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東京お散歩日記#7(渋谷)

お散歩日記(渋谷)

・・・9月〇日 くもり ・・・

渋谷駅に着き、外に出ると、ビルの合間にみえる小さな空は一面うすい灰色だった。ここ最近になってようやく暑さも一段落し、日傘をささずに街を歩けるのはうれしいけれど、曇り空はやはりちょっぴり頭が重たくなる。

Bunkamuraミュージアムで開催中の「永遠のソール・ライター展」をみにいくため、文化村通りを歩いていく。。ちょっとのぼり坂になっているこの通りにはヤマダ電機やメガドンキやH&Mなど、大きなビルがたくさんあるので賑やかにみえるけれど、坂道をのぼった先にある東急百貨店本店あたりは落ち着いた雰囲気があり、なんとなくこのあたりだけ大人の感じがする。

最近、考え事をしたり、自分と向き合ったり、そんな時間を費やしていて、そんなとき何気なくしていた情報検索で、ふと目にとまった展覧会が、この「永遠のソール・ライター展」だった。

以前にも行われた展覧会のアンコール開催とのことだったけれど、恥ずかしながらソール・ライターのことは何も知らず、ただHPに掲載されていた写真をみたら、「あ、いいな。好きだな」と直感的に思い、今回行くことに決めたのだった。

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Bunkamuraミュージアムに着き、会場に入る。

最初に、街並みや、通りを歩く人たち等をうつしたモノクロームの写真が並び、その次にカラーの写真が並んでいる。それぞれ「狙って撮りました」というような一枚ではなく、「あ、いいな」と思う場面をとらえたような自然な一枚で、構図も絵画的なものが多く(実際、作者は画家を志していて、ずっと絵も描いていたという)、みていてなんだか心地が良い。

そこにあるのは写真なのだけれど、不思議と窓の向こうをみているような気分になる。この窓からは雪景色のなかを歩いている人がみえて、あの窓からは花を売る人がみえて、そっちの窓からは家路につく人の背中がみえるー。写真はどれもソール・ライターの目線のはずなのに、会場のなかにたくさんの窓があって、不思議と自分の目線でそこから色んな景色をみているような気分になる。

たとえばガラス窓の向こう、雪が積もるなか誰かを待っているらしい人をうつした一枚は、みていると、あたかも自分がカフェのなかにいて、その暖かい場所からその様子をぼんやり眺めているような気持ちになる。あるいは雪が霏霏と降りしきるなか、傘をさして歩く人を上から撮っている一枚は、静けさのなか、降り積もった雪を踏みしめる足音だけが今にも聞こえてきそうだ。

何かを訴えたり、主張したりせずに、日常の一コマを切り取ったような写真には独特の柔らかな空気感があり、そこにある世界に自分がスッと入っていける感じがする。

一方、身近な人たちをうつしたモノクローム写真にはまた違った味わいがあった。妹のデボラを被写体にした写真は、モデルであるデボラが兄であるソール・ライターに心を許しているのが感じられるし、またその間に流れる親しい空気を感じとることがきる。デボラの自然な表情もいいなと思った。

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会場の壁には、ところどころにソール・ライターの言葉が書かれてあり、どれも、うんうん、とうなずきたくなる言葉たちだった。たとえば『私が写真を撮るのは自宅の周辺だ。神秘的なことは馴染み深い場所で起きると思っている。なにも、世界の裏側まで行く必要はないんだ』という言葉。いいな、と思うし、共感もする。

ソール・ライターの言う意味合いとは多少異なるところもあるかもしれないけれど、自分も小さなものや身近なものにずっと感動できる自分でいたいなと思う。けれど忙しさや不安や焦りにのみこまれると、あっというまにそうしたものに目が向かなくなり、道端に咲く野花の愛らしさにもまるで気がつけなくなってしまう。それはちょっと淋しいことだと思う。たとえば大きな世界遺産とか、有名な建築物とか、そうしたものにしか目が向かなくなったら、あるいは感動できなくなったら、自分はきっと、あっというまに世界に飽きるような気がしている。だからこそ、ときに意識的に雑音から遠ざかって、今日みたいに穏やかな気持ちで好きな写真等を鑑賞して、心和ぐ時間を持つことが必要なのかもしれない。

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ソール・ライターはちなみにピエール・ボナールを敬愛していたという。たしかに眺めていると、ボナールをみたときに感じるものと通じるものがあるような気がする。展示されていたスケッチの色合いや、身近なものを題材にとりあげているところあたりはボナールからの影響がうかがえるし(影響というか、もともと本人の好きな傾向とボナールの傾向が一致していただけかもしれないけれど)、また雪や雨を好むところは、ボナールが影響を受けていた浮世絵とも通じているようにもみえる。

