Ubieのプロダクトとビジネスを支える、PHRデータ戦略と基盤
Ubieで プロダクト開発基盤リード / データマネジメントリードを担当している、まつむら(@matsumura_ubie)です。
医療ドメインにおけるBtoCコンパウンドスタートアップであるUbieでは、ユーザーの医療健康情報である「パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)」データを中心にプロダクトとユーザー体験を統合しています。
今回は、PHRを中心に据えたデータ戦略と、それを支えるPHRデータ基盤について、詳しくご紹介します。
Ubieでは、データやデータ基盤は裏側の黒子的な存在ではなく、ビジネスとプロダクト、ひいてはミッション実現を支える中心的な要素の一つであるとお伝えできればと思います。
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なお、BtoCコンパウンドスタートアップとしてのUbieの概観は、VPoT @yukukotani の記事もご覧ください。今回は、この記事の『PHR中心設計』セクションの内容を深堀りしています。
サマリ
Ubieでは、PHRデータを中心にユーザー理解とプロダクト体験を統合
PHRデータを「つくる」「ためる」「つかう」の横断的な戦略アライメントを重視
独自のモデリングなどによる唯一無二のPHRデータ基盤を構築
今後は、データ拡張や外部データ連携などへ展望が広がる
では、具体的な紹介をしていきます。
ミッション実現と戦略を支える、PHRデータ
Ubieのミッションは「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」ことです。適切な医療への案内とは、具体的にどういうことでしょうか。
発症から受診、診断から治療のような、医療におけるユーザーの一連の体験の流れを「ペイシェント・ジャーニー(Patient Journey)」と呼びます。
ユーザーの今の状態、すなわちジャーニー上の医療ステージを理解し、社内外の最適な医療体験をマッチングすることができれば、ジャーニーが前へ進むことの後押しができます。これが、適切な医療に案内するための基本的なアプローチです。
PHRデータを用いて、ユーザーを統合的に理解する
まずは、ユーザーの現在の医療ステージを正しく理解(ないしは推定)することが重要な第一歩になります。そのため、特にユーザー自身の医療健康情報である「パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)」データの収集・蓄積・活用を重視しています。例えば、症状や既往疾患、受診歴や服薬歴といった、体調や診療・治療の記録データです。
Ubieは、ユーザーの医療ステージやニーズに合わせ、多様なサービスを同時展開する「マルチプロダクト戦略」を取っており、症状検索エンジン『ユビー』やユビー病気のQ&A といったプロダクトを展開しています。
各プロダクトで得られるデータやログ、入力形式などは、体験や画面に依存するためバラバラです。そこで、各プロダクトからエッセンシャルなPHRデータを抽出・変換し、データ基盤に収集・統合しています。各プロダクトはPHRデータを扱うコストを初期的に払いますが、以降はプロダクトの変更や追加ごとに都度データ統合するランニングコストを大きく削減できます。
ユーザーの状態をPHRデータで一元的に管理することで、「点」の体験で得られたデータから、「線」あるいは「面」のペイシェント・ジャーニーを把握できます。ユーザーは、どのプロダクトを利用しても自身の情報が引き継がれ、イチから再入力する手間が省けたり、よりきめ細かな情報を得られたり、より最適化された体験を得ることが出来ます。
データを「つくる」「ためる」「つかう」ための戦略アラインメントを重視
PHRデータはプロダクト体験の統合に加え、ビジネス上も重要な位置を占めます。
Ubieは現在、様々な製薬企業とプロジェクトを実施し、最適な診断・治療・処方へ至るハードルを取り除くサポートをしています。これらプロジェクトでは、ユーザーが滞留ないし離脱する医療ステージを特定し、適切に後押しすることが重要であるため、つまりPHRデータをどれだけ蓄積・利活用できるかが成功のカギの一つとなります。
このように、PHRデータの種類や量は、プロダクト体験や製薬ビジネスの成功を左右するため、どのデータをどの順番で重点的に取り扱うか、は多くのチームに関係します。ある目的や目標だけを重視した局所最適解に陥いることの無いよう、データを「つくる」「ためる」「つかう」役割のメンバーで、横断的にデータ戦略のアラインメントを行う工夫も重ねています。
