【議論/詭弁】③ 詭弁を見抜くための『論理病をなおす!』 その1
こんにちは、白山鳩です! クルッポゥ!
マガジン『能ある鳩はMBA② ビジネススキルで豆鉄砲』での、ビジネススキルにまつわる情報の紹介です。
前回までの『議論入門』に関する記事はこちらです。↓↓↓
今回は『議論入門』の著者・香西先生の、
『論理病をなおす!』
から、「詭弁とは何か、何が詭弁でないのか」について見ていきます。
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詭弁の型を学ぶ
今回取り上げる内容は『論理病をなおす!』からの引用です。
論理病……ビジネススクールに通うロジカルモンスターたちが聞けば、血相変えて怒り狂いそうなタイトルです。
さて、なにゆえこの本はこんなタイトルを冠することとなったのか。
そして、「詭弁を学ぶことの効能」とは何なのか。
同書の序文を覗いてみましょう。
第一に、詭弁を学ぶことで、相手の詭弁に騙されなくなる、
というのは多くの人が思いつくことであろうが、
これは間違いである。
少なくとも、半分は間違いである。
相手の詭弁に騙されることはマイナスであろうが、
騙されないことはまだマイナスでない、ゼロの状態にすぎない。
そんな消極的なものは効能の名に値しない。
だからここでは、より積極的に、次のように言い換えよう。
「詭弁を学ぶことで、相手の用いた詭弁を自らの議論の武器にすることができる」と。
第二に、したがって、詭弁を学ぶことで、
それを用いて議論の相手を翻弄することができる、
という考えも間違いである。
詭弁を学べば、詭弁を使うようになるのではなく、
むしろ安易に詭弁など使えなくなる。
自分が相手の詭弁を見分けられるようになったため、
逆にこちらが詭弁を使っても、すぐに見破られるのではないかと恐れてしまうからだ。
読者の中には、議論に強くなりたいと思って、本書を手に取った方もおられるだろう。
だが、その議論に強くなりたいとは、
例えば芸人が同業者をイジるときのように、
喋りの反射神経だけで相手を手玉に取るような議論がしたいわけではないだろう。
ただ議論に強くなりたいのではなく、
思考力そのものを高めて議論に強くなりたいはずである。
詭弁を学ぶことは、この思考力の向上に役立つ。
なぜなら、詭弁を研究、勉強することで、
人間がものを考えるときの本質的な「癖」のようなものが見えてくるからである。
これが詭弁を学ぶことの、第三の――そして最も重要な――効能である。
ビジネススクールはロジカルシンキングにたいそうな信仰を持ちますが、
ロジカルだけでは辿り着けない境地がある、
といったところでしょうか。
相手の詭弁の裏をかき、
自分が詭弁を用いるのを自制し、
人間に備わった思考の癖を明らかにする。
詭弁を学ぶことには、こんな効能がある、というわけですね。
詭弁に騙される人は、
単に馬鹿だから騙されるのではなく、
人間の思考が、そのようなものを受け入れてしまう癖をもっているから騙されるのである。
詭弁の型① 多義あるいは曖昧の詭弁
というわけで、実際の詭弁の例を見ていきましょう。
詭弁の呼吸・壱の型は「多義あるいは曖昧の詭弁」と呼ばれるものです
(これが本当の「噓柱」、といったところでしょうか)。
「多義あるいは曖昧の詭弁」は次のように定義されています。
議論(論証)中に現れる言葉が複数の意味で使用されることにより、
また何を指すのかが判然としないまま用いられることによって、
議論に不正を生じさせる詭弁のこと
このままでは意味がとりにくいですね。
もう少し見てみましょう。
「多義あるいは曖昧の詭弁」について、『論理病をなおす!』ではこんな事例が挙げられています。
教師はジュースではなく水のようであるべきだ。
ジュースは美味しいが、生きていくには必ずしも必要ではない。
水はジュースほど美味しくはないが、水がなくては生きてはゆけない。
この議論が、多義あるいは曖昧の詭弁に陥っていることは明白である。
三文目の
「水はジュースほど美味しくはないが、水がなくては生きてはゆけない」
で「水」という言葉が二回現れるが、
最初の「水」が無色・無味・無臭のいわゆる「真水」のことであるのに対し、
次の「水」は「水分」一般を指している。
一文の中に出てくる「水」という言葉を二度出しながら、それぞれを違った意味で使っている点が詭弁だ、というわけですね。
ただし同書は一方で、注意書きをしておけば「詭弁だ」と言われるのを避けることができるともしています。
多義は、多義の語を一義であるかのごとく用いた場合にのみ詭弁となるのであって、「ある意味で」を付けていればその一義でないことは公然である。
