東京お散歩日記#4(清澄白河①)
お散歩日記 (清澄白河①東京都現代美術館 ミナペルホネン展覧会)
・・・2月◎日 晴れ ・・・
ミナペルホネンの展覧会「皆川明 つづく」をみるため、東京都現代美術館に行く。東京都現代美術館に行くのはかなり久しぶりのことで、ということはつまり、清澄白河の駅で降りるのもまた久しぶりということになる。
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とても天気の良い日で、地下鉄の駅に着いて地上に出ると、空は青く晴れ渡っていた。まだ午前中だったけれど、通りには同じように美術館を目指し歩いていく人たちの姿があった。最終日間近なせいもあり、おそらく自分のように急いでやってきた人も多くいるのだろう。
到着すると、すでにチケットカウンターにはかなりの人が列をなして待っていた。けれどそんなこともあろうかと、自宅そばのコンビニエンスストアで先にチケットを購入しておいたので、並ぶことなくすんなり入場する。
エスカレーターをあがり、三階にある会場に着くと、壁一面にひきつめられたカラフルなクッションたちが出迎えてくれた。どれもミナペルホネンの生地で作られたクッションで、知っている柄のものもあれば、知らないものもあり、どれも素敵で、一気に気持ちが華やぐ。その前には人だかりが出来ていて、多くの人たちが写真を撮ろうと、スマートフォンやカメラを構えていた。※写真撮影可能なエリアがいくつかありました
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この展覧会は8つのエリアで構成されていて、「実」「森」「風」「芽」「種」「根」「土」「空」と、どれも自然界の要素がタイトルになっている。
わくわくしながら、各エリアを順番に進んで鑑賞していく。
どのエリアも人は多かったけれど、興味深くて楽しい時間を過ごすことができた。
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なかでも印象的だったのは、まず「森」のエリアで、400着以上の洋服がずらりと森を構成する木々のように、会場全体に展示されているのが圧巻だった。制作年代順ではなく、ばらばらに並んでいるのに、服によって新しいとか古いとかいったことを一切感じず、どれもずっと「今」を継続しているようにみえる。これもいいな、あれもいいな、と思わず目がきらきら輝いてしまったけれど、それはまわりの人たちも同じようで、空間全体がちょっとした高揚感に包まれていた。
そして「風」のエリア。
ここではミナペルホネンの洋服を着た人たちの日常を追った映像がスクリーンに流れていて、その映像が白い光を受けたように柔らかな印象で美しく、眺めているだけでも気持ちよかった。ミナペルホネンの洋服は個性的に見えるものもあるけれど(「あ、あれはミナの服だ」とすぐに分かるように)、だからといって、服に人が着られてしまうのではなく、その服がその人自身にしっかり馴染んでいくのだなと、映像をみていて思う。映画のワンシーンのような、生活音だけの静かな映像を、ミナの生地が貼られた椅子に座りながらゆっくりみられる時間はとても贅沢だった。
そして胸に一番迫ってきたのは「土」のエリアだ。
ここでは「洋服と記憶」をテーマに、長年愛用されてきた洋服とそのエピソードが展示されていて、照明を落とした紺色の空間は他のどのエリアよりもシンと静まったような空気があった。
他界された人にまつわるエピソードや、子供の思い出にまつわるエピソードなど、それぞれの洋服に刻まれた大切なエピソードを読んでいると、ああ同じ服なんて一枚もないのだな、と気がつかされる。ミナペルホネンの洋服は、日々消耗されていくものではなくて、日々育まれていくもの。消えていくものではなくて、続いていくものなのだなと。長く使うことで洋服に記憶が刻まれて、この先、肉体が消えるときがきたとしても、そこに刻まれた記憶はずっと残っていくのだろう。ミナペルホネンの洋服が「特別な日常服」だということを強く感じるエリアでもあった。
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ほかにも、たくさんのデザイン画や、皆川明さんの言葉、職人さんたちの映像など、洋服が丁寧に出来上がっていく工程を垣間見ることができる。
それらをみていると、洋服だけれど作品で、作品だけれど日常品なのだなあと思う。
言葉にすると難しいけれど、ミナペルホネンの洋服をみていると、気持ちがワクワクしたり、ふんわりしたりと、どうも感覚に響いてくるのはきっと、こうした作り手の想いのうえに、それに応えるたくさんの人たちとのつながりがあるからなのだろう。そしていくつもの丁寧な工程を経てようやく生まれてくるものだからなのだろう。そこには繊細さと等しく、しなやかな強さも含まれているような気がする。
展覧会の最後の部屋にある年表には、2095年(つまりミナペルホネンが設立されてから100年経った年)のところに「過ぎた100年を根として、これからの100年をつづけたい」とあった。100年つづいたあとも、さらに100年つづいていく。あるいはもっと。今後もどんなテキスタイルや洋服等が生まれてくるのだろうかと思うと、ますますたのしみになってくる。
