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御冷ミァハの「大嘘」(1) 『ハーモニー』読解/伊藤計劃研究
前回までの読解 で、『ハーモニー』には様々な仕掛けがあると分かった。
今回からは刊行以来14年に及ぶ難問、本作の核心である御冷ミァハの「大嘘」を取り上げる。
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稀代のイデオローグ、御冷ミァハ。彼女もまた、信頼できない語り手である――薄々そう思ってはいても、いざ指摘となるとむずかしい。ヒントは作中に散らばっており、地道に読み解いていくしかない。
御冷ミァハの嘘とは、具体的に何だったのだろうか。
まずは発端からだ。
本編から13年前、15歳当時のこと。
霧慧トァンと零下堂キアンを誘い、御冷ミァハは事件を起こした。
この集団自殺未遂事件には2つ、不審な点が存在している。
1つ目は、御冷ミァハが語った動機と行動との矛盾だ。
表向き、当時の御冷ミァハは語っていた。「この身体はわたし自身のもの」「リソース意識なんてゴメンだ」と。
けれども彼女は、一方で真逆の行動をとってもいた。
義理の母・御冷レイコは、かつての娘の様子をこう語っている。
「いいえ、あの子は…… 自ら望んで献体同意にサインしていたんです。〈大災禍〉のあと じゃ珍しくないことだと思いますが」 (中略)医学実験用に死んだ自らの身体を差し出すことは崇高な市民的義務とされ、それはいつの間にか一般常識化してしまった。政府の法律にも生府の合意事項にも一切それを強要したり推奨したりする文章は書かれていないけれど、いまだに自らの肉体を医学の発展に差し出す風潮は残っている。
自らを献体=社会のリソースとして差し出す一方で、霧慧トァンと零下堂キアンには「この身体はわたし自身のもの」「リソース意識なんてゴメンだ」と述べている。ここには明らかに矛盾、嘘が隠されている。
では、その嘘とは何なのか?
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