見出し画像

「誰かがピアノを弾いている」

 夢を見た。

 20代ソコソコの娘さんが、バルトークのアレグロ・バルバロを弾いている。
 グランド・ピアノとその周辺の空間しか見えていない。

 ステージではなかった。そこがレッスン室なのか、彼女の練習部屋なのか分からない。その娘さんと自分との関係も良く分からない。

 かつての教え子なのか、音大の後輩なのか・・・。

 その演奏振りは、“Barbaro”というよりは、dolce。これまで聴いた誰の演奏とも全くタイプが異なっている。

 しかし、それがなかなか良い。

 どうやら、それは自分の記憶の中に存在する過去の出来事で、夢の中の自分は、それを回想しているらしかった。

 ― あの“Allegro barbaro”、良かったなぁ…

 そう思いながら、その演奏を繰り返し思い出している。弾いていた本人にその感想を伝えたいのだが、古い記憶の中への連絡方法が見つからない。

 伝えられないもどかしさを感じているうちに、いつのまにか、子供の頃習っていたピアノの先生のお宅を訪ねていた。

 呼び鈴を鳴らすと、ドアが開き、先生の娘さんが出てきた。
 年のころ30代半ば。やや小柄。波打つ黒髪を肩まで伸ばし、にこやかに出迎えてくれた。

 部屋では娘さんの弟さん(つまり先生の息子さん)が、子供の生徒を相手にピアノのレッスンを行なっている。弟さんは20代。元気な明るい声で指導している。
 そこに、かつてレッスンしてもらった先生の姿は見えない。

 30代の娘さん、20代の息子さん・・・。先生の御子息にしては、どう考えても若すぎる。

 なぜ今、このような夢を?

いいなと思ったら応援しよう!