展覧会の終わりの方では、ソール・ライターが住んでいたアパートメントの壁の再現があり、ソール・ライターや恋人のソームズの描いた油絵が展示されていた。なかでも自分が特にいいなと思ったのは恋人のソームズが描いた油絵で、犬と一緒にいる様子を描いた絵はそれこそボナールの絵のようで、優しく柔らかな印象があった(ソームズもボナールが好きだったのかもしれない)。

そしてその近くには彼らが愛していた猫たちの写真の展示があり、そのなかの一枚が実は今回、とても印象に残っている。アリスという白黒のハチワレ猫の写真。とても美人な猫で(変な日本語かもしれないけれど「美しい猫」というよりも「美人な猫」といった方がしっくりくるのだ)、その表情がとってもいいのだ。これから展覧会に行く人がいたら、個人的にはこの猫ちゃんの写真をぜひみてほしいと思うほどに、じっとカメラをみつめる猫の視線が魅力的だった。親密な関係があったからこそ撮れた素敵な一枚なのかもしれない。

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会場を出たあとも、胸にふわっと心地良さが残っていた。
不思議と気分がいいのはきっと、良い時間を過ごせたからだと思う。
『写真はしばしば重要な瞬間を切り取るものとして扱われたりするが、本当は終わることのない世界の小さな断片と思い出なのだ』という言葉をソール・ライターは言っているけれど、たしかにそうだなあと感じさせてもらえる時間でもあった。

ミュージアムのそばにはカフェ「ドゥ・マゴ」もあり、吹き抜けの中庭にある白いパラソルの下、ゆっくりお茶をしている人たちがいて、ここでも穏やかな時間が流れていた。その奥には書籍や雑貨を扱う「ナディッフモダン」もあるので、すこしお店のなかをのぞいてから、Bunkamuraをあとにした。

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人混みに戻るのも億劫で、ウォーキングもかねて渋谷駅とは反対方面(代々木公園・代々木八幡駅の方)に向かい、東急デパート脇の通りを歩いていく。

小さな店が軒を連ねるこの通りには飲食店が多くあり、どの店も昼時なこともあって沢山の人で賑わっていた。そのまま道なりにまっすぐ行くと、左手にガラス張りのお洒落な本屋さんSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSがあらわれるので、ちょっと立ち寄る。ここではセレクトされた色んな書籍のほか、雑貨なんかも売られていて、店内を眺め歩くだけでもたのしい。以前から気になっていた「文鳥文庫」の果実シリーズから一作品だけ購入して店を出て、また道なりに歩いていく。

渋谷の奥の方は、渋谷の駅前とは雰囲気が違い、のんびりと落ち着いた雰囲気がある。途中、ファミリーマートの手前の道を右折し、ナタ・デ・クリスチアノに寄って、家に帰ってからのおやつ用にエッグタルト「パステル・デ・ナタ」を購入する。そしてまた道なりに歩いて、歩いて、駅を目指す。空はいぜんとして曇りだけれど、気づいたら頭の重さはとれていて、気持ちはとても和やかに晴れていた。

※「永遠のソールライター展」(Bunkamuraミュージアム)は9月28日までの開催となっているようです。気になる方はホームページをご確認ください。

◇◇◇ 今日のお散歩写真 ◇◇◇

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渋谷にいると、「東京」ではなく、「TOKYO」にいる気がする

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今日は「永遠のソール・ライター展」をみるために、

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Bunkamuraザミュージアムにやってきました

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会場のなかは、ソール・ライターが住んでいた
アパートメントの壁の再現部分のみ撮影可能でした

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いいな、と思ったのはソール・ライターの恋人ソームズの描いた絵

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どちらにも犬がいて、色合いも柔らかく、優しい印象でした

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        Bunkamuraを出たあとは、富ヶ谷の方へ向かいます
こちらは東急百貨店前にあるVIRON(一階はパン屋、二階はブラッスリー) 

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東急百貨店の脇にある通りを道なりに行くと、左手に本屋SPBSがあります

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さらにずっとまっすぐ行くと、右手にはチョコレート専門店のテオブロマ

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さらにまっすぐ行って、ファミマの手前の道を右折すると、
エッグタルトが人気のナタ・デ・クリスチアノがありました

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今回の展覧会のチラシと展示リスト

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購入したポストカード(ほかにもたくさん種類がありました)

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ナタ・デ・クリスチアノで購入したエッグタルト「パステル・デ・ナタ」

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裏面には丁寧に食べ方の説明が記載されてありました

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説明どおりに180℃のオーブンで5分温めてみると、

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まわりサックサク!の、なかとろーり!で、とてもおいしかったです 

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お読みいただきありがとうございます。