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アニリール・セルカンと過ごす2021年GW(いやだ)〈「タイムマシン」・中〉

[ShortNote:2021.5.7]

〈これまでのお話〉


03 作戦会議

 冒頭のマクブライト先生のスピーチから。これ、マクブライト先生をストーリーテラーのようにして各章の冒頭で彼のスピーチから入る形にした方が綺麗だと思う。

 いきなり来た13人の少年にジュース出してくれるマクブライト夫人優しい。13人来て座れるスペースがあるのもすごいし夫婦2人暮らし(だよね?)なのに13個もコップが余ってるのもすごい。きっと毎週末大勢人を呼んでホームパーティーしているに違いない。

 ただここでは「君たちには無理だよ」みたいな感じであしらわれ、ケンたちは帰るしかありませんでした。

 そしてなぜかここで「すこし時間をさかのぼって」(p.77)フィンランドのユッシの家での両親説得シーン。なんでここで? 前の章でやれよ。ユッシ父は校長に謝れと言っていたようです。ようやく子どもを叱れる親が出てきましたが、謝るべき相手は校長ではなく火事に巻き込んでしまった大多数の無関係な生徒だと思うのでやっぱりズレています。

 ユッシ曰く、

 あの学校はね、牢獄だったんだ。先生に気に入られないと、とたんにひどい目にあう。それは、とても理不尽なことだったんだ。ぼくらの仲間は、先生の言うとおりにはならないぞっていう意志を、いたずらすることで表していたんだ。わかる?(p.80)

 ということですが何回も言っているように「牢獄」とまで言われるほど劣悪な環境には見えません。気の合う仲間たちと同部屋で過ごせて、14回停学くらっても復学できて、最高とまでは言えなくてもそこそこ楽しそうな学園生活に見えるので、こんなことを言われても「そうだな!」ではなく「……そうか?」としか思えません。そしてまたレジスタンスのように自分たちの行為を語っていますが、繰り返し言いますがとどめになった行為はダニエルのイタズラです。軽い気持ちでびっくりさせてやろうとしたイタズラが思いのほか大事になって大慌て、というぶっちゃけかっこ悪い事件なので記憶の美化が早すぎるとしか思えません。それなら先生へのイタズラも書いてほしかった。

 場面変わってケン宅の夕食風景。ケン母、「オリバーとオルハンの食べる量を考えると、二十五人ぶんは作らなければならない」(p.82)。いきなり25人前作れと言われてイライラしない人の方が珍しいと思うのですがケン母は寛容です。

 そんな聖母のようなケン母に話しかける少年たち。「料理がいそがしいなら、マルティンが手伝うからさ」(p.84)。マルティンの「料理が得意」という設定を生かすためだけに料理中に話しかけたとしか思えない。

 ケンたちの話したいこととはタイムマシンのコンセプトについてでした。ここから彼らが考えたタイムマシンの案をメインキャラクター全員をなんとか登場させるためになぜか代わる代わる引き継ぎながら喋ります。卒業式みたい。

 そして「ぼくたちはこれから公園に行って、となり町のチームとサッカーの試合をするので、発表はこれで終了です!」(p.88)とダニエルが強引に締めました。私ならサッカーしてきてから喋れ夕食前の忙しい時間帯に話しかけてくんなとしか思いませんが、ケン母は優しいなぁと見ていたら、「若き日のぼくに『別の人と結婚したほうがいいよ』ってアドバイスできそうかい?」(p.89)という軽口を叩いたケン父のお尻をまな板で思いっ切り叩く暴力性をあらわにしたので無言になりました。まさかその尻に接地したまな板料理に使わないですよね? その後「ぼくは君と結婚したときに、すでに根負けしている」(p.90)と言うケン父にほうれん草の芯を投げつけるケン母。人に向かってよく物を投げる夫婦だな。「ケン父やっぱりタイムマシンで戻って他の人と結婚した方がいいな……」と思いましたが、破れ鍋に綴じ蓋なのかもしれない。

 次ページ、「またもや、少し時間をさかのぼって、ギリシャのテッサロニキ空港」(p.91)。イアニスのドイツ行きの話。だからなんで前の章でやらないんでしょうか。作中の時間軸で現在進行形のタイムマシン作りとそれぞれの家族を説得してからのドイツ行きの話を同時にやられると混乱するんですよ。ただここで一人納得していないイアニス父がちらっと出てきます。このイアニス父の心境の変化は大事。大事ですが頼むから前の章でやってくれ。

