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映画「ドゥ・ザ・ライト・シング」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第38回

“正しいことをしなさい”とは。
1989年公開映画「ドゥ・ザ・ライト・シング(DO THE RIGHT THING)」
文・みねこ美根(2020年6月15日連載公開)

昨今のコロナ禍に加え、アメリカをはじめ世界各地で、人種差別への抗議デモの規模が拡大している。ニュースや、YouTuberやインフルエンサー、著名人の投稿、そして、#blacklivesmatter。ここで私は文字を打ち込む手を止め、スマホで関連する映像や演説を見てみる。「知ろうとすることだけでもして欲しい。」あるインフルエンサーはそう投稿した。知りたくて映画を見た。でも、立ち上がる人たちの怒りや憎しみを理解しきれたとは言えないし、「理解しました」なんて言うのは浅はかだ、どんなに勉強したって一生言えないと思う。

戦っている人がいる同じ世界で、私は同じ時間を、映画を見て指輪を作ることに使った。何が正しくて、何をすべきなんだろう。完全に理解することはできないのかもしれない、それはどんな人間同士でも当てはまることだけれど、このことは何としてでも理解しようとしなければならない。関係ないはずがないからだ。

「ドゥ・ザ・ライト・シング」は、スパイク・リー監督作品だ。スパイク・リー監督は人種差別を扱う作品で知られている。私は本作と併せて「ブラック・クランズマン」も見た。感想はうまく言えない。ただ、「考えさせられた、興味深かった」という、外野みたいなことは言いたくない。映画を見て終わりではない。ずっと考えていかなくてはいけない。ずっと、ずっと考えていかなくてはいけない。

舞台は炎天下が続くブルックリン。ここは、アフリカ系、アジア系、イタリア系、プエルトリコ系、様々な人種が集まり住む場所。アフリカ系アメリカ人のムーキーは、イタリア系アメリカ人のサルとその二人の息子が営むピザ屋で働いている。バギン・アウトは、ピザ屋の壁にイタリア系の著名人の写真しか飾っていないことに憤り、黒人街なんだから黒人の写真を飾れと抗議する。キング牧師とマルコムXの写真を2ドルで売る白人青年。サルの長男は黒人街から出たいと思っている。ラジオ・ラヒームは今日もラジカセを持ち大音量でパブリック・エナミーを流しながら歩いている。にらみ合う白人警官と黒人男性3人組。アジア系の夫婦は食品や花、日用品を売る商売をしている。お互いがお互いに不満を抱きながら、ぎりぎりの気持ちで生活する人々だったが、張り詰めた糸が切れ、状況が大きく変わっていく。

斜めから見上げるアングルや、登場人物がこちらに語り掛けてくる、叫んでくる場面は、私たちをただの観客ではなく、当事者であれ、と映画の中に引っ張り込んでくれる。お互いにお互いの人種を差別する発言をカメラに向かって叫ぶ登場人物たち。差別、差別への抗議、社会。それがどれだけ複雑で混沌としていて、私たちがメディアで見ていることがいかに“切り抜かれた一場面”でしかないか、ということを目の当たりにする。○○vs○○ではない。そして、帰属意識・アイデンティティ、という概念を切り離して話すことはできない。「ブラック・クランズマン」ではユダヤ人のフィリップが「差別されることで自分が何者かを意識せざるを得ない。」と言った旨のセリフを言う。差別と一言で言っても、する人・被る人、説明しきれない気持ちや根強い固定観念、思い込み、様々なものが含まれていることを思い知る。

ある黒人男性はちょっとした外出でも、疑われたり警官に目を付けられる余地がないように身なりに細心の注意を払ってから出かける、という記事を見た。殺される危険があるからだ。この記事を読むまで知らなかった。外出している間、そして家にいても(実際に自宅で無抵抗であるにもかかわらず警官に撃たれ亡くなった方もいる。)、命の危険を感じなくてはいけない。

デモが行われる中、店や街を荒らすのは良くないという意見もあれば、そういう人たちはほんの一部だという意見もあるし、そもそも強奪や破壊といった行為に至ってしまった理由や背景を考えるべきだという意見もある。

ひとつ書き記すならば。国、民族、人種、外見、性別、性的指向、職業、年齢、といった大きな枠のイメージを個人に向け、人格やプライベートな部分を決めつけたり、それを理由に不当な行為を行ってはいけない、ということだ。これまで生きてきて差別したことがないという人は果たしているだろうか。何か決めつけていることはないだろうか。持っているイメージは本当なんだろうか。何を根拠にそのイメージを抱いているのだろうか。逆に、差別されたことのない人はいるのだろうか。差別されたことに気づくだろうか。それは間違っていると指摘できるだろうか。何が私たちを不快にさせ、怒らせ、憎しみを生じさせるのだろうか。状況を打破するために私たちは何をすべきだろうか。

私たちは、自分自身の潜在的な差別意識にどこまで気が付き、それを正し、自分が置かれている状況をどれだけ理解して、良い未来に繋げられるだろうか。繋げなくてはいけない。そこで生きていくのは自分たちだから。

そして今世界で起こっているデモや抗議の中心にある人種差別は、根深い歴史と潜在的な意識、経済的格差、伴う教育格差、宗教、帰属意識、そして多様な主張、が絡まり合っている。勉強してすぐには理解できないかもしれない。私は今安全な家にいて、リスクがないから、偉そうに言えているだけかもしれない。私も誰かを傷つけているかもしれない。差別と感じさせる表現をしてしまったかもしれない。だとしたらどうか教えて欲しい。気が付いて直したいんです。「DO THE RIGHT THING」。「正しいことをしなさい」。正しいことって何。だから勉強します。投票します。信念を持ち続けます。あなたと会話をして、あなたを知って、あなたの名前を呼びます。

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モチーフ:燃えるサルのピザ屋(場面を再現しました。意図はありません。)、ピザ屋の店内に転がる机と写真、ラジオ・ラヒームのラジカセ、ラジオ・ラヒームのLOVEとHATE、赤い花、ピザの箱とピザ
音楽:Al Jarreau 「Never Explain Love」オルゴールver.cover

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