
飲食店なのに貯金50円で起業!大人気スペイン料理店から学ぶ
飲食店と言えば、初期費用として数百万円から数千万円を準備してから始めるイメージがありますよね?
しかし、その固定概念を覆す物語が、大阪府八尾市で温かな光を放つスペイン料理店「Casa Ecclesia(カサ・エクレシア)」にはあります。
駅からほど近い場所に位置するこのお店を切り盛りされるのは、矢田さんとみよさんご夫妻です。
彼らはなんと、貯金がわずか50円という厳しい状況から開業に挑戦しました。
そんなCasa Ecclesiaは今では予約でいっぱいになり、笑顔と人のあふれる賑やかなお店として地域に根付き、多くの人々に愛されています。
この記事では、Casa Ecclesiaがどのような思いと試行錯誤の中で誕生し運営されているのか、店主である矢田さんの言葉やみよさんの視点を通じて学びを掘り下げていきます。
これから事業や副業を始めようと考えている方にとって、失敗を恐れず挑戦し続ける勇気や継続する覚悟、そして周囲との絆の大切さを学べる内容となっています。
Casa Ecclesia、誕生の背景
矢田さんがCasa Ecclesiaをオープンした原点には、「外食のあり方そのものを根底から変えたい」という熱い想いがありました。
長年、飲食業界で数多くの現場を経験する中で、美味しい料理を堪能するためには高額な費用が必要になる現実に疑問を抱かずにはいられなかったのです。
海外での生活や食文化に触れる機会を得た矢田さんは、海外では外食が日常の一部として誰もが楽しむ光景を目の当たりにし、日本における外食シーンが高級レストランか大衆的なチェーン店という二極化に陥っている現状を嘆いていました。
「7,000円から1万円を払って楽しむ高級レストランと、2,000円ほどで楽しむ大衆的なチェーン店の中間が抜け落ちてしまっている」。
そのギャップを埋めてより多くの人々に気軽に、かつ本物の美味しさを体験していただくためにはどのような方法があるのか、矢田さんは何度も自問自答しました。
そして、ある程度気軽に支払える金額でありながらも、最大限のクオリティを追求するに至ったのです。
美味しい食事を通して、レストランの持つ本来の素晴らしさや、食事そのものの楽しさを知っていただきたい――そんな願いと情熱が込められて、Casa Ecclesiaは誕生しました。
誰でも受け入れる温かい空間
Casa Ecclesiaのもう一つの大きな特徴は、「人々が集う家」としてのコンセプトです。ここでは、家族連れはもちろん、子供、年齢、国籍を問わず、誰もが分け隔てなく迎え入れられる温かな空間が広がっています。
「予約さえあれば、どんな人でも受け入れる。2ヶ月や3ヶ月の赤ちゃんが来たら、『ミルクを作りましょうか?』と声をかける」と矢田さんが語るように、子供が飲食店にいることが当たり前という価値観のもとに運営されており、お子様連れに優しいお店であることがCasa Ecclesiaの大きな魅力となっています。
お子様が騒いでも、泣いても、その姿を温かく見守りながら、家族全員が心から食事を楽しむことができる――この姿勢が、多くのご家族の支持を集め、温かなコミュニティを形成しています。
矢田さんとみよさんの物語
Casa Ecclesiaの料理を支える中心人物は、店主でありシェフの矢田和明さんです。彼のこれまでの歩みは、決して平坦なものではありませんでした。
最初は建築関係の仕事に就いていた矢田さんですが、リーマンショックの影響で入社直後に仕事がなくなり、自宅待機か転職を迫られました。そして、矢田さんは以前から興味があった飲食業界への転職を選びました。
チェーン店で店長として現場を経験し、さらに海外放浪やスペイン料理との運命的な出会い、旅館での勤務など、数多くの経験を経て、彼は自らの可能性を追求していきました。
特にスペイン料理との出会いは矢田さんの人生を大きく変える転機となり、本場の味に触れたことで新たな視点を得たのです。
帰国後はスペイン料理店で修業を重ね、遂にはCasa Ecclesiaの開業という夢を実現しました。
一方、矢田さんの奥様であり、Casa Ecclesiaのホールを担当するみよさんもまた、その歩みの中で大きな転換を経験しています。
かつては高校教師として美術を教えており、屋久島の分校での2年間の勤務を経た後、大阪に戻りました。
