成人学習理論のおおきな落とし穴
隠れている落とし穴
いきなりなんや!!というタイトルですが、今日は成人学習理論のおおきな落とし穴について。
これまで、数々の成人学習理論や組織学のモデルをご紹介してきました。
しかし、紹介した理論家をみてみると
およそ9割に共通していることがあります。
それはなんでしょう?
チクタクチクタク。
正解は、、、
① 男性
② 白人
③(おじいちゃん)
ということです。
あのコルブさんも、ショーンさんも、ノールズさんも、キーガンさんも、
みんなみんな、男性+白人(おじいちゃんというのは写真が少ないから仕方ないとして)ということです。
つまり、ほとんどの成人学習理論や組織学に関連する理論は「西洋寄り、かつ白人中心の考え方」という落とし穴があります。
これまでこれだけのnoteの記事を書いておいて、それをいっちゃーおしまいよ、なんて思われてしまうかもしれませんが、それでもとても大切なことなので本日はその「落とし穴」と「ふさぎ方」について。
事前リーディングが日本人の研究者だった
そして、昨日新学期が始まったのですが、新年一発目に課題でだされたリーディングはなんと
日本人女性 の研究者の論文でした!!!!
歓喜!!!
これまでたくさんの授業を受けてきて、課題のリーディングもたくさんだされてきましたが、ただでさえアジア系の論文を読むことは少ないのに、そのなかで Ishii (2013) とあったので調べてみたらまさかの日本人女性研究者!
名古屋大学、社会心理学者の石井敬子准教授。
(英語論文の数がすごすぎる・・・)
石井敬子先生が2013にpublishされた、
Culture and the mode of thought: A review
という文献が課題のリーディングにだされていました。
こちらの内容は本当におおまかに要約すると、西洋と東洋の文化的な背景がmode of thought (人間の考え方や物事の捉え方)に影響を与えて違いをだすよね、というものです。
西洋文化は、independence (独立) や individualism (個人主義) の傾向が強く、
反対に東洋文化は、interdependence (相互依存) や collectivism (集産主義) の傾向強い
だからこそ、たとえばノールズのいう Autonomy (自律) や Self directed learning (自己調節学習) がなかなか日本ですんなり広まったりピン!とこない背景ってやっぱり文化的背景が根付いているからなんですよね。
その観点からも、石井先生の論文はその西洋と東洋の文化的背景が私達の認知行動に影響を与えているという違いがすごくつまっていて、来週のディスカッションが楽しみになりました。
理論は文化に合うように変化しつづける
そう、落とし穴があるならそれを「ふさぐこと」も大切。
落とし穴をふさぐような研究は本当にたくさんあります。
たとえば、ノールズの autonomy (自律)。
この autonomy というのはもちろん西洋がベースで、向こうのひとはやっぱり幼少期の教育の段階から「自律的に」「個人で」というのがとても強調されて育っているのでスムーズに理解できる、一方で東洋の文化がそれをなかなか理解できないというのはもう文化的背景が根付いているから「合わない」のはわかりきっていること。
そこで、Marcie Boucouvalas さんという研究者が提唱したのが、
autonomyと対になる、homonomy (同規) という概念。
autonomy が自主的に、自律的に、というのに対して、
homonomyは協調性だったり、集団で、というのを大切に重んじます。
Boucouvalasさんは、autonomy と homonomy のどちらかではなく、「どちらも」必要だとし、このDNAの二重らせん構造のように、自律と強調が関連しあいながら学び続けていくことが大切、というモデルを提唱しました。
こんなかんじで、古典的な理論が文化や、時代背景や、新しいエビデンスによって補強されていき、落とし穴がふさがっていく、というのが研究の面白さだと思います。
落とし穴といっても悪い意味ではなく、その時の時代背景には完璧であっても、時代とともにそれは「合わなくなっていく」ので、小さな穴があいてしまう。
新しい研究はそのうえにまた新しいレイヤー(層)を重ねてどんどん分厚くしていく、そんなイメージを個人的に持っています。
ちょこっと余談その①
(ちょっと余談。1月から医学書院『看護教育』で連載が始まりまして、そのなかで第一回目の今月のテーマにあげたのが autonomy×看護教育です。併せて読んでいただくとぐっとぐっと学びが深まると思いますのでぜひ!!!)
https://www.amazon.co.jp/-/en/dp/B08Q6RKQQV/ref=sr_1_7?dchild=1&qid=1610511521&s=books&sr=1-7
ちょこっと余談その②
ちなみにちなみに、喜びと興奮のあまりに石井先生のお名前を調べたら連絡先が書いてあって勢いのままご連絡してしまったら
お返事が返ってきた!!!!!!!!!!
今年こそ勢いのまま行動しない、と自分に言い聞かせていたのに、新年あけて2週間もたたずに破りました。
きっと見ず知らずのひとから「事前課題のリーディングにあなたの書いた論文が使われました!」と急に連絡が来て困惑させてしまったとおもうけど
でも、とても喜んでくださって、あたたかい応援のメッセージもいただいてすごく嬉しかったです、、、
連絡先がわかったらすぐに連絡、これは2021年も健在かもしれません笑
参考文献
Boucouvalas, M. (2009). Revisiting the concept of self in self-directed learning: Toward a more robust construct for research and practice in a global context. International Journal of Self-Directed Learning, 6 (1).
Ishii, K. (2013). Culture and the mode of thought: A review. Asian Journal of Social Psychology, 16, 123-132.
画像:いらすとや