語り手は誰か? 『ハーモニー』読解(5)/伊藤計劃研究
前回までで読解の材料は出揃った。今回はいよいよ、長年の謎とされていた“『ハーモニー』の語り手問題”に挑戦していこう。
・
そもそも『ハーモニー』の語り手は誰か? 無論、本文は霧慧トァン視点だ。だが霧慧トァンには『ハーモニー』を直接記す動機があるのだろうか?
この疑問に触れているのが、エピローグ冒頭だ。
留意すべきは「当事者であった人間の主観で」との記述だ。
まずここに解釈の余地が存在しているのである。
普通に読むならばこの部分は、
・「当事者であった人間」、すなわち霧慧トァンが綴った物語
である。しかし『ハーモニー』世界は高度監視社会だ。この記述には、別の解釈が存在することになる。すなわち、
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