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映画「悪魔の手毬唄」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第88回
「愛してらしたんですね」(1977年「悪魔の手毬唄」)
文・〝美根〟
市川崑監督・金田一耕助シリーズにハマっております!ということで今回は2作目、「悪魔の手毬唄」!鮮烈な殺人現場発見シーンがまた衝撃的で、人間模様にも魅せられ、トリックも面白い!今回も鷲掴まれました!
【人がすごい多い】
静養のため、知り合いの磯川警部から薦められた鬼首村にやってきた金田一。金田一が泊まる温泉宿「亀の湯」、実はここの主人であった青池源次郎は20年前、ある事件があったことで命を落としたという。磯川警部は実は、その事件の真相を突き止めるべく金田一を鬼首村に呼び寄せたのであった。
この鬼首村にはもともと仁礼家と由良家の2大勢力が存在していたが、20年前、葡萄栽培を始めた仁礼家が優勢に。遅れをとった由良家の元に村の外から恩田幾三という男が現れ、モールづくりを持ちかける。しかしモール製造機を売りつけ終えた途端、恩田は突如姿を消してしまい、由良家は失墜。同じ頃、亀の湯の次男の源次郎が妻のリカと幼い息子・歌名雄を連れて里帰りし、亀の湯の主人となる。村を騒がせた恩田のやり口を詐欺と見抜いた源次郎は単身、恩田を見つけ出し尋ねたところ、逆に返り討ちにあい、殺されてしまう。目撃者は、夫の帰りが遅いことを心配して探しついた妻のリカと庄屋の放庵という男だったが、源次郎と思われる死体の顔は囲炉裏の中で焼かれてしまっていた。また、恩田は当時、鍛冶屋の娘・春江と親しくなり、ゆかりという女の子を産ませていた。20年後の現在、村を出たゆかりは一躍人気歌手として名を馳せ、金田一と磯川警部が捜査を始めたのと時を同じくして村に里帰りをすることになっていた。ゆかりを迎え、歓迎会が始まる頃、歌名雄と交際している由良家の娘・泰子の姿が見えなくなる。捜索の末、滝壺の下で口に漏斗を差し込まれ、さらに上の枡から水が口に流れ込む奇妙な状態の泰子が死体となって発見される。昔の事件に加え、さらなる殺人が起こり、困惑する金田一たちに、泰子の祖母が古くから伝わる手毬唄を聞かせる。その手毬唄の内容は、泰子の死とまさに同じ内容であった・・・。
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【芸術的なカットの連続】
冒頭の「思い出すのも耐えられんのですけぇ、あの沼のことは」のセリフの後、間髪入れずにタイトルばーん!でもう心掴まれちゃう。。
タイトルにもある事件の鍵となる手毬唄が歌われる場面で、黒背景をバックに子供が仮面をかぶって鞠をつくシーンも芸術的かつ不気味で印象に残る。同様に黒バックに鞠だけがスローモーションで跳ねるシーンも。これどうやって撮影したんだろう。
そしてなんといっても、殺人現場がセンセーショナル!今回指輪のモチーフにもした泰子の死体には、漏斗が差し込まれ水をガブガブ飲まされているようななんとも残酷な状態なのだが、この映像作品というアートとして、残酷さのバランスが良い。・・・というと非常にひどい言い方なんだけど・・・。まず、この殺人現場に使われている漏斗と枡は、秤屋(はかりや)のマークが描かれていて、仁礼家を示す、という意味合いがあるのね。ここまではその筋書き的に必要な要素なんだけど、それに加えてこの状態…残酷なんだけど、無闇に猟奇的ではない…というか、まぁ人によりけりだとは思うけど、無闇やたらにスプラッターじゃないのに、でもやっぱ衝撃的で、この必要要素と残酷度合いが絶妙だなと思ったわけです。「ご覧ください、こんなに残酷なことしちゃってます!」って見せびらかすような衝撃度だけを狙ってるわけじゃないのが個人的に良き。まぁ、小説が原作なんですがね。。
そして、2人目の葡萄酒樽の中での死体現場もこれまた、すごい。小判が死体の頭の上でキラキラ光っているのも煌びやかなんだけど、小判を吊るすヒモ!これが赤いヒモなんですわ。これが美しくって。これ赤いヒモにしましょうっていった美術さん天才!小説でも赤いヒモなのかな!?あー読まなきゃ!
