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御冷ミァハの「大嘘」(4) 『ハーモニー』読解/伊藤計劃研究
( 前回 から続く)
前回までの経緯を踏まえて、根本に立ち返ろう。
すなわち、御冷ミァハとは果たしてどんなキャラクターなのか?
ミステリアスで捕らえ所のないカリスマ。
一読したなら、そんな所だろうか。
これは当初、霧慧トァンが抱いていたイメージでもある。
しかしながら、第一回と第二回で扱った事実を見た上ではどうか。
人を踏み台にして顧みることのない、子供じみた冷酷な野心家。
これこそが実態に近く、霧慧トァンが徐々に抱くようになったイメージでもある。
そのイメージを踏まえた上で、もう一度このシーンを見てみよう。
キアンも、トァンも、こっちにはこなかったよね。(中略)
でもね、いまわたしにその勇気を見せてくれれば、それでいいような気がする。世界に対して、永遠に続くものはないんだ、って、このカラダは自分ひとりのものなんだって、すぐに証明してくれたらまた一緒に、あの日に戻れる。(中略)
お願い。だからキアンの勇気が欲しいの。
証明できるところを、わたしに見せて。
御冷ミァハを子供じみた冷酷な野心家として考えたなら、このメッセージの解釈は変わる。正確に見ることが出来る、と言ってもいい。
零下堂キアンを自殺に追い込むだけなら、こんなメッセージは必要ない。
他の犠牲者同様、無言で報酬系を操作すればいいだけだ。
追い込むメッセージ部分は、実質的に意味はない。
「いまわたしにその勇気を見せてくれれば、それでいいような気がする」
ゆえに、この身勝手な部分こそが浮き上がる。
見せしめにして犠牲の要求。
では、何のための見せしめだったのか?
ここで必要なのは、作中の時系列整理である。
『ハーモニー』の時系列は入り組んでおり、一読しただけでは把握困難だ。
回想中の霧慧トァンは当然、情報が整理されている。
あらかじめ時系列が整理された状態となっているのだ。
彼女の洞察に近づくには必然、情報を整理するしかない。
御冷ミァハの動機にして、霧慧トァンが気づいたこととは何か。
以下の会話は御冷ミァハに盗聴されていたものだ。
その事を念頭に置きながら、並べ直した時系列を見て頂きたい。p92から始まる食事シーンの、一筋縄でいかない開示方法が分かるだろう。
(「続き」部分ではp数単位での時系列表、導かれる動機、および読解が困難だった理由を書いています)( 完結編 に続く……)
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