「1冊の古いフォトアルバム」
南薩の加世田市に住んでいた祖母の家に、面白いフォトアルバムがあった。制作者は父のお兄さん、つまり僕からすれば伯父さんなのだが、太平洋戦争の最中に結核で亡くなっているので、一度も顔を合わせたことはない。
アルバムに収められていた写真は、奇妙なお面を被っていたり、丹下作善の紛争をしていたりと、変わったものが多かった。
友人らと並んで写っている中で、ひとりだけ微笑んで、直立不動で立っている左隣の友人の背後に拳を振り上げているものもあった。
写真には丁寧に説明が書き添えられていたり、漫画が描かれていたりしていて、どのページも面白く構成されていたので、強く興味を引かれ何度となく見返し、アルバムの主だったその伯父に惹かれたことを覚えている。
ある日、そのアルバムを見ていると、祖母が声をかけてきた。
「自分に似ちょっち思どが」
「え? そう思ったことはないけど・・・」
「ほんに似ちょったど。性格とかモノの言い方とか、よう似ちょった。○○ちゃん(※僕の名前)も漫画を描くのが好っじゃっどが。そげなとこまで、よう似ちょっど」
「へえ・・・」
その伯父には憧れに近い気持ちを抱いていたので、そんなことを言われて、ちょっとくすぐったかった。
「そん伯父さんが死ぬ前にな、○○○(※僕の父の名前)の長男になって生まれ変わってくっでち言うたとよ」
「自分が死ぬというときに、よくそんなことを言う余裕があったねぇ」
「おもしとか息子じゃったど、あいは・・・。○○ちゃんが、そげんして写真を食い入るように見ちょっと不思議な感じがすっと。妹たちは、ぜんぜん興味を示さんとけなぁ。そんアルバムは、○○ちゃんにやってもよかど」
「え?ほんと? でも大切なアルバムなんでしょ? いいの?」
「○○ちゃんやっで、よかとよ。あたしはなぁ、○○ちゃんはあいの生まれ変わりじゃっち思ちょっと・・・」
不思議な気分だった。
後日、父にそのことを話すと、
「あんまり似るなよ」
小さめの声でポツリとそう言った。
「どうして?」
真意を測りかねていると、父はこう続けた。
「その伯父さんは、若いうちに病気で亡くなったんだぞ。そんなところまで似るなよ」
僕にとっては不意打ちだった。