リゾートホテルからウェルネスリゾートへ。映えではないブランド再構築ストーリー【後編】
コロナ禍にありながらも、3期連続で過去最高売上を実現した奄美大島のウェルネスリゾート「THE SCENE amami&wellness resort」。
成功の背景には、言葉で「ウェルネスリゾート」という漠然としたブランドイメージを伝えるのではなく、ブランドをどう体現していくか、顧客体験をどう提供していくのかを徹底的に考え、点ではなく線にしたブランド構築ステップがありました。
前編では、ファーストステップとして、独自性の価値を明確にしたブランドコンセプトの再構築、顧客ターゲットの定義についてお話ししました。
この後編では、定義したターゲット顧客に合わせたウェルネス商品開発から
ターゲット毎に価値を訴求する戦略と、その具体的な集客施策までをお話しします。
ブランドを顧客体験に落とし込む商品開発
独自性の「ここにしかない価値」「コンセプト」「ターゲット」の明確化が完了。まず取り組んだのは、ブランドを顧客体験に落とし込む商品開発です。
今回のケースでは、ウェルネスリゾートに舵を切る決断をしたことで、時流にあった"健康意識の高まりのニーズに応えること"が可能となりました。
支配人の小林氏は、元トップ営業マンだったこともあり、ビジネス戦略を描くことに関してはプロ中のプロ。一方でこんな声がありました。
そこで私自身のトレンドを意識した消費者視点も交えながら企画開発を行っていきました。
ペルソナを絞り、健康志向の「30〜40代女性」と「経営層」に
ペルソナは、健康意識の高い「30〜40代女性」と「経営層」と大きく2つに定義しました。
まず30~40代女性をメインターゲットとした商品は、「快眠体質プラン」という企画を打ち出していきました。当時はコロナ禍で、不安を抱えて睡眠障害に悩む方も増えていた時期。
日頃からウェルネスに関するプロジェクトに携わることから、睡眠に何らかの問題を抱える女性たちが、ネット検索する中で「寝つきをよくするには、リラックス状態に導く副交感神経が優位になるようにするとよい」といった自律神経について少なからず知識を持ち始めているという実感がありました。
そこで、副交感神経を高める要素を盛り込んだ「快眠プラン」の商品開発を手がけ、30~40代女性の悩みに照らし合わせながら丁寧に伝えていくことに。
そしてターゲット顧客と重なる読者層をもつ媒体にプレゼンを重ねていき、単なる「癒し」を求めるに留まらず、「睡眠障害を改善したい」「自律神経の働きを整えたい」というウェルネスの意識をもつ女性への認知拡大につなげていきました。
また経営者向けの企画では、日頃から常に交感神経が高い方が多い経営者の傾向をふまえ、あえてデジタルから離れ、リラックス効果の高い自然の中で行うプログラムを意識的にいれていきました。もちろん全国から集まる経営者同士の交流を深めるのも、大自然の中で行います。
このようにターゲットに合わせたブランドコミュニケーションを行うことで、対外的に「心身を浄化する“ネイチャークレンズ”がコンセプトのウェルネスリゾート」というブランドイメージを確立していったのです。
広告展開はせずに、戦略PRを実施し露出は8倍に
ターゲット層に合わせた媒体へ、リブランディングに沿った企画を提案。「ネイチャークレンズ」や「ウェルネスリゾート」という概念そのものから丁寧に伝え、共感を得ながら企画を設計していきました。
ブランドイメージに沿った質の高い情報を発信できたことで、ブランディング・PRを戦略的に開始して1年が経つ頃には、前年比で8倍の露出になりました。
さらに現場では「奄美大島で調べると、いろんな雑誌でTHE SCENEばっかり出てきますよね!ずっと来てみたかったんです」というリアルなお客様の声も耳に入るようになりました。
また業界の方々に「ウェルネスリゾートといえば奄美大島の『THE SCENE』」というブランドを認知していただけている体感も。
膨大な費用のかかる広告展開は行わなかったにもかかわらず、この結果となったことは、焦らず地道に「THE SCENE」の価値をいろいろな手段で継続してきたことが大きな要因となりました。
イメージ先行ではなく、ウェルネスリゾートの顧客体験を設計
一般的にウェルネスリゾートというと、イメージ先行でビジュアル重視の施策となりがち。しかし、イメージ先行では顧客体験との乖離が生まれる可能性もあり、本質的なブランディング、しいては売上につながりません。
そのため私は、現状分析と戦略構築から行うことを重要視しています。メディア露出を図るためのPR施策は最終工程。PRの材料を揃えるために、ブランド構築、商品開発などのプランニングをすることが大切です。
2〜3カ月後の集客を上げたいのであれば、広告展開が有効なこともあるでしょう。ただ、それは一時的な売り上げ獲得のための効果はあったとしても、中長期的な成果が約束されるものではありません。
1年後、5年後といった中長期的な視点でとらえた場合、独自のブランド構築に注力し、適切な形でのブランディング、そして戦略的なコミュニケーションを図るのはとても効果的だといえます。
この「THE SCENE」では戦略的なリブランディングにより新規顧客増加を実現するとともに、顧客満足度が向上して多数のリピーターを獲得。コロナ禍においても3期連続で過去最高売上を記録しました。
現在は「ここでの体験が忘れられなくてまた来ました」というお客様の言葉がスタッフのモチベーションを高め、サービスの質の向上にもつながるという良い循環が生まれています。
ウェルネスブランドの鍵は、「戦略」×「トレンド消費者視点」
今回の事例では、このように単なるブランド・PRではなく、戦略的な視点から入り、ペルソナとしてのトレンドを踏まえた消費者視点も活かしながら伴走しました。このことについて、支配人の小林氏からこのような声をいただいています。
支配人の小林氏も、私自身も、コロナ前から「ウェルネス」に着目し実践してきたひとり。だからこそ、自分が心から良いと思えるウェルネスな体験に出合いたいですし、そのような体験を広めていきたいという思いで取り組んでいます。
コロナ禍を経たことで人々の健康志向はより高まり、ウェルネスという言葉が先行している今。単なる「観光」や「癒し」ではなく、そのブランドが提供する「ウェルネス体験」をどう顧客体験へ落としていくのか、さらに独自の付加価値をどう生み出していくのか。そして、それらを的確に認知拡大へ繋げていくことが差別化の鍵となるでしょう。