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隠れた前提を「狩る」~Black lives matterから考えるクリティカルシンキング~

現代に必要なのは「クリティカルシンキング」

アフリカ系アメリカ人、ジョージ・フロイド氏が警察官に殺害された。

この事件は、世界を今も揺るがしている。

Black lives matter、というスローガンのもと、連日のように抗議活動があちこちで行われている。

そんななかで、私が在籍する学科、Adult learning & leadershipの学生が招集され、緊急ウェビナーが開催された。

テーマは What does critical thinking & critical theory mean for us today? (クリティカルシンキング・クリティカルセオリーが今日の私たちにもたらす意味とは)

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プレゼンターは名物教授、Dr. Stephen Brookfield

ブルックフィールド先生は長年TCで教えていて、スター的な存在でファンも大勢いる。

専門はCritical thinking で、私は来学期先生の授業を履修する予定。

Hunting assumptions - 前提を「狩る」

Critical thinkingは日本語で 批判的思考 と訳されるのだけど、私的にはやっぱり「批判」という言葉が持つマイナスなとらえ方にすごく違和感を感じてしまう。。。

成人学習の大切な根本には、「内在化された前提(assumption)を問う」というものが含まれる。

to help people learn to think critically about the dominant ideologies they have internalized and how these can be challenged.

内在化している支配的なイデオロギーについてクリティカルに考えることを学び、それらにどのように挑戦することができるか、ということ。

assumptionの訳をみると、思い込み・仮定・前提・仮説 など様々な訳がある。

でも、私は「前提」という訳が一番原文を読んでいてしっくりくる。私たちが日々考えていることにはとんでもない数の前提が積み重なっている。

今回のBlack lives matter運動が起こるきっかけとなった出来事にも、前提を問うことが欠如している。

ジョージ・フロイド氏が悪事を働いた→黒人は悪い→こらしめてやらねばいけない→抵抗するだろう→首を絞める というとんでもない前提が積み重なった結果、死を招いた。

反対に、罪のない白人が路上で暴行を受けている動画もみた。

すべての白人は白人至上主義だ→こらしめてやらねばいけない

と逆にこちらも誤った前提から暴行を行っている。

留学中、ネイティブだらけのテーブルとアジア人が多数いるテーブルがあったら迷わず後者を選ぶだろう。そこには「日本人だからなめられてしまうのか?」とか「私はネイティブより立場が下」「アジア人だったら対等に仲良くできそうだ」みたいなどこから植え付けられたかもわからない前提が存在する。

この「前提を問い続ける」ことがCritical thinkingだと今の私は解釈している。(秋学期は Developing Critical thinkersという授業を履修するので、また追々それについての記事は書きたい)

ブルックフィールド先生は Hunting assumptions という表現をする。

直訳すると、前提を「狩る」

私はこの表現を聞いたとき、心が震えた。

まるで獲物が気配を消して隠れているところを捕らえるのは、前提が「日常」に溶け込んですっぽり隠れてしまっているのを見つけ出すのと同じだからだ。

前提を問うということは言葉で表すほど簡単じゃない、

ハンターのような気迫と心構えが必要である。

ハーバーマスが唱える「大人の指標」とは

レクチャーのなかで、ブルックフィールド先生は成人学習の世界でもとても有名な人の名前をだした。

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Jürgen Habermas (ユルゲン・ハーバーマス)

ドイツの社会哲学者だ。Critical theoryの元祖ともいわれている。

(ちなみに90歳でまだご健在!らしい)

ハーバーマスは「大人の指標」(marker of moving into adult)をこう定義している。

The way that you know someone is becoming an adult is when they cease to universalize their own experience. So a marker of moving into adulthood is your understanding that your experience is just that your experience, and you shouldn't universalize it and assume that your experience is the same as others.

他者が「大人」になりつつあると判断できるのは、そのひとが自分の経験を普遍化することを止めたときだ。「大人の指標」とは、あなたの経験はあなたの経験でしかないわけで、普遍化してはならない。あなたの経験が他者とあてはまるということを推測してはならないのである。

○○の店員の対応が悪かった→ 全国の○○は悪い、二度と他の店でも買い物はするものか。

渡部が不倫した→ 男は美人な妻がいながらも浮気をする。男ってやつは。

黒人が殺害された→ 白人至上主義で黒人はひどい扱いを受ける。

黒人が盗みをした→ すべての黒人は悪者だ。

小さな身の回りの出来事から、大きな社会問題まで、

私たちは自分が経験したことも、目でみたことも、すべてを普遍化(universalize)しようとする。

私もついついそうとらえてしまうことはたくさんある。

でも、そこに隠された「前提」はなにか、常に目を光らせなければならない。

余談だが、渡部の不倫のニュースをみたときだって、私はすぐに血相を変えて彼に「渡部が不倫した!!!なんで、佐々木希がいながらどうして!この心境を説明して!!」と怒りマックスのメッセージを送ってしまったのだけど、

それは完全に普遍化しているからだ、、(まだまだ私は大人になりきれない)

自分の経験は自分のものとして、他にはあてはまらないんじゃないか?これは自分だけ経験したことなのか、他も同じことを経験しているのか?と常に問い続けながら前提を狩る必要がありそうだ。

ブルックフィールド先生セミナーのZoomのURL

そして、今回あまりにもテーマが今の時代に重要で、adult learning以外の人も知っておくべきということで学外へのURLのシェアが許可された。

ブルックフィールド先生のオンライン講義が聴けるのは本当にすごいことなので、是非興味がある方はどうぞ!

https://teacherscollege.zoom.us/rec/share/9OpqEu7y7DxLW7fAsRncdpZ_G676X6a8hHAX-vUImEhv8LsRsWQXekvQCNWMH2Bt

パスワードは 2n$06e+1

アメリカの大学院のレクチャーってこんなかんじか!と試しにみていただくのも全然OK!(素晴らしいファシリテートをしているMichaelaはクラスメイトのめちゃくちゃ優しい友人)トータル1時間半程度。

チャットボックスのところにaudio transcriptと自動の書き起こしもあるので、そちらも是非参考に。

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