エッセイ「ボディクリーム」
わたしはいわゆる「そのへんの女子」だったので、人並み程度には美容が好きだ。ちなみに過去形なのは、形式上、謙遜をしているフリなだけであって、本心では現在進行形で「そのへんの女子」である。痛々しいのは分かっているけれど、自分に嘘は付けないので致し方ない。
ボディクリームや、ハンドクリームなどの塗る系では、断トツでホワイトムスクの香りが好きだ。「ムスク」ではない。「ホワイトムスク」ではないとダメだ。
ちなみにムスクをWikipediaで調べると結構ビビる。
オス鹿のへそと生殖器の間にある香嚢という臓器から取れるらしい。鹿にしてみたらたまったものじゃないし、それの匂いをかいで「え、いい匂いじゃなーい?」ってなった人間も、かなり狂気じみている。
ホワイトムスクの香りについて、1番印象に残っているのは、大学の法学の先生である。今のわたしよりも少し歳上だったであろうその先生は関西出身で、恐ろしく早口で、恐ろしく頭の良い女教授だった。
耳より少し長い黒髪。化粧っけのない顔。すらりとしたグレーのパンツスーツは上質だったが、隠しきれない関西特有のせっかちさが、鳴らしたヒールの音からは滲み出ていた。
北海道の、地方の私立大学の授業にしてはいささか難しすぎる内容に(しかも悪いことに法学)わたしを含めた多くの学生が挫折する授業となったことを覚えている。
その先生からはいつも、少し強すぎるホワイトムスクの香りがしていて、わたしはそれが好きだった。それがBODY SHOPのホワイトムスクシリーズだと気付くのに、それほど時間はかからなかったけれど、あの頃の先生と同じくらいの年齢になった今、先生と同じくBODY SHOPのホワイトムスクを愛用しているなんてことは、全く想像出来なかった。あの頃、ボディクリームなんて使わなくても、肌は常に潤っていたし。
30を超えてからは、なんかもう、そりゃあカサつくようになった。特に乾燥肌でもないし、肌も元々弱くはない。それでも冬には全身カサカサになり、脛や肘、膝は砂漠地帯と化す。最近ひどいのはくるぶし。皮膚が薄いせいか気付くと粉を吹いている。
「粉を吹くくるぶし」、なんだか小説のタイトルになりそうではないか。
年齢のせいにはしたくないけれど、やっぱり10代20代とは肌が違う。わたしの暮らすこの街が、真夏の沖縄であろうと、おそらくわたしはカサカサしていると思う。
そのため基本年中ボディクリームを愛用している。美容のカミサマと呼ばれる人がお風呂上がりに、バスタオルで拭く前の濡れた身体にボディクリームを塗布していると聞けば真似したし(バスタオルがベタベタになるのでやめた。オススメはしない)ココナッツオイルが保湿に効果があると聞けば、翌日には1キロサイズのココナッツオイルを購入してきて塗りたくった(いい匂いになるけれど一度虫に喰われてからはやめた。そして冬は寒いので体温で溶かすのがひと苦労。オススメはしない)
結局、市販のごくごく普通のボディクリームに落ち着く。どちらかと言うと、ニベアなんかの硬めのクリームよりも、乳液っぽい、ゆるめのテクスチャのものが肌馴染みが早くて好きだ。ワガママを言うならポンプ式が良い。お風呂上がりの潤った肌に早く蓋をするのに、ボディクリームの蓋の開閉はとても手間。ボディクリームの乾燥よりもわたしの肌の乾燥のほうが重症なのだ。本末転倒なのだけれども。
最後はお値段との相談になりがちなので、だいたい上の2本はどちらか必ず常備している。気に入ったものがあれば、それを使う。気分が上がらない日や、特別な日にはやっぱりBODY SHOPのホワイトムスクを使う。
最近、恵庭の道の駅の中にある「Ra-no」(ラーノ)という雑貨屋さんで購入したボディクリームが気に入った。
恵庭の道の駅はリニューアルする前からとても好き。
近くで野菜が買えるようになってからはもっと好き。
購入したボディクリームは「サンタールエボーテ フレンチクラシック ボディローション コットンリネン」という舌を噛みそうなくらい長い名前だけれど、
さんたーるえぼーて
= Senteur et Beaute
= フランス語で「香りと美しさ」という意味らしい。
テスターで感動したので、値段を見たら250mlで2,200円もして一度は止めたのだけれど、ちょうどその時なんだかとても疲れていたので「なんで我慢してんの?欲しいものなら買ってよくない?」的な思考に至り勢いで購入してしまった。全然お値段と相談出来てない。むしろ負け気味。
とは言え香りはとても好きなので、結果的には買って良かったし、やっぱり自分はこういうムスクとかフラワー系の香りが好きなんだなと思う。コットンリネンという名称はよく分からないけれど、コットンとリネンを洗濯したらこういう香りになるのだろうか。そういえばホワイトティーとかいう名称も良く聞くけれど、ちゃんと考えると白いお茶って何。
数あるボディクリームを試して来た。三十ウン歳、信条は「死ぬこと以外はかすり傷」である。それでも一度ついたかすり傷は、治りにくいことこの上ない。
それゆえに今宵もわたしは塗りたくる。ホワイトムスクだかコットンリネンだかよく分からない名前の、とても芳しい香りに包まれて、今夜も眠りにつくのである。
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