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文章表現法 課題 『冷たい筆箱 ひえひえくん』

「それでは新商品の紹介に移りましょう!」

土曜の昼下がり、テレビ番組の今話題のモノを取り上げるコーナーで、とある商品が紹介されていた。

「ペンギン社から出たこちらの新商品、『ひえひえくん』はとても冷たい筆箱です!これからの暑い季節にとってもぴったりな品となっております。授業中に熱中症対策ができるので、ぜひお子さんがいる方におすすめしたい1品です!」

テレビでは芸能人がその筆箱を絶賛していた。
ミーハーな小学生の僕、太一はすぐにその筆箱の虜になっていた。
よし、貯めてたお小遣いを使って買おう!
お金を握りしめ文房具屋へ走って向かった。

無事筆箱を手に入れた僕は自慢するように学校の机のど真ん中に置き、ドヤ顔をしていた。
見た目は普通の筆箱だが、冷気が出ていて確かに冷えているのがわかる。

「太一、これなに?」「なんかここ寒くない?」

物珍しそうにわらわらとクラスメートが僕の周りに集まってきた。
_ふふふ、計算通りだ。みんな羨ましがるだろうなぁ…。
思わず笑みが零れそうになるが、あくまで冷静を装いクラスメートに筆箱の機能を説明した。

「これはね、冷たい筆箱『ひえひえくん』なんだ。冷蔵庫と同じくらい冷たいんだぜ!これなら授業中触ってても怒られないし、夏はめっちゃ役に立つんだよ。まっ、ちょっと高いけどみんなも買えば?」

ミーハーな僕はとうとう流行りを生み出す側になってしまったか…。
などと自惚れていた僕だが、事態は思いの外大きくなっていたようだった。

次の日、教室に入るとそこは冬かと思う位に寒かったのだ。教室の中を見渡すと、ほとんど全員が『ひえひえくん』を持っていたのだ。

「さっ、寒!!クーラーついてる?」
「ついてないよー、みんな筆箱持ってるから冷たくなっちゃったのかな?」

こんなに寒いのに平気そうなクラスメート達はむしろ涼しくていいよね?といった様子だった。
その様子に違和感を覚えながらも、その日は普通に過ごした。

家に帰りテレビをつけると、なんとひえひえくんの特集を放送していた。
昨日の放送からたった一日で全国の店頭から全部売れてしまったという。そして海外の子供にも人気を博しているようで、あっという間に大ヒット商品となってしまった。

僕の学校でも、同学年のみならず他学年にも噂が流れていたらしい。小学生のネットワークとは怖いものだ。


それから数週間が経ち、もう今では『ひえひえくん』を持っていないのはありえない!と言われる位に普及していた。
しかしこの数週間である問題が起こっていた。もう8月になるというのに気温が20℃前後に留まっている事だ。例年ではありえない気温で、ニュースでも連日その事が報道されている程だ。
気温のグラフを見ると数週間前は28℃が最高気温だったのに、今の最高気温は20℃と書かれてあった。

_このままじゃ夏が来なくなっちゃう!
そう思った僕は筆箱の製造元のペンギン社に電話をかけてみた。行動力だけが僕の取り柄だ。

「あ、もしもし。あの、ペンギン社から出てる『ひえひえくん』って安全性とか大丈夫なんですか?その、最近気温が下がってるのって…」

そこまで言いかけると電話に出たオペレーターはうんざりした様子でこう言った。

「あのねぇ僕。ここはイタズラの電話をかける場所じゃないのよ?何かあるならお母さんにお願いして電話かけてもらってね」

プツッ…ピー、ピー…

_まあ、そうだよな…ガキの相手する程暇じゃないしな。じゃあもうどうしたらいいんだ?!

結局いつものような暑い夏がやってくることはなく、9月を過ぎると気温は5℃前後まで下がっていた。
冬並みの寒さにさすがに周りもおかしいと思ったのか、世間は気温低下の原因を探る流れになっていた。

僕はクラスメートや学校の先生に原因はこの筆箱にあると何度も言ったが、冗談だろうと相手にしてくれなかった。
もうここまで来たらやるしかない。アレを。


深夜2時、僕はペンギン社の本社まで来ていた。
『ひえひえくん』はペンギン社の遠隔操作によって冷たくなっている。その元となる電源を落としてしまえば、気温低下を止めることが出来るかもしれない!
実に安直な考えではあるが、これが一番手っ取り早い手段だったので、決行することにした。

手元に自分の『ひえひえくん』を抱え、子供一人が入れるくらいの小さな裏口から侵入した。
辺りは暗い。警備員は見当たらないが、人の声が聞こえる。きっとどこかで酒でも飲んでるんだろう。

「あった!」

一際厳重な扉を見つけた僕はゆっくりとその扉を押す。
中に進むと、ギラギラと蛍光灯が光った部屋の中央に大きな機械があった。きっとこれがあの筆箱の電力の元だろう。

持ってきていたハンマーを手に取り、思いっきりその機械に向かって何度も振った。

「ぶっ壊れちゃえーーっ!!」

機械は煙を出し、プシューと電源が切れた。

「よし!壊れた!これで筆箱も冷たくないはずだ」

持ってきていた『ひえひえくん』を触ると、先程までの冷たさは消えていた。

壊した機械から出ていた煙が部屋に充満していた。このままでは爆発でもしてしまうかもしれない。

「うわっ!やばい逃げなきゃ!!」

急いで来た道を戻り、なんとか脱出することが出来た。
その後は家に帰り、何事も無かったように寝た。脳内では、犯罪を犯してしまったかもしれない恐怖を忘れようと必死だった。

朝のニュースでペンギン社で爆発事故が起こったと報道されていた。
あとから分かったのだが、ペンギン社の取締役はあまりにもペンギンが好きすぎて、地球を南極のようにしてしまおうとするテロリストだったらしい。

もしあの時見つかっていたらと思うと…杜撰な警備体制のお陰で命が助かったのかもしれない。
結果として『ひえひえくん』は回収され、販売も中止された。

僕は自分のやったことを誰にも話さなかった。怒られるから、という理由もあるが、これ以上事を大きくするとややこしくなると思ったからだ。


爆発事故から半年が経ち、季節は巡り春が訪れる。
僕は中学生になった。

進学する時に文房具なども全て新しく買い揃えた。
もちろん筆箱も新しくした。デニム素材のシンプルなデザインのものだ。
周りのクラスメートも、みんなそれぞれの筆箱を持っている。その人の個性が現れ、見ているだけでも楽しい。
みんなもう『ひえひえくん』の事は忘れたかのように話題に出なくなった。まあ、それでいいんだと思う。

「…やっぱ、普通の筆箱が1番いいや」

僕の夢は、みんなが使って幸せになれる文房具を作る事だ。今まで文房具はあまり好きじゃなかったけど、今では色々集めるほど好きになっていた。良くも悪くもあの『ひえひえくん』のお陰なんだろう。

いつか僕も世界中を虜にする文房具を作るんだ!もちろん、安全なね。

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