バルタン考
バルタン星人も歯磨きをするのだろうか。昨日バルタン星人のことを考え出してしまい、それからずっとそのことを考えている。
ネットでバルタン星人の生態を調べてみる。今やるべきことは後回しにするくせにこういうことはすぐに調べる私。本当はレンタルしているポケットwifiの返却申請をやらないといけない。早くしないと来月の料金が発生してしまうから。でもいいんだ。今はバルタン星人の研究が大事なんだ。
なんて強力なハサミなんだ。こんなので挟まれたら人類はみんな真っ二つになってしまう。その上ものすごく素早くて視力が良いときている。1万メートルってことは10キロだから、博多駅から福岡タワーの米粒が見えるってことか。一度見つかるともう逃げられない。
でも接近戦が苦手とも書いてある。ということは、逆に近くが見えにくいということか。究極の老眼だ。歯ブラシを持とうにも強力なハサミで持ち手を切ってしまいそうだし、自分の手元がよく見えないのなら歯磨きも下手そうだ。バルタン星人はどうやって歯磨きをしてるんだろうか。
休日に彼女とデートをするバルタン星人。隣を歩く恋人の手を繋ぎたいが傷つけてしまうので手を出せないのがもどかしい。考えてきたくだらない話で笑わせるも彼女の笑顔がぼやけてよく見えない。でもなんとなく、相手も自分に好意を持っている感じが伝わってくる。
レストランで食事をした後(そういえば何を食べるんだろう)、夜景の見える展望台までマッハ5で行く2人。マッハ5は時速6174キロだから100キロ先の展望台だとしても1分かからないくらいで着く。ここからは街をきれいに見渡すことができる。視力がいいから通行人までくっきり見える。
「フォッフォ!フォッフォッフォッフォッ、フォッフォッ(見て!あの10キロ先の人が持ってる鉄バッグに描いてるザリガニのイラスト、とてもかわいいわ)」
「フォッフォッ。フォッ、フォッフォッフォッフォッ(ほんとだ。でも、あのイラストより君のほうがずっとかわいい)」
「フォッ……」
そっと唇を重ねる2人。でも、お互い口臭がキツい。歯磨きがあまり上手じゃないからだ。体も上手に洗えないのでちょっと汗臭さもある。そんな愛のハードルをいくつも超えてバルタン星人は家族になっていくのか。大変だな。
wikipediaによると、バルタン星人は狂った科学者が行った核実験によって母星を失い、たまたま宇宙旅行中だったことから難を逃れた20億3千万人の同胞と共に宇宙船で放浪していたんだそう。そう考えると侵略者のバルタン星人にも少し同情してしまうところがある。
ウルトラマンに地球侵略を阻止されて、諦めて宇宙船に戻るバルタン星人。20億人もいるならせめて何十人かでいけばウルトラマンも倒せただろうにと思うが、そこには侵略者なりの正義があるんだろう。意外と律儀な一面がある。
自室のベッドで横になり眠りにつくまでに心をさまよわせる、そんな時間がバルタン星人にもあるのだろうか。失ってしまった母星とこれから先の自分の住処について思いを馳せたりしているのだろうか。ふっとため息をついたりもするだろうか。
でもバルタン星人はフォッフォッとしか話せないのだ。ため息すらフォッ……とちょっと笑っているような感じになって気づかれない。いつもよく笑って明るい子ですね、とウルトラ怪獣学校の通知表には書かれているらしい。