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20241210 ペーロンの教育的効果

 「祭と学校の関係」について調べ始めたことを書きましたが、自分が思っていた以上にその実践例は多く、収集に収拾がつかなくなるのが理解できました。そのため、全国の祭を調べるのではなく、まずは地元の兵庫県の祭に絞ってみることにしました。
 で、ふと「相生のペーロン祭」を思いついたので「ペーロン 指導案」で検索してみると…指導案は出てきませんでしたが長崎のペーロンに関する非常に面白い論文を発見しました。

【書誌情報】
後藤幸弘・日高正博・越智祐光・宮城朋子 2022 舟、水、からだ、運動をキーワードとした総合学習プログラム作成の試み-ペーロンを取り入れている学校とそうでない学校の認識調査を基に-. 兵庫教育大学学校教育学研究, 35, 325 – 338.

 ペーロンを取り入れている学校とそうでない学校の認識調査から、その歴史性や力学的知識等々の正答率に地域差や学校差の見られる項目もあったが、多くの項目で地域差・学校差は認められず、ペーロンに取り組んでいる学校においても体験だけで終わっている可能性のあることが推察された。しかし、「漕ぐ」・「泳ぐ」・「走る」という運動の共通性や、「浮く」ことと身体組成の関係、「舟」の歴史的・文化的内容などから豊かな教育内容の措定の可能性が考えられた。そこで、「舟・水・からだ・運動」をキーワードに若干の教育内容の措定を試みるとともにこれらをテーマにした総合学習プログラム例を提案した。

 ペーロン(漕手が進行方向を向いて座り櫂を使って漕ぎ(順漕法)、明確に規定された障害のないコースで、着順・タイムを競い合う伝統的競漕競技)を教育活動に取り入れている長崎県の小中各1校、長崎県ですがペーロンを取り入れていない小中各1校、宮崎県の小中各1校の計6校の児童生徒を対象にペーロンを体験することで理解が深まることが期待されるさまざまな知識について調査を行い、そこに差が出るかを検討した研究でした。
 上の要約では「地域差・学校差は認められず」とあり、ペーロン体験の教育効果は基本的には否定されているように思えます。
 具体的には「ペーロンの楽しさ」などではペーロン体験群の方が高く、「ペーロンの楽しさは実際に体験しないと感じることはできない」ことは証明されています。しかし、「浮力」の理解などが深まったかと言われるとそうした効果を統計的に示すのは難しそうな様相を示していたと思います。
 各学校の事前の知識レベルを均一にすることができない以上、体験の有無で比較しようにも事前の知識レベルの影響を排除できないので、効果を統計的に証明するのは難しいのだろうなあと。
 むしろペーロン体験のある学校、ない学校という分け方をするのではなく、ペーロン体験のある学校で児童生徒をランダムに「ペーロン体験群」「ペーロン非体験群」に分けて、その中でペーロン体験前後の個人内での知識の伸びの違いなどを検討した方が結果を出しやすいとは思いますが「同じ学校にいる児童生徒で体験あり群、なし群を分けるのはダメ!」と言われる可能性が高すぎるので実現は難しいだろうなあと。
 まあでもこの論文より「祭の体験でどのような知識や理解の向上がみられるかを検討する」という非常に有意義な視点を得られたのでこうした研究も今後の目標にしたいなあと思いました。

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