アフィリエイターがWeb選挙参謀になって組織もない・お金もない・政党に所属していないパートのシングルマザーが愛媛県議会議員選挙に当選した話
※追記
このnoteが、選挙ドットコム→Yahooニュースに転載され国内アクセスランキング5位になりました!
2019年4月7日深夜。
あと10分で日付が変わるタイミングで、角田智恵(かくだ ともえ)さんが愛媛県議会議員選挙に当選しました。
角田さんの陣営には何もありませんでした。
どれくらい何も無いかというと、
・昼間の事務所は角田さんのお母さんが一人で対応
・3万円の広告費を金策する必要があった
窮状は他にも多数挙げることはできますが、このような状況でした。
政党公認の立候補者に比べると、まさに「アリと巨像」
20名の立候補者のうち16名が当選するとはいえ、角田さんが当選する見込みはほとんどありませんでした。
しかし結果として角田さんは16名の末席に愛媛県議会議員として名を連ねることになりました。
今回わたしは、インターネット選挙参謀として角田さんの陣営に深く関わり初当選に大きく貢献しました。
そこで、どのようにインターネットを駆使して当選に至らしめたのか?
シェアすることにしました。
角田さんの陣営に参加した理由
わたくし永野は2018年の松山市議会議員選挙において、現松山市議会議員である松波さんのインターネット周りをサポートしました。
その際、松波さんの応援をしていた角田さんと知己を得ることになります。
角田さんは私の働きぶりをとても評価してくださりました。
そして2019年の愛媛県議会議員選挙では、インターネットを主軸にした選挙活動することに決めたのです。
角田さんの状況
角田さんはDVの被害者でシングルマザー。
そして、パートで介護の仕事をしていました。
愛媛県議会議員選挙に挑戦する理由は「子供や女性のDV被害者の負担を減らすこと」
そのことを草の根運動的に広めていくことを大変重要視していました。
そしてパートのシングルマザーでも政治家になれることを証明したい。
強い思いを持っていました。
有力者の支持とバーターで自分の主張を曲げられることに、とても抵抗を抱いていたのです。
そのため、経営者や松山の有力者に依存しない政治活動を続けていました。
ですから、組織票はまったく期待できません。
・選挙資金は持ち出しとカンパ
・選挙スタッフは全員ボランティア
そして冒頭でも書きましたが、数万円の広告費の捻出も難色を示すほどにお金のない陣営だったのです。
最終的には地元のインターネット広告会社の社長が玉砕覚悟で顔出し協力してくれましたが、表立って力を貸してくれた経営者はこの社長1人だけ。
選挙の最前線で協力してくれた政治家は、現松山市議会議員の松波さんのみ。
組織もない・お金もない・政党に所属していない
現職の衆議院議員が応援にかけつけるような陣営と比べると、まさに「アリと巨像」
組織戦を展開する陣営から見れば、歯牙にも掛けない「最弱」の陣営。
それが角田陣営だったのです。
角田陣営の選挙戦略
Facebookは友達が2500人以上いました。
しかし異業種交流会などで無作為に友達を集めていたため、エンゲージメントは低い状態。
1投稿に付くいいねの数は80から100程でした。
しかもFacebookのアルゴリズムは「新たな出会い」よりも「コミュニケーション」を重視する方向に変わっています。
そのため、角田さんを知らない人のタイムラインに情報が拡散していくのは厳しい状況でした。
Twitterのアカウント自体は以前からありましたが、選挙に特化した運用を始めたのは半年ほど前でした。
フォロワー数は200人程度で、そのほとんどが相互フォロー状態です。
そのため新たにアクティブなフォロワーを獲得するのは非常に難しい状況。
Instagramはフォロワーが700人程度。
角田さんが女性ということもあり、濃いつながりのフォロワーは多かったです。
しかし選挙で投票してくれるか否かについては、微妙なフォロワーが多い状況でした。
公式サイトはスマホのレスポンシブ対応をしていなかったので、急ぎ選挙に向けてレスポンシブに変更。
しかし、内容の濃い記事が多く投稿されているとは言えず検索で上位表示するのは厳しい状況でした。
アメブロはマメに更新していたので、なんとか上位表示に使えそうなレベル。
これら既存の媒体に加えて無料で使えるものとして、
・YouTubeチャンネル
・LINE@
・TikTok
を用意しました。
SNSメディアの効果測定
実際にどれくらいエンゲージメントが期待できるか?
