来場者とここに“居ない"人を繋ぐ体験設計
美術館では、「インクルーシブ」や「アクセシビリティ」といった多様性への理解が年々高まっているように感じます。音声ガイド、手話通訳付きツアー、多言語表示を見かけることも珍しくありません。
今回の【勝手に分析!Good CX】は、美術館で出会った、あるインクルーシブなアート作品について分析していきます。
遠くにいる人との繊細な接続
先日訪れた、東京都現代美術館の展示に、こんな仕掛けがありました。
エントランスを入ると、大小様々な丸いライトが吊り下げられ、照明のOn/Offがまばらに灯されていました。
この光景がすこし不思議に思ったものの、そのまま展示をぐるりとまわり、最後に説明書きを読んで、この謎が解けました。
なるほど。
ライトひとつひとつについている見守りカメラを通して、どこかにいる誰かが、自室から照らしているそうなのです。私は、来たいと思ってこの日美術館に来ることができた、ということに気づきはっとしました。
同時に、いろんな理由で来場ができなかった、遠くにいる人との繊細な接続を感じた体験でした。
無意識に排除しないCX
この体験をCX(顧客体験)の視点で振り返ってみます。
手触り感のある灯りによって、「ここにいない」人の存在を感じた体験でした。展示などの情報を助けるための施策(多言語表示、音声ガイド)は比較的簡単に実行できますが、そもそも自分の足で「来場することが出来ない」人にCXを届けるには、環境整備から取り組まないといけません。感覚過敏の人にセンサリールームを用意しておいたり、遠隔からでも参加できる手段を用意しておいたり。
多様性が考慮される現代においても、その中で可視化されにくい人の存在があると思います。この人たちを無意識に排除しない取り組みをアートプロジェクトとしてではなく、デパートの化粧品売り場で、車の試乗会場で、実現するとしたらどんな工夫ができるでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございます。
さらに気になった方はこちらをご覧ください。
「アイムヒアプロジェクト ここに居ない人の灯り/ 渡辺篤」
https://lnkd.in/gRTWD8cV
(執筆者:デザインリサーチャー 今川草乃花)
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