白人紳士の涙と男女不平等とニワトリと卵
これはちょっと思い切って提出させてもらいたい。失礼に受け取られるかもしれないけれど。きっと長くなる。
昔のアメリカでの話だ。なんだか仕事の流れで、サンフランシスコからシリコンバレー方面へ電車で行ったときの話だ。
いつもクルマだったから知らなかったが、存外に〝電車通勤〟している人たちは多いようで、朝遅くの車内でも半分近く席が埋まっていた。
「Japanese, aren’t you?」
4人掛けの席の向かいに座っていた白人紳士が、すぐに声をかけてきた。とても親しげに。
「日本人だね?」
「ええ。よくわかりましたね?」
「そりゃあわかるさーー」
乗っている時間がそんなに長くないからか、彼はすぐに本題に入った。
「僕の前の妻は日本人だったんだよ」
「へぇ、そうなんですか」
紳士、小さな笑みと悲しげな目を僕に向け、じっと見つめる。ほうら、だから朝からいきなり〝本題〟だ。
僕は聞き役になる。嫌いじゃない。むしろ進んでやるほうだーー、
「どうして離婚したんです?」
紳士、用意していた小さな笑みと悲しい目を駆使して言うーー、
She ignores me.
彼女はね、僕を無視するんだ。
「Uh, I see. ああ、なるほどね」
「それも1日や2日じゃない。何週間も、それ以上も、口をきいてくれないんだ」
「I’m sorry‥‥‥かわいそうに‥‥‥」
「君ならわかるだろう? 日本人だから、わかってくれるだろう? 同僚たちや周りの者に言っても、だれもわかってくれないんだ。『そんなことあるはずないだろう?』って」
「わかりますよ、わかりますとも。何年間一緒にいたんです?」
「Two and a half years」
「2年半、そりゃあ、頑張りましたね。別れたのは?」
「もうすぐ半年になるよ」
「で、彼女が不機嫌だった理由は? 今はわかってます?」
「わからないよ。わからないんだ。なにが不満だったのか‥‥‥なにをしてほしかったのか‥‥‥謎のままさ‥‥‥Mysteryだよ‥‥‥」
「でしょうね‥‥‥だろうと思ってました‥‥‥さぞや痛かったでしょうね」
〝痛かった〟というのは英語的表現だ。
It must've been so painful.
そのあたりで、先に僕の駅に到着した。
立ち上がると、グレースーツに黄色ネクタイの粋な白人紳士は、小さな笑みと濡らしきった瞳で僕を見上げ、言ったーー、
「話すことができてとても嬉しかったよ。わかってもらえて。You eased my mind. 心を楽にしてもらえたよ」
郊外の駅にはプラットフォームなどない。タラップを降り、ユーカリ樹の並ぶ開放的な大地に下り立ち、僕は青い電車を見上げ、窓の中に紳士を見つけーー、
「Have a brand new day!」
声をかけ、笑顔が見えなくなるまでそこに立っていた。
カリフォルニアの太陽は、今日も明るくあっけらかんと、僕を照らしていた。〈おわり〉
ーー終わらないっっ!
〝ムシムシ攻撃〟という言葉があるそうだ。
その後僕は、サンフランシスコ在住の友人女性たちにこの話をし、意見を求めてみたのだ。
一様に、「わかる」、「やったことある」という入り口から、話を進めてゆくと、やがてどの女性もこんな見解に到達したーー、
「彼女、アメリカに来て日が浅いんじゃない?」
アメリカ人だけではない。日本人以外の男性と恋人付き合いするようになると、言語の次に、〝会話〟の壁が立ち塞がるものらしい。
〝話し合う〟のだ。
喧嘩ではない、Argument/口論でもない。Discussionだ。
人間が二人いれば、いろんな〝違い〟がある。当たり前に。
露呈してゆく違いについてーー、
「朝まで話したりするよね?」
「そうそう。最初はとっても疲れた」
「でもそのうち、そんなに長く話し合わなくてもいいように、普段からなんでも言い合うようになる」
「そう! 最初から機嫌を損ねたりする必要ないのよね。ただ、言ってみるだけ。溜めたりせずに、そのときに」
「感情的になる必要ないものね」
「お互いに変わってゆくしね」
「どうしても合わないなら合わないって、そこのところでわかるわよね」
「変な駆け引きしなくなったよね?」
「うん。それにさぁ、感情を出し合うときってさ、あれじゃない? その後の仲直りが前提じゃない? ね? その後のさ、熱いやつ」
「ふふ、そうなのよねぇ~、この間もさぁ~ーー」
すでに僕は蚊帳の外である。
不機嫌でいて、どんな〝得すること〟があるのだろう? 心理学が言うには〝無視〟は、最も心にダメージを与える〝最大効果の攻撃〟なんだそうだ。
愛の真逆にあるものーーとの定義もある。
たとえばその間に伴侶が交通事故に遭ったり、会社をレイオフされたりしたら、どうするのだろう?
日本経済を停滞させている、ビジネス効率を低下させる原因は〝日本人がいじわるだから〟ーーというのは、2022年の大阪大学の研究報告だ。
(僕もつい先ごろ、仕事で赴いた場所で〝うるさ型〟とか呼ばれて自分の存在意義を認められたと思い込んでいるような、不機嫌顔女性たちを見た。この国最大手のモールなのだ。その事務所の中。いまだに? なんという後進国かと、驚いた)
この国のGender Inequality/男女不平等は、世界120位だそうだ。海外の報告ではStubborn Problemと呼ばれている。「頑固で根強い」と。
〈Source: World Economic Forum’s Global Gender Gap Report 2021〉https://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2021.pdf
119位はアンゴラ共和国だったりする。アフリカのどこかだ。ガーナ、ギニア、アンゴラーーの順に並んでいる。マレーシアが112位。125位タジキスタンよりは上だ。中央アジア?
変化を妨げている要因は、いったいどこにあるのだろうかーーと、考えてみているところ‥‥‥。
根強く残った封建主義と男尊女卑ーーたとえば親子間のまともな〝会話〟が足りないままなのではないかーーなどとも思ってみている‥‥‥。
ニワトリが先か、卵が先か‥‥‥
親が変わらないから、子どもがかわらないのか‥‥‥
男が変わらないから、女性が変わらないのか‥‥‥
変わらない社会が先か、それとも人間が変わらないから、社会が変わらないのか‥‥‥わからないままなのだが、どうなのだろう?
ともあれソクラテスは言うーー、
人間最大の不幸、Misologos
訳すなら〝言論嫌い〟であり〝対話拒否〟だ。
もっと話せばいいだけじゃないのか?ーーとも思うが、どうなのだろう?
ともあれこれは、声を大にして言おう!
だから! 笑顔が足りない!
むしろ怖いぞ! 楽しくないぞ!
Thanks for reading!
LOVE and PEACE,
MAZKIYO
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