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池上彰の日本現代史集中講義(読書感想)

書籍の情報

池上彰の日本現代史集中講義
池上彰
祥伝社
2023年9月10日 初版第1刷発行

書籍の目次

第1章 日本型民主主義の危機
第2章 日本を取り巻く外交問題と安全保障
第3章 日本経済の光と影
第4章 日本が抱える社会課題

感想

特に安倍政権の光と影について紙面を割いています。
ジャーナリストらしく、政府がメディアに対して圧力をかけることについて、池上さんの危機感を感じました。

印象に残った箇所の引用

23ページ
戦後レジームからの脱却とは、こんな歴史観です。
日本は敗戦後、アメリカが主導するGHQ (連合国軍総司令部)により占領されました。二度と軍国主義に走らないように、軍隊を解散させられ、戦争を放棄する憲法を押し付けられました。東京裁判では「平和に対する罪」として、東条英機など28名がA級戦犯と断罪されました。こうしたアメリカが作ってきた日本の姿から脱却し、自らの手で真の独立国としての姿を取り戻したい。そのためには自主憲法を制定し、自衛隊を国防軍にしなければ。
しかし、こうした考え方をストレートに「戦後体制からの脱却」とうたってしまうと、日本が降伏を受け入れたポツダム宣言やサンフランシスコ講和条約を否定することにつながりかねません。日本独自の路線を突き詰めれば「脱アメリカ」に行き着きます。アメリカから見れば「アメリカが作ってきた体制を否定するのか?」、他国からも「軍国主義の時代に戻ろうとしているのか?」と警戒されるでしょう。
そこでわざと抽象的な表現をすることで、外交上のトラブルを避けようと意図したと考えられます。
スローガンは漠然としていましたが、在任中の安倍総理は、着々と「戦後レジームからの脱却」を推し進めました。経済再生(アベノミクス)で国民の指示を得て選挙に勝ち、憲法を改正し、自衛隊を国防軍にするというのが大きな流れでした。

34ページ
アベノミクスはなんとなく景気が良くなったようなイメージを作り出すことには成功しましたが、実質的な経済は伸びず、実質賃金は低下し、GDPの成長率も低いままでした。
株高で資産を増やした人がいる一方で、所得の低い層は物価高に苦しんでいます。7年8ヶ月にわたって「敵と味方」を分ける政治を続けてきた安倍政権はまた、格差拡大という結果をもたらしました。まずは景気を良くして、国民の支持を得て憲法改正。そう狙っていた安倍首相ですが、「安倍一強」と呼ばれた政権が、長期にわたったことによる弊害も目立つようになりました。

156ページ
活動の範囲を海外へと広げてきた自衛隊にとって、次の転勤になったのが、安倍政権下で認められた「集団的自衛権」です。
2015年、安全保障関連法(平和安全法制整備法)が成立し、「集団的自衛権」の行使が可能になりました。集団的自衛権とは、同盟国が攻撃された場合、自国への攻撃とみなして反撃する権利であり、国際法上も認められています。
歴代政権は「日本は集団的自衛権を保有しているものの、憲法の規定のため行使できない」という立場をとってきましたが、安倍内閣は「行使を容認」へと解釈を変更しました。集団的自衛権の行使を容認する人物を、法律と憲法の整合性を判断する内閣法政局の長官に据えることで、従来の解釈を変えてしまいました。
安倍政権は憲法を改正し、自衛隊を国防軍にすることを目指していました。その志は断たれましたが、戦後長らく曖昧なままにされてきた自衛隊の位置づけを日本国民が判断するときは、遠からず、やってくるのではないでしょうか。

249ページ
電波停止は「伝家の宝刀」であり、極めて慎重になるべきだと、従来は考えられていました。これをあからさまに誇示するようになった安倍政権以降、表現の自由は明らかに後退しています。放送の現場は、たとえ実際に圧力をかけられることがなくても、無言のプレッシャーを感じて「面倒なことになりそうだから、やめておこう」と萎縮しかねません。

池上彰の日本現代史集中講義

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