毎日を耐えしのぐ気力をくれる作品を見たいのだ
年々、感情をえぐられるような作品を見れなくなっている。
10代の頃は、主人公が犯罪に巻き込まれて酷い目にあっている作品を
読んだり、見たりして、なぜかわからないけれど心が救われていた。
例えば、『あんのこと』のような、貧困のループと毒親から逃れられずに
希望を次々につぶされる実話ベースの作品とか。
自分の状況に重ねて、仲間がいるような気持ちになってた気がする。
20代では、リアリティのある恋愛映画をよく見ていた。
例えば、『SEX AND THE CITY2』みたいな(リアルではないんだけど、
登場人物が恋に悩んで傷つく理由に現実感があるというか)
30代になってから、子どもが犯罪に巻き込まれたり、傷つけられたり、
戦争のような抗えない権力に絶望的なダメージを与えられるような、
そういう作品は、(特に映像)距離を取るようになった。
友だちのお母さんが、『キャタピラー』を映画館で見た後に、
こう言ったそうだ。
「この歳になると、お金払ってまで悲惨な内容を見たくない」
この話を聞いたのが20代の頃で、「ふーん」くらいにしか思わなかったが、
今なら、痛いほどよくわかる。
感情を揺さぶられるほどの悲劇的なドラマは、ぜんぜんいらないのだ。
同じ時間を使うなら、バカバカしいことで笑いたい。
でもそうなると、映画って見れなくなっちゃう。
起承転結がないと、物語が成立しないから。
小説も、主人公が葛藤する「何か」が必要なので、
病気になるか、犯罪に巻き込まれるか、人が死ぬか、
とんでもない裏切りにあって傷つけられるか。
それらを乗り越えるところに、ドラマがあり感動が生まれる。
だから、選ぶ本が自ずと限られてくる。
・SF(これは、フィクション度合いが強くて共感しにくいから読める)
・事件が起こらない純文学的な小説
・勧善懲悪の小説
・なるべく善良な人が出てくる
・コメディ系
この辺りになる。
でも、よくよく見渡すと、実は近年の小説って上記のどれかに属している。
掛け合わせの場合もあるけれど、平和な小説が多い気がする。
2024年のベストセラー『成瀬は天下を取りにいく』なんて、青春小説だ。
『傲慢と善良』だって、読みようによっては「えぐられる」かもしれないけど、そこまで残酷じゃない。
読み終えて、感情を揺さぶられないのに、心のずっと奥の方に残る。
そういう作品を、みんな探しているんじゃないのかな。
と言いつつ、例外としてこの作品をおすすめします。
『汝、星のごとく』は、正直なんにも救いがない話なのですが、
少女漫画的な要素を感じるので好きです。
『キャンディキャンディ』(原作:水木杏子、作画:いがらしゆみこ)という
「ザ・昭和の耐え忍ぶ”おしん”的マンガ」に似た、
<運命に逆らわない>
忍耐のドラマ。
この<耐え忍ぶ>ことに対しては、不思議と前向きに読むことができる。
日本人だからなのか、<耐える>については、自立したある種の強さと
意思を見ることができ、感化されるのだ。
耐えるというカタルシス。
ここに切なさと心の中の鬱憤を成仏させる何かがあると思う。
みんな、耐えている。
このままならない日常と人生を。
今よりよくならないけど、悪くならないように、必死に。
そんな時代だから、残酷な展開や結末の作品を見たくないのだ。
フィクションでさえ、絶望に触れたら、生きる気力を奪われるから。
笑えない毎日を笑って、やり過ごしてる。
そういうキャラクターに励まされて、救われるのだ。