追憶の庭
春になって花屋さんの店先にエニシダの元気な黄色の花が並ぶようになると毎年、買おうか買うまいか迷います。
というのも、前にいちど枯らしてしまったことがあるからで。
水をよく吸うエニシダには、日当たりの良すぎるうちのベランダは不向きなのかもしれません。
(ずぼらな世話人=私も… 苦笑)
何年も前のその春も、花屋さんの前を通るたびに気になって大長考したあげく、ようやく決心したのでした。
ついでとばかりにコデマリの鉢植えも買って部屋に戻る道すがら、植木鉢を包んだビニール袋から伸びたコデマリの細い枝がゆらゆらと揺れて、花が傷んでしまうのではないかと慎重に歩いたものです。
そして、ベランダで袋の口を解けば、とたんにぱっと枝が飛び出して、優しげな白い花と鮮やかで愛らしい黄色い花が、殺風景だったベランダを一気に明るくしてくれたことを思い出します。
それから何年かがすぎて、植替えと剪定をうまくできなかったせいか、エニシダもコデマリも残念ながら枯らしてしまいました。
露地植えだったらこんなこともないのだろうに、と思ったところで気づきました。
エニシダもコデマリも実家の庭木なのです。
エニシダはだいぶ前になくなってしまいましたが、人の背丈以上もあるコデマリの木は、今でもこの時期にはたくさんの白い花房をつけて見事です。
心の奥底に残る記憶をなぞるように、いつのまにか、実家の庭と同じものを求めていたようです。
何年経っても、ふだん忘れていても、消えることのない庭の風景。
…家というのは、心の土台なのですね。