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ジャコウアゲハの羽化に思う

仕事の合間に、工房の外のハーブガーデンに水撒きをしていたら、幸運なことにジャコウアゲハの羽化の場面に出会いました。

ウマノスズクサしか食べないはずなのに、なぜか広葉マウンテンミントにサナギを作るのがお気に入り。
こちらはまだ羽化前の別のサナギ。

よく見ると工房の壁面にもちょっとグロテスクな黄色いサナギがあちらこちらに点在している。
番町皿屋敷のお菊さんが後ろ手に縛られているようなおどろおどろしさから古くから「お菊虫」と呼ばれるとか。

でも、その気味の悪いサナギからは想像もつかないほど、羽化した蝶は漆黒のビロードのマントをまとった貴婦人のような佇まいだった。

あんなエイリアンみたいなサナギからこんなに美しい蝶になるなんて、なんてドラスティックな変態を遂げるのだろう!
感激のあまり日に透ける羽を乾かすジャコウアゲハにいつまでも見入ってしまいました。

スタッフ達は「なんなんですかあの気持ち悪いの」とサナギを気味悪がるけど、
「準絶滅危惧種のジャコウアゲハちゃんのサナギなんだから駆除しちゃダメだよ!」と念押しする(笑)

バラの花の香りのような甘いジャコウを放つ蝶で見た目は優雅だが、ジャコウアゲハは体内にアリストロキア酸という猛毒をもつ毒蝶だそうだ。

幼虫時代に毒草のウマノスズクサしか食べず、その毒に耐性を有するジャコウアゲハは蝶になった後も体内に毒を持ち鳥などの天敵から身を守るそう。

ヒヨドリなどの鳥たちはこの蝶を捕食すると激しい食中毒を起こして苦しむので、学習して二度と食べることはないらしい。

一方で、このジャコウアゲハにそっくりなクロアゲハは、このジャコウアゲハの容姿を真似てカモフラージュすることで無毒だけど捕食者に狙われにくいという生存戦略を持つ。

その話を生き物好きの中学生の息子に話したら、
「ジャコウアゲハの真似して天敵から逃れるクロアゲハって、ちょっとズルくねー!?」と言う。

天敵から身を守るため毒草を食しながら耐性を持ち自らの体を進化させたジャコウアゲハ。

鳥に捕食されないジャコウアゲハを見て、毒を喰らわずして自らの容姿を似せたクロアゲハ。

どちらがずるいとかじゃなくて、彼らはきっと生き残るために自分にできることを必死にやっただけなんだと思う。

植物や生き物たちは人間よりもずっと賢い。
自分の世代だけ良ければいいじゃなくて、次の世代、また次の世代の種の保存のために、生存戦略として自分たちができることを必死にしている。

最近のニュースを見ていると暗澹たる気持ちになるけれど、そんなときは外に出て植物や自然に触れたくなる。
子どもの頃から自然は私にとってワンダーランド!
植物や生き物を観察していると彼らの知恵や生態にいつも驚かされる。

そこには私利私欲も邪念もなく、彼らは多様な生き方を展開することで、競合を避けて厳しい気候や環境の変化の中で生き抜いている。

私たちも多様な個性や特性を持っていて、みんなが違うからこそ過酷な環境を助け合いながら生きていけるんだ。
金子みすゞさんの詩の一節「みんなちがって、みんないい」を思い出す。


翌日、まだたどたどしく飛ぶ昨日のジャコウアゲハに出会えた。

天敵のいないジャコウアゲハは本来ならゆったりと飛ぶ蝶とか。
きっとあと何日か経てばもっと優雅に飛べるはず。

私もこの土地で自分が今できることを精一杯しようと思った。

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