FacebookライブとInstagramライブを複数回行い、リアルタイム配信して事前にテストしてみました。
するとリアルタイムで視聴する人は最大で4名程度。
この時点でSNSは選挙戦において主軸にしないことを決めました。
ネット選挙戦術は「検索」に特化
SNSが集票装置として期待できない以上、検索経由で角田さんを知らない人に知ってもらい投票してもらうしかありませんでした。
繰り返しますが、組織票はまったく期待できません。
当選するためには、「誰に投票すればよいかわからない有権者」を根こそぎ集める必要がありました。
そこで選挙戦の基幹戦術を以下のように定めます。
「愛媛県議会議員選挙」などのキーワードを入れて検索する有権者のスマホに、可能な限り角田さんを露出する
他の陣営が所有するメディアをくまなく調べたところ…
愛媛県議会議員選挙に立候補するにもかかわらず、ホームページのタイトルや見出しには「愛媛県議会議員選挙」などのキーワードがほとんど入っていませんでした。
そのため立候補者個人のホームページが「愛媛県議会議員選挙」の検索結果に出てくる可能性は極めて低かったのです。
組織票で投票する人は、わざわざスマホで「愛媛県議会議員選挙」と検索しません。
誰に入れるかすでに決まっているわけですから。
スマホに「愛媛県議会議員選挙」と入力する人は、誰に投票するか決めていない人です。
だからスマホで、誰が立候補しているのか調べます。
さらに言えば、スマホに「愛媛県議会議員選挙」と入力する人は、選挙に行く意思がある人ともいえます。
ちなみに、「愛媛県議会議員選挙」関連の言葉で検索するユーザーは数千人規模で存在することが数字ではっきりと証明されています。
※公式サイトのGoogleサーチコンソールのデータ
選挙に行く人の検索需要は、間違いなく存在します。
有権者に必要な情報が届いていない
選挙前に新聞やテレビは「選挙の争点」に注目し報道します。
愛媛の豪雨災害や中予分水についてなど。
しかし、ここでよく考えてみてほしいのです。
選挙の争点の前に、どんな人が立候補しているのか?
大多数の有権者は知りません。
そして上辺だけの経歴ではなく、「立候補者がどんな人生を歩んできたか?」が伝われば、当選後どんな政策を推し進めるのか予想がつきますよね?
有権者が選挙でもっとも必要とする情報。
それは「なぜ立候補したのか?なぜ政治家を志したのか?」
有権者のWhyに対する、立候補者の答えなのです。
角田智恵は有権者のWhyに無尽蔵に答えることができる、唯一の立候補者でした。
自分がDVの被害者だから、愛媛で自分と同じ思いをしている人の負担を減らす
有権者のWhyに対する答えは、角田さんが今まで生きてきた人生そのものだったのです。
結果、角田陣営が集めるべき有権者を、
・「愛媛県議会議員選挙」などとスマホに入力する選挙に行く意思がある人で、誰に投票するか決めていない人
・Whyを求めて検索したネット上の有権者
と定めました。
DV被害者の負担を減らすことに共感しない有権者は、投票しないのでは?
多くの方がそう思うかもしれませんが、わたしは違うと思います。
有権者が誰に投票するか決める要素。
それは有権者のWhyに答えようとしている「姿勢」があるか否かであると。
角田さんが立候補した理由は、政治の力でDV問題を解決したい。
それさえ伝われば、有権者は投票してくれるとわたしは思いました。
そして実際に結果が出たのだと確信しています。
「愛媛県議会議員選挙」の検索結果はどうなったか?
当初「愛媛県議会議員選挙」の検索結果に、公式サイトやツイッターを軸に角田さんのメディアが登場するようにしかけていました。
ところが、検索結果にYouTube動画が大量に出てくるようになったのです。
愛媛県議会議員選挙が行われる9日間、選挙に関連する検索キーワードの需要は一気に大きくなります。
そこでGoogleはその傾向を察知し、選挙というリアルタイム性の強い需要に対して極力フレッシュな情報を検索結果で返そうとするのではないか?
リアルタイム性の強い需要に答えるのは、ニュースに代表される「動画」ではないか?
