コーヒー片手に緑の中をゆく、ポートランドさんぽ。
青々とした木々の隙間からこぼれる光。おひさまのやわらかな匂い。混沌とした世の中を皮肉るかのような、クリアで気持ちのよい5月を迎えた。
私はいくつもの地に思いを馳せる。2年前、バンクーバーに初めて降り立ったのもちょうどこの時期だったし、その後すぐにシアトルを訪れ、さわやかな日々を過ごした。
何度か足を運んだポートランドに滞在したのはいずれも5月ではなかったけれど、其処へ行ったことのない人には「緑が多くて、日本の5月のような過ごしやすい気候だよ」と伝えるだろう。(ただし、雨が多く降る冬を除くが。)
旅をするとはこういうことだ。迎えた新しい季節、晴れの日、真夜中。自分が今いる場所だけでなく、訪れたその地を思い出し、そこに通じる、心の中のドアのようなものが増える。日本で雨の日を過ごしているはずなのに、そっとそのドアを開けて、シアトルの雨の日にワープすることができるのだ。
5月になってからはずっと、私はポートランドのドアを開けては、その緑に満たされた空気を胸いっぱいに吸い込んでいた。
ポートランドに来たら真っ先に向かうはここ、Stumptown Coffee Roasters(スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ)。日本ではAce Hotel Kyotoに初出店し話題になったので知っている人も多いかと思うが、コーヒー好きでなくても絶対に訪れてほしい。
今でこそ、シングルオリジンコーヒーを扱うロースターは直接農園と取引するケースが当たり前になりつつあるが、彼らは創業から農園との長期的な関係性を大切にしてきたそうだ。半年は生産地で過ごし、適正(ときにはそれ以上)な価格を以て取引をしている。また、生産地の子どもたちに十分な教育を促すためのドネーションができるコーヒーバックを販売しているのも印象的だった。
ポートランドを象徴するもののひとつとも言える、スタンプタウンコーヒー。もちろん、私のような観光客も多く訪れており店内は常に賑わっているのだが、みんな心からリラックスして過ごしているように見えるのは、私のスタンプタウン好きのバイアスが掛かっているせいではないと思いたい。ここで日がな本を読んで過ごしたり、友達や家族とおしゃべりするだけでも、満たされた気持ちになるのだ。
Stumptown Coffee Roasters
- Website
(市内に4店舗あり、空港にもカフェがある。詳しくはLocations)
そう、本を読むといえば、ダウンタウンにPowell's books(パウエルズブックス)という大きな本屋がある。
インディペンデントのブックストアとしては世界1の大きさを誇るほど広く、カフェが併設されているので、大げさではなく、ここでも一日過ごせそうだ。
電子書籍が主流になり私もその波に乗っているのだが、たくさんの本の中から本を探すという行為は何事にも代えがたい小さな幸せだと、ここでは思い知らされる。
ちなみに後で紹介するホステルの近くに分店があり、そちらはこじんまりとしているがとてもよかったのでおすすめしたい。ちゃんとカフェも併設されている。パーフェクト。
愛用しているエコバックはここで購入したもの。もうぼろぼろだけど、お気に入り。
Powell's books
- Website
シアトルでコーヒーショップが発展したのは、雨が多く降るからだ、というのが私の定説なのだが、ここポートランドもそれに当てはまると思う。
北米の西海岸側、上はカナダのバンクーバーから、下はアメリカオレゴン州のポートランドまで(それ以上南下したサンフランシスコなんかは当てはまらない)、冬は雨が多く降る。いくら雨が好きな私でもうんざりするほどだ。
それでも、雨の日をコーヒーショップで過ごすのは悪くない。というか、とても良い。
ポートランドもコーヒーショップがたくさんあり紹介しきれないほどではあるが、スタンプタウンと並んで必ず訪れてほしいのがheart coffee roasters。スタンプタウンほど知られていないのが不思議なのだが、コーヒーがとても美味しい。これに尽きる。ロサンゼルスのような、からっとした陽気さを感じる店だ。
近くに教会が見えるところも好き。
heart coffee roasters
- Website
ポートランドを訪れる際は、シアトルに滞在している時にAmtrakという新幹線のような長距離列車を使って日帰りで楽しむことが多いのだが、2年前は4、5日間ほど滞在した。
その時に利用したのが、HI Portland Hawthorne Hostel。周辺がとてもホットなエリアだったのでホステルを利用するのに抵抗がなければぜひおすすめしたい。
私が滞在したのは女性の7人部屋。簡易的なシャワーしかないことも、庭では映画を観たりライブが行われていたことも、ファンシーな色をした壁や装飾品も、正しいアメリカのホステルの姿だった。
このホステルのある通りHawthorne Aveはレストランやカフェが立ち並び、ダウンタウンから離れても十分に楽しめるエリアだ。カフェめぐりと並んで古着屋めぐりも好きな私がほぼ1日潰したほど、古着屋さんも充実している。
この通りにはポートランドを代表するコーヒーロースターCoava Coffeeの店舗があるので、抑えておきたい。
コーヒーのことを尋ねるととても嬉しそうに答えてくれたバリスタさんが印象的だった。雨降る冬の日に過ごしたいと思わせる、大きな暖炉に目を惹かれた。
フードトラックが連なるエリアでひときわ目を惹いたのは、Tovというターキッシュコーヒーを出す二階建てバス。もちろん、バスとして走ることはなく、コーヒートラックとして置かれているだけなのだが、本来ならロンドンの街中を走っているだろう真っ赤なそれは、ターキッシュコーヒーの苦さのように目が覚めるようだった。
バスに足を踏み入れるときちんとトルコの体を成していた。ポートランドにいるのに、ロンドンなのかトルコなのか分からない雰囲気のちぐはぐさは面白いものだった。
Tov Coffee Bar
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ホステルの醍醐味は、シェアキッチンがあるため、まるで家にいるかのように食事が用意できることだ。
だけど、コーヒーをめぐる旅をしていると、朝ごはんは大切な一杯のコーヒーの機会になるので、外で摂ることが多い。
ホステルから少し歩いたところにある、Rocking Frog Cafeにモーニングをしに出かけた。
郊外にあるアメリカの家、という感じで、スクランブルエッグに、フルーツ、野菜がたっぷりの気取らないモーニングセットだった。
小さな音楽イベントも開催しているそうで、ますます誰かの家のようだな、と思った。これまでに滞在させていただいたアメリカに住む人達の家ではいつも、いつの間にか音楽をしていたから。
Rocking Frog Cafe
私の旅は、美味しいコーヒーが飲めればそれで十分で、特に観光地を訪れることは多くないのだが、特にポートランドはそんな旅にぴったりだと思う。
看板に惹かれて入ってみれば、馬の鞍や、乗馬ブーツを扱うお店だったり。そうだ、コーヒーだけでなくクラフトビールが有名だから、ブリュワリーを訪れるのも楽しい。
街全体が大きな森のように、木々に囲まれ、行く足元をきらきらとした木漏れ日が照らす。ポートランドでは、歩いて、買い物をして(オレゴン州は消費税が0%なのは特筆すべき点だろう。)、コーヒーを飲んで、また歩いて、気になったお店を覗いて、お次はクラフトビールを飲んで。たったそれだけで心が満たされるのだ。