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日本のキャッチコピーで打線組んだ

[ShortNote:2020.4.18]

 何かというとすぐ打線を組みたがります。ちなみに打者の特徴はデイリーポータルZ「『打線組んでみた』を本物のスコアボードでやってみた」 の図からの引用です。すべて独断と偏見なので異論は認めません。

一(遊)イエイエ(レナウン・1967年)⇔切り込み隊長的な役目、足が早くパンチ力もある

 東京オリンピックを機に爆発的に普及したカラー放送ですが、このCMもカラーでオンエアされました。それまでの商品の効能や特徴を説明することに特化したシンプルなコマーシャルからおしゃれな映像と音楽で見る人の目を楽しませるエンターテインメント性の高いコマーシャルへという時代の移り変わりを感じさせます。イエイエの登場を指して「日本のCM元年」と言われることもあるようですが、まさしく日本のCMの今につながる形を提示したCMですね。一番にぴったりです。あとこの軽やかさがショートっぽい。

二(二)燃焼系アミノ式(キリンビバレッジ・2003年)⇔パワーはあまり無いが、小技が得意な選手

 やってることはインパクトが強いんですけど、それを日常風景の中で淡々と見せているのが渋いですね。テーマが重いとか見る人を深く考えさせるとかそういったタイプではないですが、ライトで親しみやすさがあります。加えてあのジングル。何回聞いても飽きない軽快で覚えやすいメロディにちゃんと商品名を歌いこんでいるので、CMを見た人が何気なく口ずさんだら自然と商品名も声に出していることになっているという見事な訴求方法です。うまいですね。単なる繋ぎというわけでもないしたたかさも感じます。

三(左)そうだ 京都、行こう。(東海旅客鉄道・1993年~)⇔走攻守、バランスの取れた好バッター

 このシリーズにおける「走」は今現在まで続く長寿キャンペーンであるということで、「攻」は広く世間に浸透したこと、「守」はそれまでの京都のイメージを崩さずそのままちょっと新しいアプローチで提示してみせたことだと思います。

 特に大事なのが「守」で、京都は有名なので行ったことない人でも「京都ってこういうところだよな」というイメージを持っています。そして正直黙ってても売れるベストセラーみたいに特にキャンペーンをしなくても京都には人が来ます。それでもあえてキャンペーンを打つということは、目的は自然と一つになります。それは「京都に行かない人を京都に来させる」ということです。しかし京都に行ったことのない人でも前述の通り京都のことは知っています。だから「京都にはこんなに素晴らしい景色があります!」と言ったところで「知ってるよ、で?」となってしまいます。

 そこでアプローチを変えてみて、CMの語り手をただのナレーターやバリバリの京都通などではなく「京都にあまり詳しくない初心者」という立ち位置に置きます。そして「修学旅行で来てるのに、全然違うなぁ」とか仏像を前にして「きれいだなぁ」とか言わせる。「パリやロスにちょっと詳しいより、京都にうんと詳しいほうがかっこいいかもしれないな。」というサブキャッチもありましたが、自然と見ている側にも「確かにそうかもしれない」と思わせることができるわけです。

 そしてとどめがメインのキャッチコピー「そうだ 京都、行こう。」です。これによって「敷居が高い」と思っていた京都が一気に「そうだ」という思いつきで行ける身近な場所になりました。京都の持つ寺社や自然といった世界レベルの素材をフルに活かしつつ心理的ハードルをぐっと下げたまさに90年代を代表するキャッチコピーの一つです。

四(中)クリスマス・エクスプレス(東海旅客鉄道・1988年~1992年、2000年)⇔ホームランバッター、もっとも華のある選手

 名作と言われるCMは数多くても、四番タイプと言われると意外と思いつかなかったりします。ですがその思いつくうちの一つが間違いなくこれです。なんといっても「クリスマス」という一撃必殺のシチュエーション、「会う」ことをテーマにした恋人たちのドラマティックなストーリー、バブルの雰囲気、そして名曲「クリスマス・イブ」。どれを取っても推定飛距離140mぐらいの特大ホームランです。クリスマスが恋人のイベントの代名詞になった80年代を締めくくるCMでもあります。

