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東京お散歩日記#5(丸の内)

お散歩日記(丸の内)

・・・6月△日 晴れ ・・・

三菱一号館美術館で行われている「画家が見たこども展」をみるため、丸の内へ向かう。

この展覧会、だいぶ前からみにいこうと思っていたのだけれど、会期が長くあったのでのんびり構えていたら、まさかのコロナという状況になり、気がついたときには休館となってしまった。当初は6月7日までの予定だったので、このままみられずじまいかなあ…と諦めかけていたところ、会期が延長されたとのことで、喜び勇んでウェブでチケットを購入したのである。

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晴れていて、まるで夏のような陽気だった。
丸の内仲通りの街路樹は青く豊かな葉を茂らせていて、ときおり吹く風はからっと爽やかで気持ちよかった。

美術館のあるブリックスクエアに到着し、まずは前回買い損ねたマドレーヌとフィナンシェを購入するため、エシレ・メゾン デュブールに立ち寄る。まだ午前中ということもあってか、先客はまばらで、すぐに目的のマドレーヌとフィナンシェを購入することができた。バターと小麦粉の香ばしい匂い漂う袋を受け取り、噴水のある中庭を抜けて美術館に行くと、入口の前にはフェイスシールドをつけた職員の人が立っていた。

コロナのため、以前のようにチケットをみせてすぐに入れるわけではなく、まずは簡単な体調のアンケートを受けて、検温を受けて、手指の消毒をして、そんなステップを踏んだうえでようやくチケット(QRコード)を見せて入館する流れとなっているようだ。

なんだか、ワクワクする。
実を言えば、昨日の夜からずっとワクワクしていた。ずっと自粛が続いていて、もちろん今も気を緩めることはできない状況だけれど、でも、こうして純粋なる愉しみだけを目的に街へ出掛けるのは久しぶりのことで、新鮮な気持ちでもって美術館のなかへと歩みを進めた。

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展示室に入り、最初に目にしたのは、麦わら帽子を被り、セーラー服を着た二人の子供たちが描かれている絵画。草原のなか、直立不動で、まっすぐな瞳をじっとこちらに向けている。彼ら子供たちはモデルとなっている自分に自信を持っているような、あるいは自分が注目を浴びていることをきちんと意識しているような、そんな様子にもみえる。

この作品(モーリス・ブーテ・ド・モンヴェル『ブレのベルナールとロジェ』)はチラシにも載っていた作品なのだけれど、いざ実物を目にすると、自分が想像していたよりもサイズが大きく(もっと小さなものを勝手に想像していた)、色も濃く、実際にこの目で見ないと分からないことや感じられないことがたくさんあるなあという、ごく当たり前のことをふと思う。

この絵画をスタートにして、この展覧会では『ナビ派』(19世紀末パリの前衛芸術家グループ)を中心とした画家たちが描く、「こども」に焦点をあてた作品が展示されている。

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ゴッホが描いた赤ちゃんの絵は、いかにもゴッホらしい厚塗りのタッチで、くりっとした青い瞳のむっちりとした体つきで、ちょっと貫禄があるように見えるあたりが愛らしかった。

パリの街並みを描いたピエール・ボナールのリトグラフでは、子供はもとより犬の存在に気を取られてしまう。あそこにも、あそこにも、あら、犬がいる。他にもボナールの作品には動物がさりげなく描かれているものが多くあり、子供と動物、それぞれに対するボナールの対等な愛情や優しさを感じることができて、なんだか嬉しくなってしまう。

『子どもたちの昼食』という作品では、食事をする子供たちのテーブルに猫も一員としてちょこんと座っていて、その猫のうしろ姿を見るかぎり、うん、この猫はかわいがられているな、と勝手に想像をふくらませてほのぼのとする。

