鬼才レオス・カラックスが描く世界~アネット
編集部のエイミーです。
「映画館で見る映画の良さを多くの人に伝えたい」
そんな思いで映画と映画館愛を語ります。
「ポンヌフの恋人」「汚れた血」などを監督した鬼才レオス・カラックスが手掛けた映画「アネット」(140分)を見ました。
鑑賞映画館は、広島の中心地に位置する「サロンシネマ」です。ロビーで上を見上げると、ぐるりと映画のワンシーンが描いてあり、映画愛を感じる劇場のつくりがうれしくなります。
挑発的で攻撃的な人気スタンダップ・コメディアン、ヘンリー(アダム・ドライバー)と、国際的に有名なオペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)。スタイルの全く違う分野で活躍する2人は恋に落ち、メディアや人々の注目と称賛の的になります。やがて、2人の間に「アネット」が生まれます。そこから、彼らの人生が少しずつ崩れ始めます。
ほとんどのセリフが歌で描かれ、不穏な空気と抽象的な表現で展開される今作。鬼才と言われるレオス・カラックスらしいパンチのある作品でした。
冒頭から圧倒されます。まず、音楽スタジオで演奏準備をしている人たちが映し出されます。演奏が始まると皆で歌いながら夜の街に出て行き、主演のアダム・ドライバーとマリオン・コティヤールと合流。2人が衣装を身に着けると物語の世界が始まります。映画と現実の境目があいまいで、観客は何を見せられているのか迷い、動揺します。その反応を楽しむかのように、物語は転がるようなスピードで展開していきます。
秀逸な演技を見せるのが、スタンダップ・コメディアンを演じるドライバー。顔を覆い隠すようにフードをかぶり、ボソボソと喋っているかと思えば、急に歌い出すというパフォーマンスは、観客を一気に彼の世界へ引きずり込み、鳥肌が立つほどです。一切、笑顔を見せないドライバーは、まるで何かにとりつかれたよう。カルト的なカリスマ性を感じます。劇中、コメディアンとして演じていたはずのダークな部分が現実世界でも顔を出し、破滅への道へ進んでいきます。その狂気の様子はドライバーの迫力ある演技に助けられ、美しくすら見えてきます。
そして生まれてきたかわいいアネットはなんと、パペット(操り人形)なのです。パペットのまま、すくすくと育ち、やがて両親の運命を左右する存在に…。
エゴや妬み、欲など触れられたくない人間の黒い部分を美しく、するどく、深く描いた作品でした。
・映画館が日常になりますように・
・ありがとう。この世界の片隅にうちを見つけてくれて・
(編集部・エイミー)