これを踏まえれば、「水はジュースほど美味しくはないが、水がなくては生きてはゆけない。」は次のように言い換えると詭弁ではなくなります。
水はジュースほど美味しくはないが、水分としての「水」がなくては生きてはゆけない。
不寛容の原理:「多義あるいは曖昧の詭弁」の応用
相手の議論が複数の意味で理解されるとき、
「相手の不利になるよう解釈すること」を、
「不寛容の原理」と呼んでいます。
これまでに扱ってきた多義あるいは曖昧の詭弁は、
論者が自らの議論の中で、同じ語を多義に使用することによって発生するものであった。
が、これ以外に、相手の議論中に現れる言葉が多義的であることに乗じ、
相手の意図したであろうことを無視して、
なるたけそれを不合理で馬鹿げた意味に解釈し、
それによって相手の議論全体を葬り去ろうとする
――あるいはこちらの主張に有利なように変質させてしまう
――ような詭弁がありうる。
不寛容の原理の例として、「足を挫いて歩けない」と言う人に対し、
その人がちょっとでも歩いている様子を見て、
「歩けるじゃないか!」と咎めることが挙がっています。
「相当な無理をしないと、歩くことができない」状態の人に対して、
「歩けるじゃないか!」と指摘し、
相手を嘘つき呼ばわりする……これは不寛容だ、というわけですね。
同様に、腕をギプスで固めている怪我人が、筋肉だけで石膏を爆発させたとしても、その様子を見て、
「怪我なんてしていないじゃないか!」
と咎めるのも不寛容というものでしょう。
これを見て「怪我なんてしていないじゃないか!」は不寛容
その怪我人は、
「相当な無理をしないと、筋肉だけで石膏を爆発させられない」
状態だったかもしれません。
多義・曖昧を取り除く難しさ
さて、『議論入門』でも「情緒的・評価的定義」には気をつけろ、という話がありました。
「良い/悪い」
「偉い・立派だ・すばらしい」
といった、曖昧で評価的意味が強い言葉は、恣意的に定義されやすいためです。
この手の言葉を定義する難しさは、『論理病をなおす!』でも指摘されています。
例えば、
「A大学とB大学ではどちらがいい大学か」
で言い争っているとき、
A大学側が、
「『いい大学』を『偏差値の高い大学』の意味で用いるなら、
A大学の方がB大学よりもいい大学だ」
と意味を限定したところで、
B大学の支持者はそうした限定そのものを認めまい。
「偏差値が高ければそれでいい大学なのか」
と、かえって反発を強めるだろう。
彼らは逆に、
B大学の方がいい大学となるような、
「いい大学」の限定的意味を持ちだしてくるに違いない。
(中略)
曖昧な言葉の曖昧さを解消するために、
意味を限定し明確にするように見せて、
実際はこちらの手持ちの材料を有力な根拠に変貌させようとしているにすぎない。
すでにみたように、
曖昧な言葉はそれゆえに論証に不正・不備を生じさせるが、
曖昧さを取り除こうとすることもまた、
新たな詭弁を発生させる温床となりうるのである。
ある言葉の意味について議論しているとき、
その定義があまりにぼんやりしていると、
人によって言っていることがバラバラでまったく話が噛み合わない、
ということがあります。
一方で、「それじゃあ定義しようじゃないか」となったとき、
その定義の方法に気を付けなければ、
相手に都合のいい定義にされる可能性もある
というわけです。
いずれにしても、
「どんなときに詭弁が生まれるか」
のパターンを知っておくことで、
「詭弁に騙されること/自分が詭弁を用いてしまうこと」
のいずれにも注意できる、というわけですね。
まとめ
以上、議論の技を学ぶための『論理病をなおす!』を見てきました。
ここまでの内容を振り返りましょう。
【詭弁を学ぶことの効能】
①詭弁を学ぶことで、相手の用いた詭弁を自らの議論の武器にできる
②安易に詭弁を使わなくなる
③詭弁を学ぶことは、思考力の向上に役立つ
【多義あるいは曖昧の詭弁】
・ある文章で、1つの言葉が、違う意味で用いられる詭弁。
・「ある意味で」と注意書きをしておけば、この詭弁は避けられる。
【不寛容の原理】
・相手の言葉の意味を、こちらに都合がよく、相手に不都合なように、勝手に解釈すること。
【多義・曖昧さを取り除く難しさ】
共通認識を持つために言葉を定義しようとしたとき、
その定義の方法に気を付けなければ、
相手に都合のいい定義にされる可能性もある
いかがでしたでしょうか。
この記事をお楽しみいただけた方は、ぜひ次の記事もご覧ください!
次回の記事でも、引き続き『論理病をなおす!』から、
「藁人形攻撃」
「人に訴える議論」
「性急な一般化」
を見ていきます。
お楽しみに。
to be continued...
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