展覧会の最後の方では『雄牛と子ども』という油彩があり、これは牛の存在感の大きさにちょっとたじろぐ。でも薄いオレンジ色のような淡い色彩のその雄牛は、大きいけれどもいかにも穏やかそうで、なんだか温かみもあって、これもみていて心和んだ。

その他にも、モーリス・ドニの作品も素敵だった。
たとえばチラシにも掲載されている『赤いエプロンドレスを着た子ども』。筆を点々と置いて描いたような、淡いピンク色の花壇(花畑)を背景にして歩く子供は嬉しそうで、そのエプロンドレス姿もかわいらしくて、優しい印象を受ける。そして『子どもの部屋(二つの揺りかご)』と題された作品からは、ふわっとした独特の静けさが感じられた。

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子供が主題の展覧会だからといって、会場にあるものすべてが優しくて愛らしいものかといったら、無論そうではなく、暗い雰囲気のものや悲しげなもの、ちょっとシニカルなものまであるからみていて興味深い。

たとえばウジェーヌ・カリエールの『病める子ども』。これは母親が衰弱した我が子を膝のうえで抱きかかえている様子を描いたもので、全体的に色調も暗く、母親の悲しみと慈しみのようなものが伝わってきて、みていると胸が苦しくなる。

またフェリックス・ヴァロットンの木版画。それらは一見、おしゃれでかわいらしい子供たちの絵なのだけれど、よくよくみれば、子供の無邪気さゆえの残酷さも描かれていて、ある意味シニカルにも受けとめられるのがおもしろい(たとえば事故現場をじっと見つめている子供がいたり、警官に連行されていく大人に好奇心旺盛に群がっている子供がいたり)。

ちなみにヴァロットンの作品については他にも印象深いものがあって、それは『エトルタの四人の海水浴客』という油彩。その絵をみたとたん、思わずはっとして立ち止まってしまった。とても鮮やかで、深みのあるエメラルドグリーンの海の色。泳ぎを教えているらしい夫妻とその子供、あと知らない誰かが描かれている作品なのだけれど、その海の色鮮やかさが一際目を引いて、油彩ならではの凹凸によって見える波立つ感じもすごく伝わってきて、やたらこの作品が目に焼き付いてしまった。

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他にもさまざまな画家の描いた「こども」の作品があり、静けさのなか、それらをゆっくり眺め歩くのはたのしかった。この美術館の建物自体も1894年に竣工したオフィスビルを復元したものなので、随所にクラシカルな雰囲気を感じることができ、それもまた鑑賞のたのしみのひとつになったのかもしれない。

最後の展示室を出たあとは一階へと戻り、ミュージアムショップに立ち寄る。ピンバッヂが出てくるガチャガチャなんかもあったけれど、ここは無難に気に入ったピエール・ボナールのポストカードを購入し、ようやく日差しまぶしい外に出た。

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けやきやプラタナスの木々が並ぶ丸の内仲通りは、高層ビルが建ち並んでいる通りとは思えないくらいに、歩いていると気持ちよかった。爽やかな風にさみどり色の葉が揺れて、石畳に落ちたそれらの影も揺れる。見上げればそこはまるで緑のトンネルのようで、都心にいながら深呼吸できる感じがあった(マスク越しだけど…)。

お店のテラス席は昼時なこともあって、ランチをたのしんでいる人たちの姿も多く見かけた。柔らかな光降り注ぐ木もれ日のなか、食事をたのしんでいる人たちの様子はまるでルノワールが描く絵画のようで、そんなふうに見えたのはきっと、絵画鑑賞のおかげで心が潤っていたからかもしれないし、あるいは最近の自粛期間のあとで、当たり前にあったはずの日常がきらめいて見えたせいかもしれない。

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そんな光景を眺めながら通りをまっすぐ歩き、丸ビルの角を曲がると、東京駅が目に入った。くっきりとした青空のもと眺める駅舎は、以前、冬の頃に見たときよりも色鮮やかで、レンガの赤、窓枠の白、ドームの黒が美しく際立って見える。

