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「東京観光日誌」#31|六本木|森美術館

「お父さん・・展覧会に行かない?」
長女のミツから誘われるとは思ってもみなかった。
「どういう風の吹き回しだ?」と出て来た言葉を吞み込んで、「友達といけばいいのに」と軽く交わす。
「最近ちょっと面倒くさいんだよね・・」とミツ。
「ふ~ん・・で、何の展覧会に行きたいの?」と聞くと・・「・・え!チンポ?」と思わず聞き返してしまった。何だそれは?
「違う違うチンポン!!」ミツも何だかにやついている。・・よくわからない。
「どこの美術館?」と聞き直すと、「森美術館」だという。

・ 「チンポン」とは

高所恐怖症の私にとっては苦手なところにあるが、毎回素晴らしい展覧会を企画する美術館だ。もちろん、行くことは約束したが、本人もよくその展覧会のことをわかっていないようなので、その「チンポン」について調べてみることにした。

「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」のチラシ

「チンポン」・・正確には「Chim↑Pom」(チン↑ポム)。東京で結成されたアーティスト集団だった。メンバーは、卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀。世界各地の展覧会に参加するだけでなく、自らもさまざまなプロジェクトを企画する。「独創的なアイデアと卓越した行動力で、社会に介入し、私たちの意表を突く数々のプロジェクトを手掛けてきました。作品の主題は都市、消費主義、飽食と貧困、日本社会、原爆、震災、スター像、メディア、境界、公共性など多岐にわたり、現代社会の事象や諸問題に対するメッセージ性の強い作品でありながら、その多くにはユーモアや皮肉も感じられます」とホームページで紹介されていた。

でも、調べるうちにちょっとやばそうな集団ではないかと思うようになってきた。
例えば、Wikipediaでは・・
「2008年には被爆地である広島市の上空に、飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いたことが問題となった。」
「2011年5月、渋谷駅構内に設置されたパブリックアートである岡本太郎の壁画「明日の神話」へ絵を付け足したことが問題になった。」
これは・・一体どういうことだろうか?

長女のミツは高校の美術科に通う3年生。最近ようやく反抗期のトンネルを抜けてきた感じがする。いろいろなことで随分悩まされたが、今年になって進路のことを考えるようになり、芸大に進学したいと言い出した。
村上春樹風に言うと「やれやれ」だ。

それでも、前向きになっている分、親としてはバックアップはしないといけないか・・としぶしぶ思っている。
しかし、この展覧会はどうだろう・・少し考えてみたが、私もよく知らないその美術集団について、どうこう言うこともできないし、だいたいネガティブな表現を展覧会として企画することもないだろう。まあ・・観終わった後でも感想を言い合えばいいかな、という結論に至り、珍しく二人で出かけることになった。

・ 53階にある美術館

数日前に入場日時だけの事前予約を美術館のサイトで行い・・その当日。
5月14日(土)雨。9時30分に東京メトロ日比谷線「六本木駅」に到着した。

駅周辺案内図

久しぶりの六本木。何年ぶりだろう・・。傘を差さずに地下鉄通路を通って直接「六本木ヒルズ森タワー」へアクセスできることは知っている。
改札を出ていきなり柱に「Chim↑Pom」の広告(写真下)を発見。

六本木ヒルズに通じる地下通路

真っ直ぐ通路を歩いて行きすぐにメトロハットと呼ばれる場所に出た(写真下左)。エスカレータで地上へ上がる(写真下右)とそこは・・

六本木ヒルズ メトロハット内
六本木ヒルズ 66プラザ

66プラザと呼ばれる六本木ヒルズ前の広場になっている(写真上)。
ここから少し歩くと・・昔からここに居座る巨大蜘蛛のパブリックアートが今も健在だった(写真下)。

パブリックアート ルイーズ・ブルジョワ作「ママン」

高さ10メートルもあるこのオブジェの作者は、ルイーズ・ブルジョワというフランス出身のアメリカのアーティスト。同じような蜘蛛の作品はここ六本木を含め世界9箇所に設置されているらしい。ちなみに「ママン」と名付けれられらこの作品はフランス語で“母”を意味している。・・スパイダーウーマン?