しかし、厳しいノルマや自身のやりたいこととのギャップを痛感し、長期的にこのまま続けることに疑問を感じるようになりました。
そんな中、夫の矢田さんが起業することとなり、一緒にお店を支えていく決意をされたのです。
予期せぬ転機と再出発
矢田さんは日本での修行を終えた後、再びスペインへ向かうために仕事を辞めるという大胆な決断をしましたが、コロナ禍により海外渡航がすべてキャンセルに。現実は一変しました。
加えて、みよさんの妊娠が明らかになり、不安定なバイト生活では家庭を支え続けることができなくなりました。かといってコロナで不振が続く飲食業界での就職は難しく、これはもう起業するしかないという状況に追い込まれたのです。
銀行預金はわずか50円と絶望的な数字にも関わらず、矢田さんの幼馴染であり税理士の友人が、「お金は借りられる」と言って融資に向けてのサポートをしてくれました。
そして無事に融資を受け、困難な状況を打破することができました。
ただし、過去に携帯料金の支払いをわずか1,000円滞納したことが影響し、数百万円単位で融資額が減少してしまいました。
矢田さんは、自分の信用情報を把握してから融資を受けることの大切さを強調されています。
これは、クレジットカードの使用期限切れなどでよくある事なので、融資を受ける予定がある人は注意しましょう。
難航の末に引き寄せた物件
次なる試練は物件探しでした。矢田さんが強くこだわったのは、店舗と住居が一体となる物件です。
家賃や光熱費の二重負担を回避するためにこの選択以外に道はなく、不動産屋に何度も問い合わせる日々が続きました。
魅力的な物件が見つかっても、家賃が高すぎるために断念せざるを得ない状況もありました。
そんな時、まるで運命が微笑んだかのように、以前から気になっていたけれど売れてしまった物件に隣接する、同じ間取りの物件が空室となっているのを発見。
駅から徒歩2分という好立地で、さらに当初目をつけていた物件とは異なり、実際に人が住んでいた物件であったため、すぐに移り住むことができました。
しかも、初期費用も家賃も当初目をつけていた物件よりも安く、まるで導かれるように格安で理想的な物件を手に入れることができたのです。
家族一丸となって開業
融資が決まり、理想の物件も見つかった後、開業準備は依然として大きな試練の連続でした。
みよさんは出産直前で里帰りしていたものの、遠隔で工事の進捗状況を丹念に確認し、細部にわたって食器や内装の選定を行うなど、家庭と事業の両立に全力を尽くしました。
そして、子供が生まれてからたった3ヶ月で店舗兼用物件への引っ越しを実現し、オープンへ向けた準備を着実に進めたのです。
子供がまだ動かない間は、キッチンカウンターに電動のゆりかごを設置し、成長に合わせて安全対策を講じながら、お店の運営と子育ての両方に挑戦しました。
初めての子育てと初めての飲食店開業という二重のチャレンジに、家族一丸となって立ち向かったその姿勢は、後に続く起業家にとって大きな勇気を与えるでしょう。
地元に根付く、温かいスペイン料理店
Casa Ecclesiaが提供する料理は、単にスペイン料理としての枠に収まるものではなく、矢田さんがこれまでの経験と感性を存分に発揮して作り出した逸品の数々です。
海外で得た知識と、国内での厳しい現場経験が融合し提供される料理は、訪れる人々に新鮮さと同時に懐かしい温もりを感じさせるのです。
シェフとしての誇りと責任感を胸に、矢田さんは常にお客様の声に耳を傾け、オープン直後のディナーで「美味しいけど、少ししょっぱさがある」とお客様からいただいた一言を、次への成長のための貴重なアドバイスと受け止めました。
スペイン料理は、伝統的にお酒と共に楽しむものであり、濃い味付けが基本。ですが、地元の方々に受け入れていただくためには、そのバランスを見極める繊細な工夫が求められました。
価格設定の難しさ
矢田さんは、美味しい料理を提供したいという熱い情熱を持ちながらも、価格設定の難題に日々向き合っています。
美味しいものを作り出すという夢と、誰もが気軽に立ち寄れる価格とのバランスは、単なる数字の問題ではなく、経済環境の変動や食材費の上昇という現実と提供する料理の質との絶妙な調和が求められる、まさに経営の核心に迫る課題なのです。