そんな仮説を立てて、角田さんの情報をYouTube動画で発信するように大きく方針を変更しました。
街頭演説の1時間後には、YouTubeにテロップ入りの動画が上がっている状態にしました。
結果「愛媛県議会議員選挙」に関連する検索結果には、必ずといってよいほどに角田さんの顔が登場することになります。
YouTubeインサイトの数字も急増したのです。
「トップニュース」の活用
YouTubeなど無料で活用できるメディアだけでは、さすがに露出の限界があります。
そこで選挙ドットコムさんの「ボネクタ」を活用することにしました。
その際、量産していたYouTube動画をボネクタに埋め込み頻繁に更新したところ…
「愛媛県議会議員選挙」等の検索結果で、「トップニュース」扱いで角田さんの投稿が表示されるようになりました。
検索結果の1ページ目を大きく占領する「トップニュース」は、角田さんの存在を際立たせることに。
結果的にボネクタ上にある角田さんのプロフィールが1万人以上の有権者に見てもらえました。
そして最終的に「愛媛県議会議員選挙」等のキーワードで検索すると、
・YouTube
・ボネクタ
・公式サイト
・アメブロ
・Twitter
角田さんが所有する上記のメディアのどれかが必ず出現する状態に持っていくことができたのです。
若年層対策に「TikTok」を活用
若年層は、まず検索で選挙のことなど調べない。
仮説を立てました。
そこで、角田さんが所有するInstagramやTwitterが育っていなかったこともあり、若年層にリーチするメディアとして「TikTok」を活用しました。
しかし運用当初はまったく反応がありません。
ところが女性・母親・介護職が抱える問題を紙に書いて読み上げる動画を作成し、1日複数回投稿するようにしたところ反応が激増。
動画を1つ投稿するたびに5000回~8000回再生されるようになりました。
TikTokに選挙の投稿をすることに対する反応はとてもひどく、ほとんどがネガティブな反応でした。
しかし粘り強く投稿することで、3割程度の人から好意的なコメントをいただけるようになりました。
TikTokを見た何人が投票をしたのか、追う術はありません。
しかし若い人がアクティブに活動しているSNSに選挙の情報を発信することに意味はあると、わたしは思います。
当選後に角田さんが街頭演説をしていると、遠くにいる高校生の集団から「かくださーん、おめでとう!TikTokフォローしてるよー!」と声をかけられました。
今回の選挙に投票はしていないかもしれませんが、未来に種を蒔くことができたと思います。
ネット選挙活動は投票率アップが不可欠
ここまで、ネットにおける選挙活動の具体的な戦術について書いてみました。
しかしネットを駆使すれば選挙に勝てる、とは口が裂けても言えません。
ネットで選挙の情報を探す有権者のほとんどは、「誰に投票すればよいかわからない人」です。
組織票に組み込まれた有権者に、インターネットの情報が介入する余地はありません。
ですからインターネット選挙活動が有効にはたらくためには、投票率の上昇が不可欠になります。
今回角田さんが戦った松山市・上浮穴郡選挙区の投票率は37.51%。
ここまで投票率が下がってしまうと、浮動票を狙う余地がほとんどありません。
裏付けがあるわけではありませんが、37.51%のうち30%くらいは組織票に組み込まれてしまっていると感じました。
このように仮定すると、残りの7%をネットで奪い合う構図になってしまいます。
つまり投票率が下がってしまうとネットでいくら選挙活動を頑張っても、そもそも当確ラインに達する票数を獲得できなくなってしまうのです。
逆に、松山市・上浮穴郡選挙区で投票していない6割が選挙で意思表示すれば結果は大きく変わります。
投票率が50%になるだけで、当選する顔ぶれはまったく違うものなるのです。
投票率が4割を切る中、角田さんは約6800票を集めました。
投票率が上がり浮動票の数が増えると、インターネットで有権者からの「Why」にしっかりと答えた立候補者に票が集まります。
投票率が上がれば上がるほど選挙に与えるインターネットの影響力は増大し、結果「お金も組織もないけど有権者目線でしっかりと情報発信できる陣営」が選挙に有利になるのです。
端から組織票を重要視する陣営や候補者は、有権者が求める「Why」に答えることができません。
答える気もないのです。
なぜなら、選挙に当選することが目的だからです。
組織票に有権者個人の意見など不要ですから。
つまり組織票というのは、民主主義を根本から侮辱する行為なのです。
一個人の人権を守るために国や自治体が総力をあげるのが、民主主義ですから。
角田さんには、
「DV被害者の負担を行政の力で減らしたい、そのために議員になる必要がある。」
選挙に立候補する明確な「Why」があった。
だから当選したのです。
インターネットのおかげで、投票率が上がれば政治に対する理念や政策を有権者に伝える候補者が有利になる仕組みができつつあります。
しかし投票率が低いままだと、インターネットの力が組織票に勝りません。
日本社会の閉塞感や疲弊の原因、それは「無関心」です。
有権者が関心を持ち行動すれば、変化の歯車が回り始めます。
投票率が5%上がれば、角田さんのようにお金も組織もないパートのシングルマザーが政治の舞台に上がれる確率が高まるのです。
そして弱い立場の人の意見が政治に反映されるようになっていきます。
今回のインターネット選挙活動に関する発信で、少しでも投票率が上がることを期待します。
そして停滞している日本社会が、変化のきっかけを掴むことにつながれば幸いです。
2018年の松山市議会議員選挙におけるネット活動を、noteに詳しくまとめてあります。
発行責任者:永野 護
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