見上げると、さすがに54階建ての「六本木ヒルズ森タワー」は高い(写真下)。ここの53階に森美術館があるのだ。

六本木ヒルズ森タワー
森美術館入口

ここが入口になっていた(写真上)。デジタルサイネージにあるようにここから「森美術館」「東京シティビュー」「森アーツセンターギャラリー」それぞれの会場へとつながっている。

初回10時の予約を入れておいたので、まだあと15分もあるが、ひとまず行けるところまで行こうとミツを引っ張っていく。しかしここまで妙にしおらしい・・だから雨なのだ。もっとも、彼女にとって六本木に来るのは初めてこと。内心ワクワクしているかな。

3階のチケット売場へ行くと・・思った以上に人が入っていた。すごい人気の展覧会なのか・・と思いきや、長い列は「森アーツセンターギャラリー」で行っている「アベンジャーズ展」のものだった。
ということで、私たちは「Chim↑Pom展」の一番先頭に立って待つことになった(写真下)。

チケット売場前

10時開場となる頃には「Chim↑Pom展」の方にも列ができ、10時ジャストに入場。しかし窓口で当日券を購入しているうちにあっという間に後列の人に追い越されてしまう。まあ仕方ない。

土・日・休日の当日料金はこの通り。
一般:2,000円 大学・高校生:1,300円 中学生以下:700円 シニア(65歳以上):1,700円。
平日やオンラインで購入すると幾分安くなる。また他にお得な割引情報もあるので、ホームページで確認すると良い。
(今回は「ぐるっとパスカード」で200円割引になった。ということで、現在のところ600円お得にアップ。)

では、エレベータに乗って上へ上がろう。

53階の展覧会場前

生唾を飲んであっという間に到着。こちらが53階の展覧会場前(写真上)。エスカレータの下にロッカールームがあることを後から知った。係の人に確認したところ「写真撮影可」(一部不可あり)ということである。

・ 「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」の作品

では展示会場に入ろう(写真下)。

展示場入口前

何だか暗いうえに混みあっている。まずはモニタが設置されていて、すぐ先にも座って観れる映像作品があった(写真下)。

記録映像「堪え難き・を堪えるスーパーラット」(左)「ブラック・オブ・デス」(右)
「スーパーラット ハッピースプリング」

うっかりすると当たってしまいそうな鉄骨が作品の配置に合わせて組み上げられていた。

都市と公共性・・「狭く、入り組んでいて、閉ざされた地下空間を思い起こさせる本セクションでは、都市を舞台にしたChim↑Pomの初期作品から近年の大型プロジェクトまでを紹介します。初期の活動では、知性と身体能力を拡張して強靭化するネズミや人を恐れずに生ゴミをあさって繁殖するカラス、人間の捨てるゴミ袋などを主題に作品を制作しました。駆除されながらもたくましく都市を生きる野生動物と、都市生活とは不可分のゴミや環境汚染をモチーフとするこれらの作品は、大量消費社会の問題へと追いやられて「見えないもの」とされるさまざまな問題を可視化しています。」と書かれていた。

「Sukurappu ando Birudo プロジェクト」
「ビルバーガー」

「近年に新宿・歌舞伎町の空きビルを使って行われた「Sukurappu ando Birudoプロジェクト」では、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて繰り返される東京の再開発を再考・・」か・・なかなか重々しい。
あれ、階段があるぞ・・この組み上げられた鉄骨は2階を作るためでもあるようだった・・しかし、どうも尋常ではない展覧会になっている。

上下二層構造になっていた展示場内
2階会場

ここは展示場?・・と思うほど雑然とした上層の空間(写真上)。アスファルトで舗装した「道」が表現されているということだ。隅の方のマンホールを覗くと・・

「メイキング・オブ・ザ・即身仏」

これは「都市を生きる人間の肉体」に焦点を当てた作品「メイキング・オブ・ザ・即身仏」(写真上)。断食を通して飽食の問題を表現している。

「道」プロジェクト

また、階下に戻って進んで行くと・・台湾と東京で表現した「道」のプロジェクトの展示物が集まっていた(写真上)。自らアスファルトで「道」を作って「育てる」ことを通じて、あらためて「公共」とは何かを問いかけた。
その先に映像作品があった。

映像作品「エリゲロ」

グループ結成当時に制作された「エリゲロ」(写真上)。「エリイが洗面器からピンク色の液体を大量に飲み、真っ白な部屋の床に嘔吐するのを繰り返します」という内容。「ギャル文化の「かわいらしさ」を象徴するピンク色と、「イッキ飲み」に見られる若者の暴飲をほのめかすエリイの行為は、若者の奔放さ、ノリや遊びを過激なパフォーマンスで体現しています」という解説。これは過激だな・・。

