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特集③「演出する女優ソン・イェジン」人気と実力を手にしたCEO気質

 「愛の不時着」のメイキングビデオをみると、ソン・イェジンが自ら積極的に演出に係っているのがわかる。第五中隊と食卓を囲むのシーンでは、彼らの席順まで、あっちがいいだのこっちはどうだのと、まるで演出家のようである。そして、彼女のアイディアを「じゃ、それでいってみよう」とイ・ジョンヒョ監督が後追いしている。
 「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」のメイキングでは、脚本を見て、「ここでこんなセリフをいうだろうか?」と監督に食い下がっているシーンがあった。しかし、アン・パンソク監督は、そういう撮影現場での彼女の積極的な姿勢を「一つのシーンも見逃さない。まるで、プロボクサーのモハメド・アリのようだった」と高く評価している。

 ソン・イェジンは主演女優だが、もちろん演出には決定権はない、けれども、演出のアイデアは豊富なようで、思ったことは積極的に発言するそうである。それを見て、周りの共演者も自分のアイデアを出すようになり、監督もそれを受け入れて、相乗効果でドラマの完成度も上がっていく・・・
 
 となれば、いいけど、そうはうまくは、けしていかないだろう。
 なぜなら、昔から、演出に口を出す女優、自ら演出家になろうと野心を抱く女優には、バッシングが待っていると決まっていた。誰から?もちろん監督をはじめとする制作陣からである。いくら演技の上手い女優であっても、俳優が演出をするのとは、風当たりが違うのだ。たぶん、そういう雰囲気は今でも同じだろう。

 では、なぜ、ソン・イェジンは演出に口を出してもバッシングもされず、評価されているのだろうか。

 その理由として、わたしは、彼女は、従来のトップ女優の立ち位置にとどまらず、まるでスタートアップ企業のCEOのような立ち位置に、自らを置くことに成功しからだと思う。
 それはどういうことか。二つのエピソードを挙げて説明したい。

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1 主演映画へ出資=スポンサーになる

 ソン・イェジンは、映画『ラストプリンセス~大韓帝国最後の皇女』では、当初予定していた映画内容の規模では予算が足りないと聞き、自ら10億ウオンを出資した。そして、映画は大成功をおさめ、数々の映画祭で主演女優賞を受賞している。
 つまり、彼女は、主演女優でありながら、スポンサーにもなったわけだ。
 映画は、ヒットして大興行となるか、失敗して借金をかかえるかのイチかバチかの大勝負である。その局面で、女優が個人で出資者にもなるという決断をするのは凄いことだ。
 これには、さすがに監督もスタッフも一目も二目も置かざる負えない。
 そんなに気前よく資金を出してくれるような女優はそうそういないだろうから。

2 映画のプロモーションのときのプレゼンが上手い

 いざ、映画が封切りされるとなると、監督や主演俳優らは宣伝のためにテレビ番組に出演したり、舞台挨拶で、あちこちの映画館をまわって、プロモーションを行う。韓国では特にそれが盛んなようである。
 俳優に演出に口を出されるのを嫌がる監督さんたちだって、自らカメラの前で話さなければならない。しかし、そこで監督に演出できる人はいない。
 そして、これはあくまで、私個人の感想だが、監督さんには、あまりお話がうまくない方が多いようだ。自分の映画の魅力をうまく語れる人は少ない。というか、あまり見たことがない。
 そのような場面では、ソン・イェジンのプレゼン力が活きる。自ら出演した映画の魅力が伝わるように、その場を演出して、プレゼンを進めてくれるので、周りも安心して任せられる。スタートアップ企業で、ピッチが上手いCEOというのがカリスマ性を持つように、主演女優にプレゼン力があるというのは心強い。
 しかも、ドサ周りのように地方の映画館の舞台挨拶にいっても、ファンサービスも忘れず、映画の宣伝に余念のないプロ根性を見せてくれるのだ。

 映画「ザ・ネゴシエーション」のプロモーションの時は、ヒョンビンにこっそり、「マイクを口に近づけすぎるとハレーションをおこすわよ」と注意している場面があった。
 いつものように共演者にアドバイスしているのだが、その場面が、後にYouTubeに、バックにエド・シーランの「Perfect」が流れてまるでMVのようになってアップされ、本編映画の観客動員数をはるかに上回る再生回数を誇るようになるとは、さすがに、その時点では、ご本人たちも予想しなかったことだろう。
 いやはや、プロモーションの影響力を侮ってはいけない、と監督さんたちもキモに命じたのではないだろうか。
 まあ、しかし、あのプロモのときのヒョンビンのオーラは、ソン・イェジンの演出が功を奏したのではなくて、想定外のハプニングなのだろうけどね。でも、彼女の功績と言えなくもないか?な。




 
 

 

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松幸 けい
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