特撮ヴィラン語り ~その236 ギエン~
長きにわたるスーパー戦隊シリーズの中で、恐らく一二を争うであろうヘヴィな作品ともいえるのが、2000年に放映された「未来戦隊タイムレンジャー」。あの肉体派イケメン俳優:永井大さんが主人公のレッドを演じた代表作です。
遥か30世紀の未来でロンダ―刑務所に収監されていた凶悪犯罪者たちが20世紀末の日本に逃亡。
彼らによって構成されたロンダーズファミリーの面々を撃退すべく、時間保護局によって30世紀の未来から派遣された4人のエージェントたちが永井大さん演じる20世紀の若者:浅見竜也と共にタイムレンジャーとなりその凶行に立ち向かう裏で、時空を超えた大いなる陰謀が張り巡らされているという重厚なストーリー展開で話題を呼びました。
このロンダーズファミリー、実は結構珍しいタイプの悪の組織で。
悪の組織と言えばやっぱり「人類滅亡」とか「地球征服」とかそういう壮大な目的があって当たり前みたいなところがあると思うんですが、シンプルに彼らの目的は「カネもうけ」だけなんです。
うっすいなオイ
でもそれだけに人間味もある連中ではあって。
特にボスであるドン・ドルネロは、敵には容赦がないもののファミリーの仲間たちにはとにかく寛大で優しいし、家計簿をマメにつけたりドラマを見て泣いたりと敵ながらに憎めない俗っぽさを持つキャラでした。
そんなドン・ドルネロの側近にして組織のブレーン役を務めるのがこのギエン。肉体はほぼ機械化されており、優れた技術力を持つ反面キレると一番荒っぽいというマッドサイエンティストです。
このギエンがファミリー内で言えば恐らく一番の憎まれポジションだったのかなと思うんですが、なかなか味のあるキレキャラなんですよ。
かつてギエンは、30世紀の未来ではスラム街で育ちロクに教育も受けて来なかった頭の悪い青年でした。
ある日マフィア同士の抗争で追いつめられて身を隠したドルネロと出会い2人は仲良くなりますが、それが災いしてギエンは対立組織の人質となり壮絶な拷問を受けてしまいます。
それでもなお絶対にドルネロの居場所を吐かなかったギエンの友情に恩義を感じ、ドルネロは闇医者に瀕死の彼を預けて生き長らえさせるための機械化手術を依頼。生まれ変わったギエンは高い知能を獲得してドルネロの補佐となり、色々な武器開発を担当するようになりますが、だんだんと経年劣化によって人間としての人格は失われていき、最後には金儲けよりも破壊・殺戮を好むように変貌していきます。
ドルネロも劇中後半ではそんなギエンの暴走について行けず、彼を敢えてロンダ―刑務所に幽閉するとファミリーの解散も示唆するまでに。
あれ、ドルネロなんかいいヤツになってる…?
しかし、今回の脱獄を裏で手引きしていた真の黒幕の手によってギエンは再び解放。錯乱状態のままドルネロを自ら手にかけ、自ら作り上げた最終兵器ネオ・クライシスに乗って破壊の限りを尽くすわけです。
このギエンの狂いっぷりがね、まあホント今から考えたら割とホラーの部類ではあるんですよね。
街を蹂躙しながら、自分が殺したドルネロに向かって話しかけてみたり、破壊行動を止めようとやって来たタイムレンジャーのことも分からなくなってたり、完全にイッちゃってるんですよ。トラウマだよなかなかに。
多分今のTVドラマでもここまでの狂ったキャラって出せないんじゃないかなと思いますが、そんな悪役を20世紀最後に拝めたというのはある意味で幸せだったかもしれません。
その悲しい結末も含めて、「タイムレンジャー」は必見の名作です。
matthew