 歴代サブキャッチもどれもホームラン級ですが、個人的に一番好きなのは91年の「あなたが会いたい人も、きっとあなたに会いたい」です。

五(指)モーレツからビューティフルへ(富士ゼロックス・1970年)⇔四番に劣らぬパンチ力のある選手

 一企業のキャッチコピーなのに、時としてその時代の社会をまるごと象徴してしまうような「時代のキャッチコピー」というようなものがしばしば現れますが、これはその代表格です。このコピーが年代の狭間に登場したことで「モーレツ」の60年代と「ビューティフル」の70年代との間にはっきりと線が引かれたように思います。「モーレツ」に比べると「ビューティフル」は遥かに抽象的で曖昧ですが、CMもその抽象的な「ビューティフル」をそのまま表したようなイメージ訴求型でした。

六(三)おしりだって、洗ってほしい。(東陶機器・1982年)⇔ある程度の打率とパワーを秘めたバッター

 これはすごいコピーです。ウォシュレットというこれまでになかったものを売り込むにあたって「なぜおしりを洗わなければならないのか」という理由をちゃんと説明しています。「毎朝、顔を洗うでしょ。紙で拭く人っていないよね。どうして。紙じゃ、きれいにならないものね。」と理論的に言われてしまうと洗わないなんておしりがかわいそう、という気にすらなります。もしこのキャッチコピーで売り出されていなかったら果たしてこんなにウォシュレットは普及していただろうかと考えるとつくづく偉大なコピーだと思います。

七(一)なにも足さない。なにも引かない。(サントリー・1989年)⇔打率は低めだが、意外性のあるバッター

 広告の域を超えてもはや人生訓のようにも聞こえるコピーです。ただの体感ですがそのようなコピーはお酒に多いような気がします。その代表がこれですが、このコピー自体がなにも足さずなにも引かずにこれだけで完成されています。一文字たりとも動かせないコピーは強いと思います。なにも足さずなにも引かずとも完成されているのがウイスキーならそれを語るコピーも同じだという商品とコピーが強く結びついているところが好きです。

八(右)すこし愛して、なが~く愛して(サントリー・1980年)⇔打率は2割台前半と低めだが、一発があることも

 「ロマンチックが、したいなぁ。」もそうですが、大原麗子さんが可愛いです。「なにも足さない、なにも引かない。」のところでも言いましたが、お酒のキャッチコピーはなんだか人間と重なるものが多いですね。このコピーについてコピーライターの安藤隆さんが夫婦というより愛人のような感じがするというようなことを言っていましたが、確かにそんな雰囲気がありますね。お酒も嗜好品という意味では「正妻」というより「愛人」みたいな立ち位置かもしれません。大人のコピーですね。

九(捕)セイコー舎の時計が正午をお知らせします(精工舎・1953年)⇔打力は低いが、うまく上位打線につなげられる選手

 これは技法がどうとかいうよりも日本最初のテレビCMという歴史的意義が重要です。これが一番の「イエイエ」にもつながっていったということで九番にふさわしいCMです。そしてまた「時計」で「時報」というところもポイントですね。テレビCMはまず商品やサービスの宣伝だけというよりもっと広く視聴者に役立つものを流すところから始まったということがよくわかります。

参考文献:時代を映したキャッチフレーズ事典/深川英雄、相沢秀一、伊藤德三編著
日本のコピーベスト500/安藤隆、一倉宏、岡本欣也、小野田隆雄、児島令子、佐々木宏、澤本嘉光、仲畑貴志、前田知巳、山本高史編著
テーマで学ぶ広告コピー事典/グラフィック社編集部編

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