次は、巨大なバルーンの立体作品。鑑賞者は黒いビニールのゴミ袋を模した作品の内部に入り、ゴミそのものになってしまうという設定。中では飛び跳ねたりして楽しく遊ぶことができる。時間予約制になっていたがすぐに入れてもらった。体験時間は1分。

「ゴールド・エクスペリエンス」

ここから大きく部屋が変わり「ヒロシマ」セクションとなる。
「お父さん、千羽鶴があった」ミツが観たいと言っていた千羽鶴の山「パビリオン」の作品展示が現れた(写真下)。

「パビリオン」
「パビリオン」内部

「パビリオン」の中は通り抜けできるようになっている(写真上)。
そして出た先に「ノンバーナブル」という鑑賞者参加型作品があった(写真下)。

「ノン・バーナブル」

大スクリーンの映像では、世界各地から届いた折り鶴に記されているメッセージをエリイが読み上げ、四角い折り紙へと折り戻す作業が映し出されていた。それを見た鑑賞者は、展示室内の机の上に置かれた四角い折り紙を再び折り鶴にすることが求められ、折り直された大量の折り紙を広島に返却するという仕組みになっていた。折り鶴の数量を増やさないように、行為と物質のリサイクルを目指した作品。なるほどね・・。

・ 問題作に接して

「ヒロシマの空をピカッとさせる」

そして、これが例の物議を醸しだした「ヒロシマの空をピカッとさせる」という作品(写真上)。写真と映像がある。解説を読むと・・2008年10月12日、Chim↑Pomは広島市の原爆ドーム上空に飛行機雲で原爆の閃光を想起させる「ピカッ」という文字を描く。上の映像写真では観にくいが確かに見える。作家の意図は、「平和」という現代日本社会の基盤に対して無関心が蔓延していることを漫画的に可視化する、というものだ。しかし、その翌日の中国新聞が「不気味だ」という市民の反応や被爆者団体代表の憤りの声を紹介したことがきっかけに社会的騒動に発展。すぐに広島市は被爆者団体の代表と面談し、Chim↑Pomは事前告知の不徹底を謝罪した。予定されていた広島市現代美術館での個展も中止となったが、その後もChim↑Pomは被爆者や市民との対話を何度も重ね、ときに共働してプロジェクトを継続しているとのことだ。
これに関しては「なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか」(無人島プロダクション)という本が出版されているので、読むとよくわかるかもしれない。

その先に、Wikipediaで見たもう一つの問題作。渋谷駅の連絡通路内に設置されている岡本太郎の壁画「明日の神話」の右下の余白部分の壁に、東日本大震災の原発事故を主題にした絵をゲリラ的に設置した作品「Level 7 feat.『明日の神話』」(写真下2枚)の展示。

岡本太郎の壁画「明日の神話」+「Level 7 feat.『明日の神話』」
「Level 7 feat.『明日の神話』」

Chim↑Pomが設置した絵には、原子炉の建屋からドクロ型の黒煙が上がる様子が壁画と同じタッチで描かれている。原水爆が炸裂する悲劇を描いた岡本の壁画の一部として見えるようにすることで、広島と長崎への原爆投下、水爆実験による漁船「第五福竜丸」の被爆といった日本における原子力の悲劇の歴史に、福島の原発事故という新たな1シーンが加わったことを表わす意図があった・・と解説されていた。
岡本太郎だったら何と言うだろう・・きっと面白がったような気がしないでもない。

これは回顧展だが・・圧倒される作品ばかりだ。
この後に「エリイ」のセクションがあり、自らの結婚パレードを路上で開催した様子をインスタレーション作品にした「ラブイズオーバー」(写真下)。

「ラブイズオーバー」
「レスリー・キー、Chim↑Pomコンケプティオ」
「サンキューセレブプロジェクト アイムポカン」

エリイの作品(写真上2枚)が多数あり、彼女の存在が際立った。
「日本のアートは10年おくれている 世界のアートは7、8年おくれている」こんなメッセージが刺激的だ。

会場を後にしてミツに尋ねてみた。
「展覧会どうだった?」
「すごく面白かった!」
久し振りに意見が合った。

森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー
電話:森美術館 050-5541-8600(ハローダイヤル)
[開館時間]月・水~日 10:00~22:00(最終入館21:30)
      火 10:00~17:00(最終入館16:30)
[休館日]展覧会会期以外は閉館
公式ページ:
https://www.mori.art.museum/jp/

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