唯一無二のPHRデータ基盤
Ubieでは、PHRデータを集約・統合する基盤サービスとして、PHRデータ基盤を開発・運用しています。この基盤サービスでは、マスタの定義、各種プロダクトからのデータ収集・蓄積、各種プロダクトや分析環境へのデータ提供を実現しています。
アプリケーションに依存しないデータモデル
PHRデータの定義は、Ubieプラットフォームにおけるユーザー理解の解像度・表現力そのものです。ペイシェント・ジャーニーを包括的に表現可能な標準的なデータモデルは世の中に存在しないようなので、PHRデータ基盤の構築は、まずゼロベースでのデータモデリングから着手しました。
一つ例を挙げます。医療機関の問診票やUbieの各種プロダクトでは、しばしば「◯◯の病気で通院中か」を問われます。では「通院中」の定義とは何でしょうか? 定義が不明瞭だと「通院中である」「ない」の境界線は曖昧になり、聴取の文脈を確認したり解釈したりする必要が出て、使い勝手が悪くなります。
国内外の文献やデータ体系を調べたり、社内の医師と議論を重ねました。例えば「今後◯日以内に受診予定があること」「過去1年で複数回受診していること」などの案が挙がりました。医師からは「当該病気を相談している主治医がいること」では?という意見もでました。議論を踏まえ、統一的な定義やユーザーの入力が困難ということで、最終的には「通院」は定義せず、扱わないことにしました。
ジャーニーを表現するPHRデータとしては、具体的なイベントとしての「受診」を中心に据えることにしました。もちろん、PHRとして「通院」を定義しないだけであり、プロダクト上で「通院」を聴取したり、分析に活用するケースは多々あります。このように、日常的に当たり前に使う用語や概念についても、一つずつ調査や議論を重ね、汎用的かつ実用的なPHRデータモデルを構築、拡張しています。
マルチプロダクトからのデータ集約の運用
基盤へのデータ集約も同様に重要です。各プロダクト向けにAPIを提供するとともに、データの取得・蓄積を検討し始めた早い段階から、基盤チームが設計のサポートを行っています。
また、入力データの品質担保も工夫しています。ユーザーからのデータの聴取方法(質問文や選択肢など)も含めてレビューを行ったり、データ信頼性をプロダクト内で高められるような、バックエンドでの機能開発をサポートしたりしています。
適切なタイミングでの、基盤サービスへの投資
集約コストを伴う本格的なデータ基盤をいつ構築するのか?は、リソースに限りのあるスタートアップでは難しい論点です。いくら「マルチプロダクト戦略」を掲げていても、比較的短期にリターンを生まないのであれば、基盤への投資は現実的に不可能です。
実際にUbieでも、過去に2回ほどPHRデータ基盤の構築に挑戦し、そして中断や縮小をしました。「早すぎた」からです。現行のPHRデータ基盤は、2022年末から設計・開発に着手しましたが、結果的に適切な投資決定が出来ました。要因として、
2つ目のプロダクトが立ち上がり始めた("マルチ"プロダクト)
プロダクト間でデータをやりとりするユースケースが見え始めてきた
PHRデータを、製薬ビジネスでも利活用する道筋が見えてきた
これらの兆候をキャッチ出来たことが理由です。データ基盤は構想として持ちつつも、早すぎず、遅すぎず、適切なタイミングでの投資判断の意思決定精度が高まっています。
PHRデータ活用の今後の展望
今回は、PHRデータを中心とした戦略と、PHRデータ基盤についてご紹介しました。最後に今後の展望をお伝えします。
取り扱うPHRデータの種類・量・品質の拡大
PHRデータの種類と量を拡大し、プロダクト体験やビジネス活用の機会を最大化する取り組みを継続します。一般に既往歴や社会歴と呼ばれるようなPHRデータを中心に拡充し、マスタを定義し、データの読み書きが可能なサービス拡張を続けます。
社外サービスとのデータ連携
加えて、社外のサービスとの連携を通じたデータ拡張にも挑戦していきます。現在すでに、デジタル庁が提供する「マイナポータルAPI連携」を実現し、調剤や受診の請求データを取得してPHRデータ基盤に蓄積しています。マイナポAPI連携の対応データ拡充や、その他の事業者とのデータ連携も模索していきます。
基盤サービスに関連するポジションを募集中!
PHRデータのさらなる活用を通じて、プロダクトやビジネス、ひいてはミッション達成を加速度的に推進していく挑戦は、さらに面白くなります。
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