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多少、人波に押されるような場面もあったけれど、会場を出たあとは、今日来てよかったなあとしみじみ思った。
充実した気持ちで一階に戻ると、さらに人が増えていて、チケットカウンターには長い長い行列ができていた。そしてグッズコーナーにも人だかりができていたのでそれは諦めて、お昼ごはんを食べに『二階のサンドイッチ』という美術館内のカフェに行く。
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ここは以前、ベトナムカフェがあったところで、東京都現代美術館を観たあとはいつもそのカフェでココナツミルクとアズキのチェーを食べる(飲む)のが自分のお決まりだった。甘くて、冷たくて、氷ザクザクで、とてもおいしかったのだけれど、美術館リニューアルとともにお店もなくなってしまい、ちょっと悲しい気がしていた。
けれど新しくできたお店に入ると、ここもまた良さそうな予感。
明るくて、開放感があって、居心地は悪くなさそうだ。
入ってすぐのところに、ビニール包装された色んな種類のサンドイッチが並んでいて、迷いながらも選んだのは「大人の玉子サンド」。ネーミングが気になるし、和からしと黒こしょう、との記載もあって、なんだかおいしそう。サラダとドリンクが付くセットにしたので、パックに入ったサラダ(レタスと申し訳程度の紫キャベツが入っている)も取って、いざレジへ。(カフェはセルフサービス)
「温めた方がおいしいので温めますか?」と店員さんににこやかに訊かれ、もちろん「お願いします」と頼み、ホカホカのサンドイッチとサラダとアイスティーをのせたアルミトレイをキッチンカウンターで受け取る。
このキッチンカウンターを中心に円形状に広がる空間には、大きな丸椅子や二人掛けのテーブル席、空間にあわせてカーブした大テーブル席や横長の窓に面したカウンター席があって、席数は結構多い。そのときはお昼時なこともあって席はだいぶ埋まっていたけれど、カウンター席に空きがあったのでちょっと高めのスツールに腰をおろした。
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いただきます、とさっそく食べると、紙に包まれた玉子サンドは具がたっぷり入っていて、ややピリ辛でおいしい。玉子を挟んでいる白っぽい丸パンも、もっちりとした噛みごたえ。ダージリンティーはやけに色が薄いなと思ったけれど、ファーストフラッシュ(=春摘み紅茶)と書いてあったからこんなふうに青々しい色をしているのだろう。薄いというよりも、綺麗な黄金色といった方が適切なのかもしれない。
カウンター席からは、一階のフロアを行き来する人たちの姿を眺めることができる。先ほどよりもまた人が増えている。赤ちゃんも、子供も、大人も、老若男女がたくさん訪れている。
高いスツールがちょっと苦手なので、食べ終えたあとはゆっくりせずにすぐに席を立つ。振り返ると、このカフェのレジにも行列ができていて、入るときには誰もいなかったテラス席にもサンドイッチを食べている親子の姿があった。
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階下におりると、太陽の日差しが館内にも降り注いでいた。
穴ぼこが空いたような独特なデザインの壁面から落ちた影が、床に水玉模様をつくっている。建物そのものがすでにアートである。ガラス張りの向こうには木場公園があって、混雑している美術館とは対照的に、そこにはまだ人はあまりいないようだった。
NADiff(ミュージアムショップ)をすこしみてまわったあと、東京都現代美術館をあとにする。
❀今回のお散歩日記は次頁(清澄白河②ブルーボトルコーヒーなど)に続きます。
※東京都現代美術館における展覧会は2/16で終了しています
※6/27-8/16まで兵庫県立美術館に巡回予定とのことです
◇◇◇ 今日のお散歩写真① ◇◇◇
2019年3月29日にリニューアルオープンした東京都現代美術館(MOT)
突き出した大きなエントランスが特徴的
今日の目的はミナペルホネンの「皆川明 つづく」展
展覧会のはじまりはたくさんのカラフルなクッションから
minäはフィンランド語で「わたし」、perhonenは「蝶」
「森」のエリア
400着以上の洋服が会場を埋め尽くすさまはまさに洋服の森
時代や流行にとらわれない洋服はどれも素敵でかわいい
森の木々を見上げるようにして洋服を見上げます
「種」のエリア(アイデアと試み)から
木を彫った消しゴム判子
皆川明さんが構想する簡素で心地よい宿「シェルハウス」の内部
会場を出たあとはランチへ
その名の通り、階段をのぼった二階にあります
大人の玉子サンドとサラダとアイスダージリンティー
和からしと黒こしょうが入って、ほんのりピリ辛
ファーストフラッシュなので色がきれいな黄金色
テラス席もありました
一階に戻ると床は水玉模様
太陽の日差しが降り注いで水玉の影が落ちていました
外に出ると、となりの木場公園はとても静か
人もまばらでした
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❀今回のお散歩日記は次頁(清澄白河②ブルーボトルコーヒーなど)に続きます。
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