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マルボロの思い出
過日、親しい占い師さんから、
「昔と違って今はネット上にも占い師さんが溢れていて、選んでもらうのが難しい」
というお話を伺いました。
その話を聞いたあと、わたしはコンビニに置いてあるタバコのことを思い出しました。
コンビニに置いてある雑貨や嗜好品の類いは必要最低限で、基本的に売れ筋商品しか置いてありません。
ハサミやホッチキスは一つだけ。 けれど、タバコは何十種類も置いてあります。
(つまりすべてのタバコが売れ筋ということ)
なぜか、と考えたとき、タバコに限っては、その本来の用途以上に、価格含め性別・年代・地域・嗜好、さまざまなニーズがあるのだなと気づきました。
そして、きっとタバコにまつわるストーリー性が、何十種類もコンビニに置かれる、売れる理由の一つとなっているのでしょう。
ストーリー性とは何か。
タバコのストーリーを思い返すとき、わたしはある友人のことを思い返します。
タールの重いマルボロを吸っていた人で、大切な友人でした。
東日本大震災でわたしの実家(福島県)は基礎が倒壊し、わたしも地元を離れて知らない土地に引越しました。
原発事故によって漏れた放射能の線量が高く、不妊の可能性があったためです。
知らない土地で一人暮らしを始めました。
当時は、津波で家族を亡くした方、家が倒壊してしまった方が巷に溢れていて、家探しにも仕事探しにも苦労しました。
また、何よりも人の心がギスギスしていました。
やっと見つけた仕事場の新人社員の同期の中に、彼はいました。
彼はとても変わっていて、知識はあるのに余計な一言が多く、しかも悪気なく知識をひけらかすところがあったため、上司からも同僚からも嫌われていました。
けれど不出来な新人だったわたしは、彼の知識に飛びつきました。
ひけらかされる知識はありがたく、また、仕事を覚えるのに必死だったので、次第にわたし達は親しくなりました。
親しくするうち、彼はとても不器用で、同期みんなの役に立とうと奮闘するも、やり方がズレている。ということに気づきました。
ばかだなあと思いましたが、それも含めて彼の味だと思うようになりました。
そんな彼はマルボロを良く吸っていました。
そしてさみしくなるといつも
「俺な、30歳になるまでに死ぬから」
と言っていました。
「こいつ、ほんまにかまちょやな」と内心思っていたけれど、いつものセリフだったので、毎回毎回聞き流していました。
今だから言えますが、わたしは仕事の知識以上に彼に感謝していることが一つあります。
それはわたしと恋愛関係にならずに居てくれたことです。
いつかわたしが恋人と非常に嫌な別れ方をしたとき、彼に愚痴を聞いて貰ったことがありました。
そして、非常に卑しいことですが、弱ってボロボロになった心の状態で、彼に付き合って欲しいと求めたのです。
しかし彼はわたしの本心(自分を好きではないこと)を理解した上で、友達でいようと言ってくれました。
「今は少し弱っているだけ、男とか女とか関係なく、人間としての愛情はあるから」と。
わたしは今でも感謝しています。
そんな彼がある日、会社に来ませんでした。
無断欠勤かと思ったけど、朝礼で発表されたのは彼の事故死。
自ら猛スピードで電柱に突っ込み、柱を折る形で亡くなっていたと。
彼は車好きで通っていて、運転が非常にうまかったので、にわかには信じられませんでした。(今でも疑問に思っています)
死の前日、エレベーターで別れたときの彼の顔面蒼白の顔が、今でも忘れられません。
彼の死にまつわるなぜ、どうして、はついぞ解消されませんでした。
ただ彼の予言めいた言葉だけが、わたしの中でぐるぐるしています。
彼の墓前に一度だけ行きました。
吸ったことのないタールの重いマルボロを買い、一本だけ吸って、あとは墓前に備えてきました。
マルボロを見るとストーリーを思い出します。
彼がかつてこの世に存在していたという物語を。