鮎ちゃん (コスプレ系モルモット写真で人気の『もるぺうす』としてSNSを中心に話題に)からもらった赤ちゃん時代から我が家に来るまでの写真、わたしや家族が撮影したものまで、いろいろな稲荷さんをご紹介します。うちのモルモットはさいこーに可愛いです。ぜひみていってください。
モルモットの稲荷との出逢いは、2014年のこと。
東京で一人暮らしを始めてようやく生活が落ち着いた頃。
鮎ちゃんのおうちに8/12の夜、赤ちゃんモルモットが3匹生まれて唯一の男の子が赤い目をしていると知らせてくれました。
ふわふわの毛を持ち気品溢れるちくわママ。
芸達者で愛くるしさが人気のきんときパパ。
わたしがはじめて飼ったアルビノハムスターがきっかけで、赤い眼の動物にはどうも運命を感じやすく、過去に暮らしたモルモット神嵐(カグラ)も赤眼の子でした。
その時の別れを思い出すと辛かったけれど、やっぱりわたしはモルモットが大好きだったので、生活環境を整えていよいよその年の秋に里子に迎える決心をしたのです。世田谷の城へようこそ、赤い眼のモルモットさん。
クリーム色のふわふわ艶めく毛並みとわたし。ふたりぼっちの暮らしが始まった。
赤ちゃんの頃からどっしりとした侍のような存在感。
和柄の座布団がとても似合っていた。
思わず『さん』をつけてしまう佇まい。
辛いときに話しかけると手をぺろぺろとなめて癒してくれた。
寂しいにときは一緒に眠ったりもした。
稲荷はいつでもどこでもマイペースでのんびりしていた。
わたしは外出してもとにかくはやく家に帰りたかった。
鉄砲玉のわたしも家を空けることが少なくなった。
代わりに自宅には友達がお土産をもってたくさん遊びに来るようになった。
お家は賑やかでちっとも寂しくなかった。
癖は右手をしまっちゃうこと。
ある日ふたりに家族が増えた。稲荷とわたしと夫との三人暮らし。
夫は稲荷さんを私たちの子どものように可愛がった。
夫の教育により『おまわり』と『ぺろぺろ』を習得した稲荷さん。
「金髪だから不良息子だ」「天才モルモットだ」とニヤニヤする親バカその2がここに爆誕。
きっと仕事で不在がちのわたしより触れ合っていた。
夫と触れ合うとこんな表情をする稲荷。めろめろか。
美味しくて新鮮な野菜を選んで家族みんなで食べた。
味が不合格だときゃべつの芯だけをきれいに残していて笑いを誘った。
誰かのために生きられるよろこびを知った。
食いしん坊の稲荷にもっともっと美味しいごはんを食べさせてあげたかった。
夫は「稲荷はもういつでも美味しいご飯食べれるんだよ」と言った。
「稲荷はもうここにいないけど美味しいもの探してふわふわ飛んでるよ」と言った。
「だから心配しなくて大丈夫」
夫の背中は泣いていた。
わたしも泣いた。
稲荷さん、今年も夏がきたよ。
日本には死んでしまった日から年ごと回忌として、祥月の命日に法事を行う文化がある。
でもわたしは死んでしまった日を思い出すのはとてもかなしいんだ。
だからこれからもお誕生日に稲荷のことをお祝いするよ。
大好きな夏野菜の真っ赤なトマトとカラフルなピーマン、珍しいかぼちゃを用意したよ。
だからたまには、わたしのところにも飛んできてね。
大好きな稲荷さん。
『You are the apple of my eye!!』