そっちじゃない…
母と私は、知りませんでした。
すき焼きの割り下なるものを。
何しろ、関西では、すき焼きに割り下を使うことはないのですから。
すき焼き鍋に、砂糖や醤油などの調味料を直接入れるのが関西風。
関東へやって来たばかりの母と私が、百貨店を歩いていたところ…。
お肉屋のおじさんが、すき焼きの試食を行っていました。
確か、お店の名前は、「柿安」だったかと…。
早速、試食のすき焼きを食べてみたところ、とても美味しいではありませんか!
すき焼き鍋の横には、謎の調味料「割り下」なるものが置かれていました。
これを見た母。
「なんや、この『割り下』とかいうヤツ、美味しいやんか!」
「割り下がうまいねん!」
「割り下が!」
感激する親子を、目を丸くして、不思議そうに見つめるお肉屋のおじさん。
しばし、沈黙。
そして、言いました。
「お客さん、お肉がおいしいの!」
「お肉が!」
しかし、初めて目にする割り下への興味が強すぎる母。
割り下の瓶を握りしめたまま、お肉のことなんか、そっちのけ。
「これが、うまいねん!」
全くお肉に興味を示してくれない我々に、呆れるおじさん。
きっと、変なお客さんだと思ったに違いないのでした(笑)…。