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天狗の鼻
母はひとの話しを一旦聴くということを決してしないので、どんな話もたいてい腰を折られて思いもよらぬ方向へ捻れていく。
私が子どもの頃、学校であった面白い話をしていたはずなのに、途中で母は
「え?先生にそんな馴れ馴れしい口をきいてるの?」
と言い始め、私は、礼儀知らずの恥ずかしい子だと責められて結局「ごめんなさい」と謝る羽目になったりした。
母はしばしば私の鼻の先に握りこぶしを持ってきてポッキリ折る仕草をして
「天狗の鼻が伸びてる」
と言った。私が楽しい気分のときに限って、なぜか母はそうやって冷水を浴びせるのだ。
母にとって、私は鼻持ちならない子どもだったのだろう。理由はわからない。母が生きていたら聞いてみたい気もするが、知ったところで納得できるとも思えないし、せいぜいかさぶたを剥ぐのがオチだろう。