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司馬遼太郎「街道をゆく ニューヨーク散歩」②

元ヤクルトスワローズの古田敦也さんがWBC(ワールドベースボールクラシック)だったかの試合解説をしていたときのことです。

どうやって3つアウトを取るか、ずっと考えています
野球ってどうやってアウトを3つ取るかというゲームなんです
と言っていました。

私でもアウト3つでチェンジになるくらいのルールは知っていました。でも、言い方を変えてくれると、目から鱗になることがあります。このときがそうでした。

野球って「どうやって点を取るか」のゲームだと思ったいた私は、古田さんが逆の言い方をしてくれて、納得がいったのでした。

少し言い方を変えるとか端的に言ってくれると、初心者は急にわかった気がしてくるものです。

司馬遼太郎さんの「街道をゆく ニューヨーク」では、付箋を貼りたくなるような文章が随所に出てきます。いくつか引用させていただきます。

室町・安土桃山のころに発達した茶道は、接客のための哲学的気分を競いあう、いわば静かなスポーツである。(中略)

司馬遼太郎「街道をゆく ニューヨーク散歩」

スポーツと言っています。

近代的なホテルの古典をつくったのが、スイスうまれのリッツだという。(中略)
リッツのあたらしいホテル文化には、イギリスの貴族の館における執事の文化も吸いあげらていた。執事は酒類を管理し、家事も監督する。この文化が導入されたおかげで、利用客はわずかな支払いをするだけで、たとえ数日間であっても、貴族の礼をうける。古い文化の効用というものである。
茶道は、武家貴族や豪商が興したものだが、上下の礼ではなく、相互の礼でなりたっている。すこし執事文化とはちがう。
亭主と客という平等の関係が仮りに設けられ、双方、互敬の礼を煮詰めてゆく文化である。

司馬遼太郎「街道をゆく ニューヨーク散歩」

司馬さんはホテルのメイドやルームキーパーにお礼をいうようになります。気軽にありがとうと。メイドたちは「You are wellcom」とか「My pleasure」とか言っていると思われますが、司馬さんの英語力では「ムニャムニャ」としか聞こえません。

もっとも日本の茶道は、エレベーターのなかや廊下など、たまたませまい空間を共にした見知らぬ相手にまでは及ばない。掃除をするホテルの従業員のあかるい応酬の文化は、アメリカのものである。

司馬遼太郎「街道をゆく ニューヨーク散歩」

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この随筆に書かれていることはすべて司馬さんの考えです。だから「~思う」とか「~ではないだろうか」という表現がもっと多くてもいいはずです。でも、司馬さんは言い切ってくれます。失礼な言い方かもしれませんが、まるで見てきたかのように断定してくれます。だから、すんなりと入ってくるのだと思います。


それも、司馬さんの膨大な知識とバックグラウンドあってこそです。誰が語るかは大事なことですね。司馬さんが語れば断定的な表現が実に当たり前です。読み手は司馬さんはそう思っているのだと受け入れていきます。

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