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日記 憧れのパン屋
仕事の昼休み。私はあるパン屋に来ていた。どのパン屋かというと、私が入社以来ずっと気になっていたにも関わらず一度も行ったことのなかった例のオシャレなパン屋である。その店の名をDACOMECCAという。
DACOMECCAは、福岡市中央区六本松にあるAMAM DACOTANという人気パン屋の系列だという。AMAM DACOTANがどのくらい人気なのかというと、福岡に移住したばかりの私が知らぬ間にGoogle mapsのいつか行きたい店リストに入れていたくらいの人気店だ。どうりでいつも行列が絶えないわけである。
私がDACOMECCAの存在に気がついてから約10ヶ月間、パン好きな私がじゃあどうして今まで行かなかったのか。一言で言ってしまえばそれは「恥ずかしかったから」である。うん。男1人でこんなオシャレなところに行くのが恥ずかしかったんだもん。もう店名からしてオシャレな雰囲気がぷんぷんするでしょう?
しかし、先日私は誓ったのだ。
今年は気まぐれでもなんでもやってみたいことはやってみる年にしていきたい。
行ってみたいのに、そして行ける場所にあるのに行かないのは損である。そんな当たり前のことを35歳児は今年の目標に掲げて生きることにしたのだ。先日のおしりたたき会の開催が記念すべき1歩目、そしてこれが偉大なる2歩目なんだぜ!と思い、仕事の都合もちょうどよかったので行ってみることにしたのだった。
ということで、ドキドキしながらいざ入店。お昼時の店内はインスタ映えが大好きな若い女子しかいないのでは……と警戒していたが意外とそんなこともなく、その彼氏やオシャレなおじさんもチラホラいる。よかった、男もいた。「私はオシャレなおじさん、私はオシャレなおじさん」と自分に信じ込ませて、覚悟を決めてトレーとトングを手に取った。
人の流れを見て、どうやらカウンターに沿って好みのパンを取っていき、最後にレジに辿り着くという動線になっているっぽいと理解した。となると基本的にパンの取りのがしはできない一回勝負。なるほど、丸亀製麺の天ぷらスタイルということだね。
パンは並べ方からして美しく、どれもピカピカとしている。シンプルで王道なメロンパンなどもおさえつつ、自家製ハムとリコッタチーズのサンド、チョリソーグラタンドッグ、ラムイチジクバターサンド、マッシュルームバゲットなどちょっと珍しそうなものもちらほら。ううむ、どれもおいしそうすぎる(詳しくはこちら)。
なにを取ろうか悩むも列が進むスピードが思ったより速く、焦る。ちょっ、ちょっと待って!パンがどんどん流れていく!とりあえず人気ナンバーワンと書かれていたものとハズレなさそうなメロンパンをむんずとつかんであれよあれよと会計。午後からそのまま車移動だったので、コーヒーも頼んでイートインで食べることにした。
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レモンとアールグレイのメロンパン
見よ、適当につかんだにも関わらずこのバランスの取れた布陣。炭火で焼いたソーセージに葉キャベツのマリネがアクセントになっているダコメッカドッグで塩味と酸味を感じ、甘みが欲しくなった口に紅茶入りのクッキー生地でできたメロンパンが桃源郷に連れて行ってくれる。しかしそれでは現実に帰ってこれないのでは?という心配は無用。ブラックコーヒーの苦味が帰りの船となるのだ。
完璧だ。完璧すぎて自分の才能がこわい。我ながら惚れ惚れとしつつ、手を合わせて「いただきます」と言って気がついた。あ、しまった。今そういえば私、顎関節が痛くて口が1センチまでしか開かないんだった……。
*
ドイツの詩人、ゲーテは言った。
「涙とともにパンを食べた者でなければ、人生の本当の味はわからない」
ゲーテ先生、私今ならわかる気がします。人生の本当の味って、パリッとモチっとした食感を捨て去り、ぎゅーーーーっと潰して口にねじ込んだ固いパンの味だったんですね。あれだいぶ恥ずかしいです。オシャレな店内でみんなパンの写真撮ってる中、私だけぐしゃっとプレスしちゃっててヤバいおじさんみたいになってます……。
ちゃんとした食べた方ができずに申し訳ない。必ずや再訪することを胸に誓って涙とともに店を出た。ああ。あごが痛い。イタい。遺体。