弟のこと
私には2歳離れた弟がいる。物心ついた時からもう弟は存在していたため、実感としては彼がいない世界で生きていた記憶はない。
幼少期の彼はいつも泣いていた。母の影に隠れて。彼は大きな声で喋ったり、言葉が強い父や祖母を苦手としていた。彼にとっての家族のヒエラルキーとしては第一に母親がいて、母がいなければ仕方なく私、他は論外のような感じだった。
そんな彼も今では接客業に従事し、店の常連さんにかわいがられている。幼少期の彼とはえらい違いだと思うが、きっとこれも母が思う存分彼を受け入れていたから愛着がしっかりと形成されたのだろう。専門学校を卒業したら、すぐに一人で上京してしまった。
彼との思い出はたくさんあるけれど、実家で暮らしている時に、2人で見た戦争特集の番組で同じ所で一緒に泣いた何気ない日のことを思い出す。幼児期に毎日泣いていた彼も、その時にはすっかり泣かなくなっていたけれど、あの特集を見て泣いた。同じところで泣いた時に、彼が弟で良かったとなんで思ったのかはわからないけれど。本当にそう思えたのだ。
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