…そういった感じで、それぞれのカットがパッと目を引いて、映像作品としても楽しめるのです!
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【映像の巧みな仕掛け】
この映画本編の、ど頭で、若いカップルが猛烈キスしてるところが映る。これはもう痴情のもつれがこの作品の主たるものであると最初に教えてくれているようにも思える印象的なシーン。本作にもまた、ストーリー展開を暗示しているような“映像での説明“が面白い。
村の青年たちの名前があがった時に彼らの顔が順番に映り、あ、この人が〇〇さんね、とわからせてくれる突然の親切設計もユニーク。bgmや挿入されるシーン(冒頭の三味線のとことか、文子の兄が亀の湯へ走ってくるシーンなど…)がバツンと切れたりするのも、また映像に惹きつけられて楽しい。死んだ泰子を抱き抱えて悲しむ歌名雄のバックでbgm盛り上がってんのに、次の瞬間ぶった斬るんだもんね…。容赦無くって好き。
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【磯川さん、あんたァ良い男だよ!】
エッジの効いた「犬神家の一族」に続いて、映像のアーティスティックな面白さは健在なのだが、それにプラスして、本作はドラマ性に富んでいるというか、筋書きの面白さが際立っているように思う。一見ややこしいんだけど、わかってくると、それぞれの愛憎の心が見えてきて、面白い。恩田、いったいどんだけ魅力的だったんだろうか…。翻弄された女性たちの心模様や意気消沈といった様子がまた良い…。そのうちの1人として登場する役で、白石加代子さんが現れて歓喜!お若い頃からお声が素敵なんだなぁ。
そしてなんといってもこの作品で登場する金田一の友人・磯川警部が、渋くて素敵なんだ…。一挙一動が自然で、話しながら火鉢を持ってくる仕草とか、自然すぎてマジ生きてる。金田一が割と淡々とした人物なだけに、対照的に、人情がより感じられる。わざとらしくない人間味が滲み出ていて、低くて少しガラリとした声もかっこよくて、とても良いキャラクター!演じた若山富三郎さんはかなり豪快な人だったらしく…調べてびっくりしたぜ。
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【閉ざされた場所で】
なぜこうも暗く不気味さが漂うのだろう?舞台となる鬼首村の閉ざされた雰囲気に加えて、曇天ばかりの寒空(青空が映るのは冒頭で若い大和田獏さんがギター持ってるシーンくらい)湿地帯が広がっていて…みたいな世界観が、この愛憎劇により影を落とすようで、閉塞感が強まる分、運命に翻弄される悲しさも生まれているように思えた。ブラックポイント高めな彩度も、光が届ききらない日本家屋とマッチして、より冷たく寒々しい雰囲気に感じられて…これって日本独特な面白さなんじゃないかな!?海外の人が見たらどう思うのか知りたくなった!どんどんハマってます、市川崑監督×金田一!
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モチーフ:死んだ泰子、漏斗、枡
音楽:鬼首村の手毬唄
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オルタナティブ・シンガーソングライターの〝美根〟です。
作詞作曲をして、ギターとピアノの二刀流で唄い、自分の世界を届けています。
「みねこ美根」名義で活動していた2018年から、OKMusicさんにてweb連載を続けてきた「映画の指輪のつくり方」。
たくさんお世話になったOKMusicさんのサイト運営終了に伴い、noteに移行して連載を続けています。
毎月、大好きな映画から一つ選んで、それをテーマに指輪を制作。
勝手に皆様へお薦めするレビュー文章、制作作業動画を公開中。動画では劇中歌のカバーも。ぜひ、楽しんでいってください。
私の本業である音楽活動など、さまざまな情報はこちらのリンクからがとても良きです。
私を知るためのキーワードは・・・
オルタナティブ、ライブ活動、ランプ、弾き語りスタイル、バンドスタイル、耳と脳にこびりつく作品たち、心火、焔心の砦、美術館でも展示された指輪たち、自作ストップモーションアニメ、「バズリズム02」BUZZ CLIP出演、MV、毎週水曜生配信番組、2025年1月23日のフルバンドワンマンライブ・・・
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