御冷ミァハの「大嘘」(1) 『ハーモニー』読解/伊藤計劃研究
前回までの読解 で、『ハーモニー』には様々な仕掛けがあると分かった。
今回からは刊行以来14年に及ぶ難問、本作の核心である御冷ミァハの「大嘘」を取り上げる。
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稀代のイデオローグ、御冷ミァハ。彼女もまた、信頼できない語り手である――薄々そう思ってはいても、いざ指摘となるとむずかしい。ヒントは作中に散らばっており、地道に読み解いていくしかない。
御冷ミァハの嘘とは、具体的に何だったのだろうか。
まずは発端からだ。
本編から13年前、15歳当時のこと。
霧慧トァンと零下堂キアンを誘い、御冷ミァハは事件を起こした。
この集団自殺未遂事件には2つ、不審な点が存在している。
1つ目は、御冷ミァハが語った動機と行動との矛盾だ。
表向き、当時の御冷ミァハは語っていた。「この身体はわたし自身のもの」「リソース意識なんてゴメンだ」と。
けれども彼女は、一方で真逆の行動をとってもいた。
義理の母・御冷レイコは、かつての娘の様子をこう語っている。
自らを献体=社会のリソースとして差し出す一方で、霧慧トァンと零下堂キアンには「この身体はわたし自身のもの」「リソース意識なんてゴメンだ」と述べている。ここには明らかに矛盾、嘘が隠されている。
では、その嘘とは何なのか?
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