 また時間が元に戻ってケンたちの研究所見学。ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)構想を語る科学者のリー博士に対し、小声でケーシーに「こんな小難しいことばかり考えてるから、見ろよ、あいつ、頭が薄くなってきてるぜ」(p.94)と誹謗中傷するオルハン。研究時間を割いてわざわざ子どもたちに説明してくれているヨーロッパ最先端の研究所の科学者にこの言い草、私も「教育がなっとらん」と憤りたくなります。お前も将来ハゲろ。しかしリー博士は「もし、世界じゅうの少年たちが、君たちのように関心を持ってくれたら、科学の未来は果てしなく進歩していくんだけどね」と言ってくれます。そいつらの中の1名あなたのことあいつハゲって言ってましたよ。

 ガレージで実験を続けるケンたち。電子と陽電子を衝突させる装置を作るため、ケンは夕方までぶっ続けで計算します。ガリレオのあの曲流してあげたい。「数時間たって、みんなが戻ってくると」(p.99)とありますが全員一生懸命計算してるケンを置いてどこに行ってたんでしょうか。しかし仲間たちは「これじゃタイムトラベルはできない」「そんな言い方ないだろ」と揉め始めます。ここに来てケンカ。確かにこういう系では一旦仲間割れするのは定番ですが、若干取ってつけたような感じではある。

 そこへ現れたのがマクブライト先生。ここで次章へ続く。この引きはなかなかいい。

04 雷をつかまえろ

 雷を使ってみてはどうかと提案してきたマクブライト先生。細かいことですが、「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいだ!」(p.104)と言うダニエルに、「なにそれ?」とビクトルがダニエルではなくヨゼフに聞くあたり、13人をなんとか平等に登場させようとする作者の苦心が透けて見えます。普通わからないことがあったら発言者本人に聞くと思うんですが。

 雷のエネルギーを利用する装置を実験するために空の状態を把握する設備を持っている研究室にタイムマシン計画を話したというマクブライト先生。そして自分もこの計画に参加させてほしいという先生。それを「いやです」と突っぱねるアル。この前先生に取り合ってもらえなかったことを根に持っているアル。しかしフリオの取りなしで了承するアル。このくだりいる? アルの「おっとりしてるけど頑固」みたいなキャラを出したかったんだろうな。

 めでたくマクブライト先生の参加が決まり研究室ガレージから出ていく少年たち。そこでティムを引き止めて「……そのシャツ、どこで買えるの?」(p.108)と恥ずかしそうに言う先生。このくだりもいる? 先生がかわいいことは分かったけど。たぶんこれもティムのオシャレキャラを出したかったんだろうな。自然な形でタイムマシン計画に絡められない設定なら出さなくていいのに。

 ヨゼフの家、タイムマシン公開実験の招待状を受け取ったヨゼフの両親。ケン父が泊まる場所を用意してくれるそうです。ケン父、ベンツ乗ってるし結構金持ちなのでは? ケン母も食費がいきなり25人分に増えても平然としてるし。

 この頃(1988年)のヨゼフの祖国ハンガリーはハンガリー社会主義労働者党の一党独裁体制下であり、出国するのも大変な状況でヨゼフも1人で50時間かけてバスでドイツへ向かったようです。バスで50時間! ユッシの自己弁護に紙幅を割くくらいならこのヨゼフの旅を説明してくれよ。

 さて招待状は校長とウルスラ先生の元にも届いていました。校長は当然お怒りです。「ウルスラ先生は、いつもどおりの無表情だ」(p.111)とありますが彼女がいつも無表情であるということはここで初めて明かされる事実なので「へぇ……」としかなりません。

 先生はティムとビクトルが連絡を取り合うのに手を貸した理由を「ビクトルは優秀な生徒でした。しかも、彼はいたずらに参加しておりません。なのに、どうして退学を選んだのか、心理学者として確認したかったのです」(p.112)と言いますが、それは「心理学者として」ではなく「教師として」ではないでしょうか。「退学になるようなことをしていないにもかかわらず退学を受け入れる生徒の心理状態について」みたいな論文でも書くのでしょうか。それに「全員ではなくティムとビクトルだけだ」とのことですが、ケンが世界中に散らばった仲間たちを集められたのは実は先生の陰の協力があったからだったのだ! みたいな展開だったらすっきりしたのにな。学校側なら親の連絡先わかるし、この時代なら個人情報がどうこうという問題にもならないだろうし。