矢田さんは、ニュースや経済情報に敏感にアンテナを張りながら、食材費の上昇と市場の動向を鋭く見極めています。
「物価が上がって食材費も増加していく中で、どのような料理を作り、どんな一品を提供すべきかを真剣に考えた」という彼の言葉には、経営者としての深い責任感と苦悩が感じられます。
その結果、Casa Ecclesiaのメニューは、日常的に通いたくなるリーズナブルさと、満足感のある味わい、そしてボリュームを見事に両立させた絶妙なバランスの上に成り立っています。
お客様の笑顔が原動力
Casa Ecclesiaの運営は、数多くの困難や試練の連続でしたが、それ以上に心にしみるのはお客様の笑顔です。
矢田さんは、「自分が丹精込めて作った料理がお客様に届いた瞬間、顔がほころぶ姿を見るためにこの仕事をしている」と語ります。
お客様の「美味しい」という一言が、どれほど大きな励みとなるか、そしてそれが次の料理作りへの情熱となっているのか伝わってきます。
一方、みよさんはお客様との交流を通して、子育ての悩みや日常の小さな発見を共有し、互いに学び合う喜びを感じていると言います。
このように、Casa Ecclesiaは料理だけでなく、人と人とが繋がる温かい場所として地域に愛されています。
飲食業界から文化の発信拠点へ
Casa Ecclesiaは単なる食事の場に留まらず、将来的にはより広い文化活動の拠点として進化していくことを目指しています。
矢田さんとみよさんは、「人々が集う家」というコンセプトをさらに拡充し、地域の子どもたちや保護者、さらにはアーティストたちが自由に交流できる空間を提供したいと考えています。
例えば、みよさんは「アトリエを作る」という夢を持ち、子どもたちが創造性を存分に発揮できる場や、各種ワークショップ、さらには料理教室など、飲食業のみならず文化や芸術の発信にも積極的に取り組みたいと考えています。
これは、単なるビジネスモデルの拡大にとどまらず、地域全体の文化的な豊かさを育み新たな価値を創造する試みとして、今後ますます意義を増していくことでしょう。
これから起業する人へ
最後に、矢田さんとみよさんは、これから起業を目指す人々に向けて、熱いエールを送っています。
矢田さんは「起業するっていうのは意外と簡単」と語り、やると決めれば明日からでも始められるほど起業そのもののハードルは低いと断言します。
しかし、大切なのはただ始めるのではなく、それを継続し磨き上げ続けることです。
また、「やるよりも、やらなかった後悔の方がはるかに大きい」というメッセージも伝えています。
みよさんは「今が一番若い時」と断言し、年齢や経済的状況に関係なく、夢に向かって一歩踏み出す勇気の大切さを強調します。
周囲の意見に耳を傾けつつも試行錯誤を重ね、ステップバイステップで理想の形に近づけるプロセスこそが、起業家としての成長に不可欠なのです。
また、「お金よりも人のご縁が大切」という言葉も印象的でした。お金がなくても人のご縁があれば、何かを成せる。
編集後記
まさか、飲食店を自己資金がほぼゼロで始められるとは思っていませんでした。しかも、矢田さんは事前に綿密な計画を立てたわけでもないのです。まさに、「起業しようと思えばすぐにできる」を体現されています。
Casa Ecclesiaは、ご紹介したとおり幸運に恵まれて誕生しました。そんなの少数だと思われるかもしれませんが、実はこうした幸運を掴む人はたくさんいます。それは矢田さんもおっしゃっていました。
ただ、こうした「普通にはなさそうな運」を掴むには、「いつもとは違う行動」を起こさないといけません。
想いを持って新しいことに取り組めば、おのずと道が拓けます。
お二人の話を伺って、お金があっても一人でできることには限界があるけれど、人とご縁で繋がればできることが広がると再認識しました。
これからも、ご縁を大切にしながら事業など活動を続けていこうと思いました。
みなさんもぜひ一度、Casa Ecclesiaを訪れて、その温かい雰囲気と本物のスペイン料理、そして家族や地域の絆が織りなす物語に触れてみてください。
Casa Ecclesia(カサ・エクレシア)
住所: 大阪府八尾市本町1丁目6-21
インスタグラム: https://www.instagram.com/casa_ecclesia/