駅前の広場にはでも、あまり人はいなかった。夏のような日差しがただ地面にジリジリ照りつけていて、自分も日陰を抜けたらとたんに暑さにやられて汗ばんでしまい、せっかくの美しい東京駅をゆっくり眺めることもなく、急いで駅前にある本屋丸善に駆け込んだ。

広い店内で涼みながら気になっていた本を探して購入したあとは、喉が渇いていたので新丸ビルの地下にあったスターバックスコーヒーに立ち寄る。注文したのはアイスのチャイティーラテ。スタバでお茶をするのもステイホーム後はじめてのことで、なんだか嬉しい気持ちで座席に座り、ほんのすこしのお茶時間を満喫した。久しぶりのチャイティーラテは、ひんやり甘くてスパイシーで、飲んだら「ふうっ」と生き返った。

※「画家が見たこども展」(三菱一号館美術館)は会期が延長されて、現在は9月22日までの開催となっているようです。気になる方はホームページをご確認ください。なお入館には事前予約が必要となっています。

◇◇◇ 今日のお散歩写真 ◇◇◇

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丸の内へ行くのは1月以来

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すっかり通りの木々は豊かな葉を茂らせています

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ブリックスクエアに到着し、

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まずはエシレでマドレーヌとフィナンシェを購入

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そのあと緑美しい中庭を抜けて、

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銅像を通り過ぎて、

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「画家が見たこども展」をみにいきます(ワクワク)

19街頭デモ

静かな会場のなか、ヴァロットンの作品の一部に関しては
写真撮影が可能となっていました(これは『街頭デモ』)

20女の子たち

『女の子たち』
かわいいんですが、中央の子だけ目がちょっと怖いような…

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『突風』
突風で砂煙舞うなか、子供が親に隠れるようにしがみついています
(うしろの犬も気になります。飼い主はいるのだろうか…)

22にわか雨

『にわか雨』
みんなが一斉に傘をさしだすなか、
きょとんとした小さな子供がいます

23可愛い天使たち

『可愛い天使たち』
警官に連行されていく人に興味津々集まってくる子供たち
ヴァロットンのシニカルな視点が感じられる一枚です

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この『可愛い天使たち』は別の部屋でパネルになっていました

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一緒に紛れて写真が撮れるコーナーのようです

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すべてを鑑賞したあとは、再び中庭口から外へ

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燦々とした光溢れるなか、
三菱一号館美術館の赤煉瓦の美しさに目を奪われます

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建物自体がすでに芸術のようで、この空間だからこそ作品が
より一層輝くのかもしれないなあ、なんてことも思いました

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丸の内仲通りに戻り、東京駅方面に向かいます

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さみどり色の葉っぱがきれい

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街路樹がたくさんあるので、高層ビルの圧迫感をあまり感じません

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まるで緑のトンネルのようです

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ときおり吹く風に葉が揺れて…

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地面に落ちた影も気持ちよさそうに揺れていました

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くっきりした青空のもと、東京駅の広場を行き交う人はまばら

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外壁を磨いたのかしら、と思うくらいに駅舎がきれいに見えました

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黒いドームに夏のような日差しが照りつけています

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本屋丸善の前には、大きな熊のオブジェがありました

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久々のスタバへ!
ソーシャルディスタンスを保ったうえでの座席が用意されてありました

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アイスのチャイティーラテ

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暑さで喉が渇いていたので、一気飲み!
束の間のお茶時間にとても癒されました

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今回のチラシと会場リスト

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これは自分へのお土産に買ったピエール・ボナールのポストカード
同じ絵柄の塗り絵付きです(はたして上手に塗れるだろうか…)

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ようやく買えたエシレ!

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焼き色がしっかりついた焦げ茶色

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口にしたとたん、バターのコクがじゅわあっと広がりました
また食べたいと思う、美味しいマドレーヌとフィナンシェでした

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お読みいただきありがとうございます。