 「君もドイツに行く気じゃないだろうな?」と言う校長に「ウルスラ先生は、なにも言わず、にっこりほほえんだ。いままで見せたことのないような笑顔だった」(p.113)。普段笑わない人の笑顔には信じられないほど劇的な効果があるものですが、先ほども言ったようにウルスラ先生がいつもポーカーフェイスなのはここで初めて明かされる事実なので効果は9割8分引きです。

 ケルンに集まってきた父親たち。ツンツンしながらも「アルミニウム合金にしろ、金なら出す」と言ってくれるイアニス父、ツンデレ軍人。良い。この本のキャラで人気投票したらイアニス父かなり上位に食い込みそう。しかしイアニス父はちゃんとキャラ立ちしてるからいいけど、ただでさえ13人の少年たちのキャラを立たせるのに苦労しているのにさらに父親たちまで加わってめちゃくちゃです。

 タイムマシン計画もいよいよ大詰め。で、マクブライト先生がティムのおかげでオシャレに気を使うようになったという本当にいらない描写が挿入されます。ティムのオシャレキャラ立たせと子どもからでも積極的に教えを乞うマクブライト先生の柔軟さを表現したかったのでしょうが、マクブライト先生がオシャレになったことが何らかの伏線になったりもしないので無駄です。

 オリバーの実家のスパに招待されるケンたちとその親たち。マルティンはこっそり酒を飲んで完全に酔っ払っていますが、飲酒後に入浴するのは危険らしい(↓)のでよい子はマネしないようにしましょう。


05 危険な片道切符

 タイムマシンに一般相対性理論を使おうとするケンたち。釈迦に説法ならぬ物理学者に特殊相対性理論の説明。キャラからキャラへ説明するという体で読者に用語の説明をする時は聞き手となるキャラは相対性理論のことなんか何も知らない一般人じゃないとダメですね。

 ものすごくどうでもいいことなんですが、「元少年たちががんばってる」という示唆的なセリフに対して「元? ああ、もしかして!」(p.128)とか言わせない方がスマートだと思います。

 ケンたちが戻ってくるとダニエルが膝から血を流して座り込んでいました。クラウドチャンバーにもヒビが入っています。

 どうしたのか聞くと、ダニエルはこの前(ケン母にタイムマシンの案を発表した後と思われる)サッカーの試合をした2つ年上のチームに絡まれたようです。彼らは「このまえファウルばっかりしてた下手くそだろ」(p.129)とヤンキーっぽくダニエルをからかってきます。「ホラ、下手くそなドイツ語でなんとか言ってみろよ」(p.130)と言う年上グループに対し黙りこくっていたら、彼らはクラウドチャンバーを放り投げ、それに怒ったダニエルはつかみかかっていったが全然かなわなかったという話をします。この小説の悪役わかりやすすぎる。

 自分の無力さに打ちひしがれるダニエルに対し、それまで黙っていたイアニス父が「おまえはがんばった」と口を開きます。「おまえは勇気を見せた。だからいつまでもメソメソしてはいかん。あとはおまえの友人たちが勇気を見せてくれる、そうだろう?」(p.130)。うおお‼ イアニス父カッコいい! よく言った! イアニス父のセリフに対し、少年たちも「そうだよ! あいつら許せない! 見つけてボコボコにしちゃおうよ!」(p.131)と奮起します。いいぞこの展開! 1人では年上の連中(しかも15人もいる)には勝てないけど、13人で力を合わせれば大切な仲間を傷つけた憎き奴らをやっつけられるかもしれない。このための13人だったのか! すごい! 5~6人にまとめろとか言ってごめん!

