覗いてみよう!生物の不思議 #06
バナナを食べる動物と言えば?と聞かれて、真っ先に思い浮かぶのはきっと「猿」だと思います。猿はバナナにとても目がなく、バナナが目の前にあれば飛びついて食べることでしょう。実はバナナだけでなく、猿と甘い果物は切っても切れない関係にあります。
しかし、熱帯林には私たちの常識を覆す猿たちが住んでいます。バナナはもちろんのこと、マンゴーやリンゴなどの甘い果物には手も付けないのです。さらに、この猿たちは甘い果物を食べると健康に致命的な悪影響を受けてしまいます。
そんなバナナ嫌いの猿は「テングザル」と言います。テングザルのオスは10cmも下に垂れた分厚い鼻を持っており、ラッパ音のような力強い音を出すときに鼻がすっと立ちます。この独特な外見を持つテングザルは他の猿とは異なる食習慣を持っています。初めに話した通りテングザルは甘い果物が嫌いです。生物学者のブーンラタナ博士は、テングザルの主食は木の葉っぱや種で、果物も熟しているものより熟していないものだけ好んで食べるということを発見しました。
また、京都大学の松田一希博士もテングザルの餌を調査したところ、66%は若葉、26%は果物、8%は花であり、これらの果物のうち90.4%が熟していない果物であると発表しました。それに加え、熟した果物の場合でも果物を食べるというよりは、果物の果肉をすべて取り除いて種だけを食べる姿が頻繁に観察されたのです。
ここで一つ疑問に思うことがありませんか?熟した果物を食べた方がもっと栄養が取れるはずなのに、どうしてそうしないのか。
この答えは、餌の取り合いによるものだと進化生物学者たちは主張しています。
テングザルの住むカリマンタンの森には数十種類の霊長類が生息しており、餌の取り合いが激しいため、この競争で生き残るためにテングザルは栄養価が低くても、周辺に散らばっていて探しやすい葉っぱを食べる方向に進化したのだというのです。
このような方向に進化した結果、これらの猿たちの腸には植物細胞壁を消化させるセルロース分解菌が存在するようになりました。この細菌があることで木の葉っぱを難なく消化することができるが、果物の糖分を分解することができないため、テングザルは甘い果物を食べると消化不良になったり、酷い場合は死んでしまったりすることもあります。
不思議なことに、これらのセルロース菌を持ったテングザルは野生のテングザルのみで、動物園や研究所などの飼育施設で幼いころから果物を与えられながら育ったテングザルは、腸内の細菌の種類が変わるため大きくなってからも果物を平気で食べることができるのです。
さらに、テングザルの他の特徴を見てみると他の猿にあるはずの「頬袋」がありません。それは、餌の取り合いをすることがそれほどないため、頬に餌を溜めずとも飢え死にすることがないからです。
他の猿も、果物だけでなく木の根を食べたりウサギのような小動物を捕食したり、竹を食べたりと、思っている以上にいろんな食べ物を食べています。
私たちが持っている、すべての猿は甘い果物を好きになるという考えは偏見なのかもしれませんね。