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ドラマができるまで 「バニラな毎日」
今日は、ドラマができるまでとNHK夜ドラ「バニラの毎日」について書きます。
毎日、放送されているドラマができるまでには、想像もできないぐらい多くの人が、関わっており、それらの人々の想いと努力が詰まったものとなっています。
ドラマができるまで
まず、このドラマ制作は、ドラマプロデューサーの企画から始まります。
このドラマプロデューサーとは、「企画や制作などで、0から1を生み出すクリエイティブな作業をおこない、進み出したプロジェクトの全体管理や、全体責任を負う役職」を言います。端的に日本語で表すと「制作者」となります。
プロデューサーは、ドラマのコンセプト、テーマ及びドラマのシノプシス(あらすじ)を大まかに作り、各TV局の「編成」という部門でプレゼンを行い、ドラマ制作の可否が判断されます。
ドラマのシノプシス作りの段階では、小説や漫画の原作を使うのか、それともオリジナルの脚本を使うのか、又は、先に出演する俳優を決めてこのシノプシスを書く場合(あて書き)もあります。そして、流行・世相などを加味しながらテーマを明確にします。
ここで、「Goサイン」が出ると、ドラマ制作が開始されます。
この段階は、テレビ局のドラマプロデューサーだけでなく、外部のドラマ制作会社などからも企画が上がってくる場合もあります。
次に、第1稿の脚本をたたき台にプロデューサー、脚本家、監督・演出(ディレクター等)、テレビ局編成などで会議を開き、具体的な制作プランが検討されます(制作会議)。この時に、出演者やロケ地等が選出されます。
これら出演者やロケ地等が決められると、脚本の細部が推敲され、最終的に決定稿(最終稿)が作られます。
その後は、脚本の最終稿に基づいて、大道具や小道具の製作、美術打ち合わせが行われます。
そして、プロデューサー、脚本家以下、各パートのオールスタッフ、オールキャストが一堂に会し番組の狙いや意気込みを伝え、お互いに人物紹介をして、いよいよ撮影開始となります。(顔合わせ)
顔合わせが終わると、出演者は、座ったままでセリフ等の本読みを行います。この時に、監督や演出家によりセリフの細部表現が検討されます。
この本読みが終了すると、リハーサル → 絵コンテ・カメラ割 → ドライリハーサル → カメラリハーサル → ランスルーとなります。
そして、監督の「本番行きます」の声に合わせて収録スタートします。各部門が持ち場を確認しつつ芝居が進行します。
この本番が終了すると、再度収録したシーンをモニターで再生し、演技やカメラ割そしてノイズなどの機械的なミスをチェクします。不十分な場合は、撮り直しが行われます。
収録が終了すると、収録されたビデオ素材とミキシングにより音入(MA)がされドラマが完成し、これが放映されることとなります。
この一連の流れの中で、登場するのが、プロデューサーを始め、テレビ編成局員、脚本家、監督・演出(ディレクター)、助監督(AD)、タイムキーパー、テクニカルディレクター、カメラマン、ビデオエンジニア、照明、音声、音響効果、編集、衣装、美術、大道具、そして出演者であり、多いときでは何百人程度の規模となる場合もあります。(ドラマの始めや終わりに、テロップで紹介されているのはこの中の一握りの人となります。)
以上が、「ドラマができるまで」です。
しかし、最近、NHKでは、夜ドラのように、若者向けに作られるドラマでは、プロデューサーではなく、若手のディレクターが企画発案する場合があります。
NHK入局4年目、ドラマ部門1年目の若きディレクターが発案企画し、これをベテランの制作統括者そしてチーフ演出者がサポートして完成されたのが、NHK夜ドラ「バニラな毎日」です。
NHK夜ドラ「バニラな毎日」
この夜ドラ枠は、NHK総合にて2022年4月4日から設置されている夜の帯ドラマ番組枠で、毎週月曜日から木曜日の22時45分 - 23時30分の一話15分編成のドラマで、若年層をターゲットゾーンと位置付けて、テレビ離れの著しい若年層にみてもらえる内容の番組を、丁寧にそして挑戦的に制作されています。
この夜ドラの第1作目は、「卒業タイムリミット」。話題作としては、「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」「事件は、その周りで起きている」「作りたい女と食べたい女」「ワタシってサバサバしてるから」など、学園ミステリーやシチュエーションドラマなど、主に、若者に人気のある小説や漫画を原作にしたものが多くあります。
そして、今放送されているのがドラマ「バニラな毎日」です。
このドラマ「バニラな毎日」は、小説家・賀十つばささんによる小説「バニラな毎日」および「バニラなバカンス」を原作としています。
キャッチフレーズは、『明日の自分さえわからないのに、今、幸せになれる。お菓子の力ってすごい』。
主人公は、パティシエの修業を経て夢の洋菓子店を開店した白井葵(蓮佛美沙子)。「夢はかなった」が営業がうまくいかず、その店を閉店しなければならなくなり挫折してしまいます。
そんな時に出会ったのが、陽気でちょっと強引な性格の料理研究家・佐渡谷真奈美(永作博美)。
そして、白井葵は、佐渡谷真奈美と「たった1人のためのお菓子教室」を始めることとなります。
このお菓子教室に来る生徒たちは、皆心に問題を持った者ばかりで生きづらさを感じていましたが、お菓子教室でお菓子を作ることで少しずつ心が開かれ再生されていきます。
白井葵も、最初は、いやいや始めた菓子教室も、佐渡谷真奈美の発する「いいかげんの(良い加減の)」言葉と菓子作りを通して自分の菓子への原点を思い出すようになるのですが・・・
このドラマは、深夜帯のわずか15分のショートドラマでありながら、平均視聴率が7.5%と言う驚異的な数字を打ち立てています。(深夜帯であれば3%超えれば成功と言われています。)
因みに、この視聴率ですが、今放送されている冬期ドラマの中で、一番人気の「御上先生」の次に高い視聴率となっています。
何故、このドラマ「バニラな毎日」が心に刺さるのか?
