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千のプロローグ

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物語が始まりそうな予感…
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記事一覧

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詩 無責任で永い物語足裏の皮を擦り減らし 肉は削られ骨はひび割れた 赤黒いものが地面に浸みこんでいく もはや痛みと喜びの区別を見失った頭を支えて 歩き続けることに意味はあるのだろうか ある程度まで行くと靴が用意された こんな頭だから何足も履いてしまう 靴の上から靴を履き重ねるたびに 安心する感じがしてやめられないのだ 地面の感触が分からなくなってくる しまいには、足が在ることも忘れてしまった 余計に喪ってしまった しばらくの間は、痛みはないはず 物語のつづきは考えたく

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詩 せんそうしまくりワールド人と人はせんそうしまくる おおきな銃をつくったり お金のかからないころしかたをかんがえたり 人ともりはせんそうしまくる 人とぞうはせんそうしまくる 人とみみずはせんそうしまくる もりとぞうとみみずはおのれをころす人のめをのぞきこむ 何千年も人のめをのぞきこみつづける もし だいち くも たいよう うみにおもいやりのこころがあって けいさんするあたまがあったならば (あるかもしれない) だいちは365日たてによこに揺れ くもは365日そっぽを

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 ポールは自分で死のうと決めた。  きっかけは一滴の恐怖。ぽつん。  本当にぽつんという音がしたのだ。ぴちょんでも、どぼんでもない。より正確には「ぽ」と「つん」にほんの僅かな間があった。海に降り注ぐ雨音のなかから一滴分の音だけを取り出したときの音に似ている。街中に降り注ぐ雨音ではいけない。街の雨粒は海のそれよりも小さいし、街は広大で重厚な水面をもたない。海の雨音を長い時間かけてろ過して、ようやく滴り落ちてきた一滴の音。ぽつん。   ポールはタカシの訃報を聞いて、呆然と立ちつ

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詩 はじまり優しいお父さんとお母さんのもとに生まれて すくすく五体満足 先生と友だちと出会って ふつうに結婚して 子どもを何人か授かって ほっこり死ぬ この街では僕の命はどうやらうまくいきそうにない わかってる そんなこと誰よりもわかっているさ 一人で逝こうとすると きみは現実や勇気 神までをももちだして救いについて語りだす わかってる けれども、だからといってこの身体はやめない 僕はそんなきみを圧倒的に支持する 満ち足りているのに奪いあう 拾った愛のために自由を棄

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詩 やっぱり、すききみが、ぼくのことを、七回もふった夜。 ぼくの口のなかは渇ききっていて 呼吸はおちついていて 自分の血が管を流れる音がはっきり聞こえた。 ぼくの一回のすきに、きみは七回も「すきじゃない」と返した。 ついに、「一生涯、愛することはない」とも言った。 それでもぼくらは同じ布団の上で隣り合って寝ていた。 今夜が最後になるかもしれない。 きみの寝息をあとで思い出せるように、めいっぱい耳をそばだてた。 きみと同じ布団で寝ている自分を貧しく感じて、床で

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 タカシは自分で死のうと決めた。  ナオキの自死に立ち会ってからというもの、タカシの自死への決意は日に日に強くなっていった。今では決意は習慣へと昇華した。ベッドに入る前の歯磨きと同様に、自死もまた習慣のサイクルの一部となっている。ただ、実行に移せないのには理由があった。タイミングが合わないのだという。  例えば、歯磨きは食後や就寝前という前動作がトリガーとなって引き起こされる。歯磨きに至る流れというものがあるように、自死に至る流れもまたあるのだ。けれども、タカシは流れをつか

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 ナオキは自分で死のうと決めた。論理的な言い訳もギリシャ悲劇のような物語も、一神教の神からのお告げもなかったが、ナオキは自分の手で計画的に死んだし、あくまで恣意的に死んだのだ。  「ゼロからは何も生まれない」という科学の原理を覆し、まさにその決心は無から生まれでた類のものだった。その後、彼の肉と精神(あるいは魂)は灰となって世界中にばらまかれ、ぼくは息をするたびにナオキを体内に取り込む日常をおくっている。ぼくの肉体が彼の部分からエネルギーを得ていることは事実であり、彼の死に特