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「こんな女いねーよ」な小説や漫画について
男性作家の描く「女」は、女から見るとエイリアン?
昨今、文学賞やNHK連ドラをはじめとするドラマの脚本などで、
女性の活躍がめざましい。
芥川賞や直木賞候補作は、いまや男性作家より女性作家の作品が多いし、
第167回芥川賞の候補作が、創設以来初めて全員女性作家の作品になったことも記憶に新しい。
先日放送を終えたNHK「虎に翼」の脚本家も若い女性だったが、
「登場人物のセリフがとても刺さる」とネット上で大評判になった。
文学作品も同様で、女流作家たちが描く等身大の女性像に
amazonレビューやSNSなどで共感の声が溢れている。
私も仕事で文芸雑誌の校正をしているが、
刺さる言葉や深みのある言葉、緻密な人物描写に優れているのは、
圧倒的に女性作家の作品である。
男性作家の作品も物語としては秀逸な作品ばかりなのだが、
それは「種や仕掛けや伏線回収」、つまり創作テクニックの観点からであり、本当の意味で琴線に触れる作品にはなかなかお目にかかれないし、セリフも刺さってこない。
(校正者ゆえの毒舌失礼💦)
この辛口判定は、決して私がフェミニストだからではない。
(ちなみに私は既婚、子だくさんである)
なんなら、作者の性別など知らずに(ペンネームでは性別がわからない人も多い)読み進めて、「あ、これは女性が書いた作品だな」「これは男性だろうな」と思うことが多々ある(そしてたいてい当たっている)。
それほどに、男性作家と女性作家の描く人物像、とくに異性の描写の緻密さには雲泥の差があると感じるのである。
昨今の文学賞受賞者や、ヒットドラマの脚本家に女性が多いのも、あるいはその結果ではないだろうか。
時代遅れな女性像
リアルな「女」として現実世界に生きている立場から言わせてもらえば、
男性作家の描く女性に共感できたことは、あまりない。
それどころか、
「こんな女、世界中どこ探したっていねーよ!」
と思うこともしばしばである。
批判を覚悟で言えば、男性作家の描く女性は、その多くが「時代遅れ」か「テンプレ化」のどちらかである。
時代遅れの代表例は「しずかちゃん」である。
(大人になって改めて見ると、端々で見えるしずかちゃんの「のび太好きっぷり💕」はかわいくて大変萌えるのだが、ここではおいておく)
冷静に考えればわかることだが、ああいう(いつもミニスカで男子とつるんでいる)女の子は10割の確率で女子受けが最悪で、陰では悪口を言われまくってるはずである。
(にもかかわらずしずかちゃんが人気者なのは、ひとえに藤子不二雄先生の卓越した力量のおかげである)
だが、少年漫画でも男性向けラノベでも、いまだにこの手のヒロインが非常に多い。
それは「そういう女の子が好き」な男性読者を獲得するためには得策かもしれない。
少なくともコミケ用の同人誌を書く場合にはまったく問題ない。われらが王道ヒロイン万歳!である。
だが、文学や漫画の世界でプロデビューを目指す場合はそうはいかない。
なぜなら、女にとって一番癪にさわり理解不能なタイプの女をあえてヒロインに据えるということは、女性読者獲得のチャンスをみすみす逃すことにもなりかねないからである。
ヒロインのテンプレ化
一方、テンプレ化とは、簡略にいうと次のような女性たちである。
・過剰に性的である(ダイナマイトボディの美女(ロリ向けでは童顔美少女))
・過剰に暴力的である(男には「美少女に殴られたい」という欲望でもあるのか、というほど手が早い)
・「蝶よ花よ」で育てられた清らかなお嬢様
・不治の病を患っていて余命いくばくもない
ヒロインがこの4つのカテゴリー(セクシー派、格闘派、清純派、病弱派)のうち、どれかに当てはまる作品が世の中には氾濫している。
これもコミケ用の同人誌を書く場合にはまったく問題ない。総じて、男性は女性より保守的なところがあるので、半世紀前から変わらぬ王道ヒロインの登場に、読者は安心感すら覚えるだろう。
だが、現在文学界の最前線で活躍している一流作家がこの手のヒロインを描くことはまずない。
つまり、あなたのめざす戦場がコミケではなく商業誌だとしたら、このテンプレ化した(かつ内面の薄っぺらい)ヒロインが評価の足を引っ張る可能性は非常に大きい、ということである。
ふだんからラノベや少年漫画、それに付随する二次創作だけを愛読し、リアルな女性との付き合いや女性向けの小説・漫画を読む機会が少ない方は、自分の描く女性が現実の女性たち(の感覚)と乖離しすぎていないか、改めて自作を見直してみたり、周囲の女性(母親や友人、同僚など)に意見や感想を募ってみてはどうだろうか。
また最近は女性の本音を赤裸々に、それでいて自然体で表現しているコミックエッセイのほか、ウーマンエキサイトや発言小町などの女性向けSNSも大盛況で、リアルな女性の生の声を気軽に拾うことができる。
テーマは恋愛、仕事、嫁姑問題、不倫など多岐にわたり、これまでアイドルや美少女萌えキャラやキャバ嬢にしか興味のなかった男性には斜め読みするだけでもかなりきつい内容かもしれないが、その分創作のヒントに溢れている。
ときに傷つきながら、ときに怒りながらも現代を逞しく生きる女性たちの本音を知ることによって、時代遅れでもテンプレ化でもない、真に魅力的なヒロインを描けるようになるかもしれないし、それによって作品全体の魅力も格段にアップするかもしれない。
今後、女性から見ても素直に共感できる、清濁合わせ持った魅力的なヒロインを描く男性作家が続々と登場することを、しがないいち校正者として大いに期待したい。