短編小説35「迷宮惑星と羊のギース」

羊のギースは能天気に迷宮を闊歩する。この迷宮は、そのものが惑星だ。
それ故、出口はない。
ギースは地球で草を食べている最中に宇宙人によって連れ去られたのだが、途中でその宇宙人は惑星間戦争に巻き込まれたのか、ギースを落としてしまっていた。

特殊な液体に漬けられていたギースは、この惑星に不時着する。

「ぺぇ～」

ギースの鳴き声は変わっている。
幸いにも草原の迷宮に不時着していたギースは食料に困っていなかったが、仲間のいない草原に寂しさを感じていた。

「グポポポポォォオン」

ギースの背後から低い唸り声が聞こえる。呑気に草をもしゃりながらチラッと後ろを見ながらもう一口、もしゃり。
ちょっと踏み出す。また、もう一歩、そして、ダッシュするギース。

追ってくる謎の生物は肉食かわからないが、ギースは本能で食われると感じていた。だって見た目が地球のライオンの凶暴さは残しつつ飛べそうもない可愛い羽根を生やしているのだから。
しかし、ここは迷宮。ギースは行き止まりに着いてしまった。

「久しぶりの生きた食いもんらぁ…グポォ」

その生物は言語を話せるようだが、羊のギースには関係ない。
行き止まりの壁をよじ登ろうと必死に壁をひっかき回すギースに、謎の生物は四足から二足歩行に変更しながら襲い掛かって来た。

「ぺぇ～～っ」

ギースが掴み掛られたその時、ひっかいていた壁が開き二匹とも吸い込まれる。騒がしかった迷宮の突き当りは、草が風で擦れる音だけがしていた。

☆

超機械的な迷宮の一角にそれはいた。
羊の頭にモチモチしたボディ、小さな羽根。しかし羊にしては爪も牙も鋭いようだ。

「ぐぺぇ～ん」

その可愛らしい姿には似合わない声を出した。
生物は両足のみで立ち上がり

「肉たべたいらぁ」
「僕おいしくないよぉっ」
「ぬあっ！？」
「ぺぇ～んっ！？」

生物は一人で会話していた。壁に吸い込まれたギースと謎の生物は合体して吐き出されたようだ。

「迷宮トラップにかかったらぁ」
「嫌だよぉ、どっか行ってよぉ、ぺぇ～」
「うるさいらぁ、吾輩だって嫌らぁ」

弱弱しい声を出すギースと冷静な生物が一つの身体で会話する姿は異様だった。

「おまえさっきの肉だよな」
「ちがっぺぇ～、僕ギースだぺぇ～」
「もう食えねぇらぁ、心配すんな。吾輩はポリンらぁ」

ポリンと名乗る、さっきまで別の生物だったものは身体を動かそうとするが、上手くいかない。

「ぬああ、動けないらぁ」
「ぺぇ？　動けるよ」
「吾輩は体を動かせないらぁ！　ぬああああ」

どうやらポリンの意思では動けないが、ギースの意思では動けるようだ。
地球の羊と迷宮惑星の肉食獣が合体した新生物が誕生した。
この惑星は、そういった合体生物がたくさん存在している。

二匹の一体は、この星で生存していかなきゃならない。

「肉を食って力をつけるらぁギース」
「肉は嫌だよぉ、草が美味しいんだぺぇん」
「ぬああああ吾輩ギースが嫌いらぁ」

歯車の軋む迷宮の床を歩きながらポリンが叫んだ。

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肉食えない肉食はキツイ
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