秘めた想い
23歳の夏、ハノイの夜の市場で私とあなたは出会った。
どこかエキゾチックな容姿になめらかな肌。
私はすぐに恋に落ちた。
「そんなに素敵かなぁ」
友人達はあなたに興味を示さなかったけど、
私にとっては、まさに運命的な出会いだった。
一緒に暮らし始めて私は幸せだった。
何より、毎日あなたとの食事が楽しかった。
あなたは私にイマジネーションをくれた。
あなたは特別だって、私はすぐにわかった。
そしてあなたも、私が表すどんな色も受け止めた。
平凡に続くブルーも、真っ白も、艶やかな紫も、やわらかいピンクも、瑞々しく火照るような赤も、そして真っ暗な深い黒も。
スイートな時間まであなたが完璧だったのは意外だったけど。
一緒に市場にいた友人たちも、この頃にはあなたの魅力に気づいて羨んでいた。
唇にあたる厚みも指を回す腰のかたちも。
あなたは完璧で、私はあなたに夢中だった。
ずっと一緒。そう思っていた。
でも、その10年後、
今の私の夫が現れて、あなたは壊れた。
ううん、壊された。
彼は何度も「ごめん。」と言ったけど。
優しいけど豪快な彼の存在が、繊細なあなたを傷つけた。
私は彼と結婚したけれど、それから15年、
ずっとあなたのことを忘れずにいる。
あなたによく似た姿を見るたびにドキッとするし、でも近づくと、やっぱりあなたほど完璧な存在はいないと寂しくなる。
恋しすぎて、似たような存在で喪失感を埋めたくなる時もあったけど、それが虚しいことや無駄になることを知ってる。
だから私は、また本当の出会いがあるまで、あなたを思いながら過ごすと決めている。
そして、もしまた出会えたら。
その時は、彼には
あなたに 指一本 触れさせない。
そう決めている。
私の運命の、黄色い器。