恐らく、このドラマの原作の持つ力、「日常の中の小さな幸せに気づくことが、一番大切なこと」と言うテーマが、視聴者の琴線に触れたのではと思われます。
また、このドラマの主役である蓮佛美沙子さんと永作博美さんの演技が、このテーマを更に現実味のあるものとしています。
蓮佛美沙子(れんぶつ みさこ)さんは、竹内結子さんのファンで、ドラマ『ランチの女王』を見て女優を志したそうです。
2005年に行われた第1回スーパー・ヒロイン・オーディション ミス・フェニックスのグランプリに選ばれて芸能界入りします。
実は、この時のスーパー・ヒロイン・オーディション ミス・フェニックスでは、3万7千人の応募者の中からトップで選ばれるのですが、この時の審査員特別賞に土屋太鳳さん、そして、歌手で女優である西野カナさんも、このオーディションがキッカケで芸能界入りをしています。
その後、映画初主演『転校生 -さよなら あなた-』(2006年公開)で第81回キネマ旬報ベスト・テン日本映画新人女優賞および第22回高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞します。
また、この映画を監督した大林宣彦さんをして「20年に一度の女優」と言わしめたほどの実力を有していました。
蓮佛美沙子さんは、その自然な演技と存在感により、映画・ドラマで大活躍します。特に、TBS系の「木曜ドラマ劇場」で放送された「37.5℃の涙」、最近では、月9「119エマージェンシーコール」で主演の清野菜名さん演じる粕原雪(かすはら ゆき)の姉・粕原小夏(かすはら こなつ)として出演することとなっています。
幸薄そうなイメージで、どちらかと言うと主演よりも助演が似合う、かすみ草やユリの様に可憐でありながら、同時に雑草のような強さを兼ね備えた、稀有な俳優さんです。
一方、このドラマで主演の蓮佛美沙子さんと共演の永作博美さんも、俳優としては、格段の存在感を持っています。
永作博美さんは、これは以外と知られていませんが、最初はアイドルとして芸能界デビューをします。また、テレビドラマ「世にも不思議な物語」で8度も出演(最多出演)しており、その他テレビドラマでは「Pure Soul〜君が僕を忘れても〜」で主演を演じ、このドラマが、2004年には韓国映画『私の頭の中の消しゴム』としてリメイクされています。
因みに、「私の頭の中の消しゴム」という題名は、永作博美さんが、ドラマの中で言ったセリフだそうです。
また、永作博美さんも、数々の映画やドラマに出演していますが、その代表作と言えるのが「八日目の蝉」です。
この映画は、初日3日間で興収が2億2,125万4,000円、動員が19万6,130人になり映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第5位となります。
また、第35回日本アカデミー賞では10冠を独占し、永作さんも最優秀助演賞を獲得しています。
素晴らしい原作、そして、蓮佛美沙子さんと永作博美さんと言う演技の上手い俳優が揃った本ドラマが、ヒットしたのは当然の成り行きであると思います。
ドラマ作りに大切なこと
やはり、ドラマには、視聴者の心を動かす「瞬間」を作り出すことが、大事であると思っています。
そして、それは、色々な人が集まって、それらの人が、数学の公式のように加減乗除するのではなく、それぞれの人が持つ能力が、お互いに混ざり合って化学反応を引き起こし、感動を生み出しているのです。
さて、「バニラの毎日」も後半戦となっています。このドラマの着地点はどの様になるのか楽しみです。このドラマを見逃した人でも、NHKオンデマンドで第1話から見ることができます。(アマプラ等各プラットホームからNHKオンデマンドに加入することが可能となっています。)
観て後悔しないドラマですので是非見てください。