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アメリカ最新小売業情勢 2025 明暗分かれるウォルマート・ウォルグリーン
近年のDgS業界の情勢
複合的な原因により窮地に立たされるDgS業界
2022年から2023年にかけてオピオイド(強力な麻薬性の鎮痛薬)の集団訴訟への対応を迫られ、アメリカで薬局を運営する企業はいずれも苦戦を強いられた。
オピオイドを供給していた複数の製薬会社のうち倒産に追い込まれた企業もある。調剤薬局も集団訴訟の対象となり、規模の大きなウォルマート、CVS、ウォルグリーンは和解金として合計130億ドル(約1兆9,500億円)を支払うことに合意した。
加えて、フロントエンド(調剤以外の部門)の不振も追い打ちをかけている。化粧品はセフォラやアルタといった専門チェーンに客を奪われ、その他物販も調剤の業績が順調だったこともあり、危機感が薄れ競争力を失っている。
さらに、ECにおいても、アマゾンやウォルマート、ターゲットなどに大きく後れを取っている。あるアナリストは「パンデミック前から医薬品やノンフードの買物でウォルグリーンやCVSのECサイトを利用しようと考える消費者は皆無に等しかったことに加え、価格の甘さからインフレにより物価上昇が続いた2022~2023年には逆に店頭の客離れを助長することにつながった」とコメントしている。
これらの問題に加え2022年には調剤薬局が収益性を保つための最後のとりでともいえる公的医療保険や民間保険会社の処方薬の薬局への支払いを代行するPBM(薬剤給付管理会社。保険会社と契約し製薬会社や調剤チェーンと交渉して薬価を下げて、医療費の高騰を防ぐことを事業目的のひとつにしている)各社が償還率を大幅に下げたことも調剤薬局の収益性の低下につながった。
PBMを巡っては、医薬品の流通を複雑化し不透明な部分が多いと存在意義を問う論戦が繰り広げられている。CVSは2007年に大手PBMのケアマークを買収。ウォルグリーンは2009年に大手民間医療保険会社ブルー・クロスとの提携でPBM事業に参入したものの2011年3月に本業に注力するという理由で事業譲渡している。
以下本記事では1万文字以上でウォルグリーンとウォルマート2社の分析をしています。目次はこちら。
ウォルグリーン
140.7億ドル(約2兆円)以上の大幅な赤字に転落
2024年期の連結決算は、コロナ禍の時期はワクチン注射や検査キットなどで黒字を維持していたが、オピオイドの和解金の支払いや一次医療クリニックと中国投資の減損処理やフロントエンドの販売不振、そして大手PBM各社による処方薬の償還率の低下が利益を大きく圧迫し、140億7,600万ドル(約2兆1,114億円)の赤字に転落した。
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