何もせず、
土曜日、お袋さんの病院へ行く
夏から入院、一時は微熱が続いたが、今は安定してる
夏ごろから食べることが難しく、胃ろうを行い
少し安定してる
認知はコロナ禍で進み、息子ほとんど認識はされていない
病室でも、穏やかに眠っている
2019年頃まで、こんな会話をしてた
葡萄畑の広がる特養、3階ラウンジで1時間
持ちこんだ寿司弁当を二人で食べた
いつも、嫁さんか、娘と一緒だけど、今日はひとりの訪問
ひとりは少し緊張する
お袋さんが、覚えていない時があるから、
思い出すまで、息子を演じる
広いホールにひとり、いつものテーブルで座っている
「よっ、元気かい、」 片手をあげる
「あれ~、よく来たね」
これで十分、今回は認識された
ラウンジで気持ちの良い午後を
持ち込んだ寿司弁当と甲斐路の葡萄ひと房を二人でたべた
小一時間、あれよ、これよと話をした、
忘れてもいい、覚えていなくてもいい
いま、この一瞬を覚えていればいい
そんな気持ちで、持ち込んだいろんな写真で話した
帰りがけ、「家にかえりたいなあ、、」
久しぶりにつぶやいた一言に、少し安心して
「帰ろうね、また、いつか、 でも、俺は松本だよ」
「そうだ、松本だね、そこは帰れない、でも、よく来た、また、来てくださいね」
こんな会話ができるだけでも、良いのだと安心した
もう、数年前のように、普通に実家で
おやじとお袋と兄貴と従妹でわいわい、話をすることはできないけど、
普通でない彼女の日常を普通に過ごすことが、
今、できる、精いっぱいの親孝行だと
勝手に思い込み、来週もあの人に、忘れられないように、
ここへ来るかなと、
八ケ岳に向かう高速で、つぶやいた
2024年
病室で穏やかに眠っている
何もせず、ベットの横の椅子に座り、
普段読まない、文庫本の文字を追い
何もせず、椅子にもたれうたた寝し
何もせず、ぼんやり楕円形の病室から外を眺め
何もせず、同じ空間に座った
夕方から、大雨になりそうなので、
「また来るね、」とつぶやき、母のおでこを撫でた
何もせず、でも、ここへ来るかなと、
八ケ岳に向かう高速で、つぶやいた