 その次に父親チームの奮闘シーンが入ります。なるほど。息子たちががんばって戦っている間に父たちもそれぞれの仕事に取り組むんだということですね。まったくの門外漢であるファッションデザイナーのティム父はついていけておらず、このままだとティム父がただの足手まといにしか見えないのでなんとか自分のスキルを生かして役に立つ場面がほしいところですが、そんなものは用意されません。ただ、さっき言ったキャラを通して読者へ説明するための一般人キャラとしては立派に役割を果たしていますね。

 そこへ割り込むイアニス父。いいぞ。イアニス父、どんどん喋ってくれ。ただ地の文の「イアニスの父は空軍のパイロットだ。もちろん、自分でも飛行機の操縦ができる」(p.132)の後半は「プロ野球選手だ。もちろん、ボールを投げることができる」と言っているようなものなのでいりません。

 父たちの技術的な話し合いの結果、いい感じの案が出てきました。遊園地なんて行ったことがない堅物ツンデレ軍人パパかわいい。

 その次のシーンはユッシ父の会社。うん。息子たちが年上グループをぶちのめしている間父も大人として自分の責任を果たす姿を描くということですね。「社長がいないので処理に困っている案件がたまってるんです」(p.135)と痛切に訴える秘書。社会人としてその大変さは多少わかる。うちの会社で社長がいきなり外国に1か月も行ってタイムマシンを作るとか言い出して帰ってこなかったらブチギレます。

 さあいよいよ少年たちのターン。みんなで力を合わせて自分たちより強い相手に立ち向かうところが見られるのか! この本で初めてワクワクする展開! とドキドキしながら読み進めると、少年たちは気分転換のためプールに遊びに来ていました。え?? 年上グループは??? 「?」連発の私をよそに少年たちはキャッキャと楽しそうに飛び込み台で遊んでいます。「さっきベッケンバウアーになったつもりで気合い入れてみたけどさ」とサッカー選手になって飛び込みをしようとする支離滅裂なオリバー。ドイツ人らしさを出したかったんでしょうが、ドイツはオリンピックの飛び込み競技で結構メダリストを輩出しているのでそういう選手を出して説明してもよかったんじゃないかな。

 ここでようやく「そういえばさ、どうする? 昨日のダニエルの話」と飛び込み台は2.5mが精一杯だという話のついでに話のついでにダニエルのことに言及するケン。この人たち友情に厚いんだか薄いんだかさっぱりわかりません。ダニエルは絆創膏や包帯だらけのまあまあな怪我人スタイルで1人だけプールに入れず本を読んでいる(プールサイドなのに)のですが、他の少年たちは「たった一人で十五人に向かっていったあいつは、立派な男だ。そうだろう?」というフリオの言葉に頷いただけで済ませます。いや「そうだろう?」じゃねえよ。お前らも戦いに行け。ダニエル1人に怪我させて終わりか? 友情とは何なのか? 同じ痛み、同じ傷を背負うことも友情じゃないのか?

 ダニエル以外全員の株が平等に下がったところでダニエルの件は本当にこれで終わってしまい、誰がタイムマシンに乗るのかという問題に移ります。

 ここで登場してお兄ちゃんたちが怖がる10mの台からニッコニコで飛び込むケンの弟ケマル。それを見て「なあ、ケン。あいつ、冗談ぬきで適任かもしれないぞ」と言うオルハン。ケマルの何事をも恐れない勇敢さを表現したかったのでしょうが、それなら13人でカチコミに行く時にケマルもついてきて年上に立ち向かうとかでもよかったのでは? それか13人がケンカでボロボロになってとてもタイムマシンに乗れる状態じゃないからケマルが兄たちの思いを継いで自ら志願するとか。いずれにせよ仲間をいじめた奴らへのリベンジよりどうでもいいプールの方が優先される意味が本当にわからない。

 場面変わってケルン新聞本社。タイムマシン公開実験の招待状が届きます。編集長はこんなものより政治家のパーティーの方が重要だと言い放ち、実験の方には「とりあえず、あの若い記者をやっとけ」(p.141)と言います。この「若い記者」がタイムマシンの目撃者となりその後の記者人生につながっていく……みたいな展開なのかと思いきや、副編集長が興味を示し、カメラマンと一緒に実験を見に行くと言います。そして「例の若いやつ」は編集長と一緒に政治家のパーティーに行かせろと指示します。この「若いやつ」話に出す意味あった? なんとなく編集長だろうが副編集長だろうが「長」とつくような権威はユニークなタイムマシンには興味を示さず、まだ若くて何の地位もないが情熱と柔軟さはある人は目を輝かせて食いついてくるのだというようなテーマを感じていたので、この役は「若いやつ」に任せた方がいいんではないかと思いました。

 さあ長くて申し訳ないと本当に思っておりますが次で全部終わります。本当に。

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