WealthPark研究所のブランド・アイデンティティが出来るまで
こんにちは、恵比寿のプロプテック企業、WealthParkでデザイナーをやっている松本です。
今月、全社定例会でWealthPark研究所のブランディングプロジェクトについて発表したところ、ロゴやシンボルの背景にある意味とか設計のコンセプトみたいな部分について、他業種の方からもいろいろコメントだったり、興味を持ってもらえたので、改めてnoteに書き起こしたいと思います。
投資の扉、WealthPark研究所とは
はじめに、今回我々デザインチームがブランディングを担当させていただいたWealthPark研究所(WealthPark Lab)についてご紹介します。
WealthPark研究所は今年5月にWealthParkに参画された加藤航介さんが設立した新組織です。WealthParkに参画する前は、ミューチュアル・ファンド運用額で米国TOP10に数えられるインベスコにてグローバル資産形成研究所の所長を務めていた加藤さん。投資の実務でもファンドマネージャとして世界30カ国で運用経験があり、プライベートでも複数の不動産を運用する投資家です。
WealthPark研究所が目指すのは、人々の投資に対する考え方をアップデートして個人の資産を活発に動かすこと、また、それによって社会をより良くし、個人の人生を豊かにすることだと思っています。特に日本では、投資がギャンブルと混同されたり、お金について語ること自体が忌避されるような偏見/固定概念があります。そこで、投資という言葉の持つ本来の意味を正しく広めることが成熟した社会の実現につながる、というのが一貫した彼らの立場です。
一方、われわれWealthParkは企業のビジョン/ミッションである「オルタナティブ資産の民主化」=不動産、アート、ワインなどの非流動的な資産への投資をすべての人に開放する、ということの実現に向けてチャレンジしています。ところが、日本国内の投資の状況に目を向けると、オルタナティブどころか投資そのものが、広く人々に普及しているとは言い難いところです。そんな中、投資のエヴァンジェリスト的な枠割を担う加藤さんを迎えWealthPark研究所が立ち上がりました。
現在Mediumにて続々と記事を発信しているので、ぜひチェックしてみてください。
新しいブランドデザインで、中立的に発信したい
本題に移ります。なぜ、WealthPark研究所はWealthPark本体と異なるブランドアイデンティティを必要としていたのでしょうか。
それは、端的に言うと「WealthParkとしてではなく、中立的な立場から意見を発信したい」というのが彼らの出発点だからです。もし彼らがひとつのメディアとしてではなく、企業のPR部門のように見做されてしまっては読者の信頼は得られないでしょう。
所長である加藤さんからは「ぜんぜん違うブランドイメージにしてみませんか」という打診がありました。
とはいえ事業の名称にはWealthParkを冠しているし、長期的には会社のビジョン実現の一端を担うはずのものであるため、そこは変えたくないというこだわりもある……と。
私は当初混乱しました。一貫性を保つことと、差分を作ることを同時にやらなければならないという仕事です。WealthParkという看板を掲げたまま、WealthParkとは異なるスタイルを用いる。これはブランド設計上、ただのバグ、エラーです。失敗すれば、それはチグハグな、取ってつけたようなものになるでしょう。
もちろん、こういった制約はあるべき姿を規定するヒントでもあります。私はまず数種類のラフスケッチを用意してブレストに臨みました。
ファースト・ドラフト
最初に私が提案したのは、こんなアイデアです。
地図、窓、箱、柱……
見た目はまだまだですが、どれも、モチーフとしての意味は通っているように思えます。案内人を表現する「地図」。新しい世界へ続く「窓」。可能性を秘めた「箱」。拠り所となる「柱」。形は違えど、それぞれがアルファベットのLを象っていることもよく見ていただければ分かると思います。Lというのは、Lab(研究所)のLです。
私の推しは「柱」でした。造形的に気に入ったことと、様々な意味を与えられそうな簡潔さが気に入りました。
「柱案」の意味はこうです。「3次元に伸びる柱はそれぞれが、WP研究所にとって重視すべき価値を表している。X軸にWealth, Z軸にHappiness, Y軸にEmpowerment……」といった具合です。
地図や羅針盤ではなく、錨
面白いことに、加藤さんはそこに全く別のモチーフを見出します。それは一体、何でしょうか?これが、完成したシンボルです。
すでに述べたように、このシンボルの造形の基礎には、アルファベットのLがあります。しかし、Lにしては棒が一本多いのです。加藤所長はここからアンカー(錨)というモチーフを発見しました。錨?そう、船を固定する、あの錨(いかり)です。
たしかに。この形状は記号化された錨(いかり)に見えます。そしてすぐにピンときました。アンカーは安定性や不動性を意味し、それがもたらす安心感や信頼性を想起させます。
さらに、研究所の所長である加藤航介氏の名前には航(=Voyage)という漢字が含まれています。
新しい世界への航海を想起させるこのモチーフは、しっくりハマりました。何度かのディスカッションを経た頃には、すでに我々はこのシンボルに愛着さえ感じていました。
WealthPark研究所は投資に関係するニュースやトレンド、あるいはテクニックやTipsを発信することよりも、社会を動かすエンジンとしての投資の役割や、個人の人生における投資の意味について語ることをテーマとしています。そうであるなら、投資の世界において彼らが演じる役割は地図や羅針盤というよりも、浮動する何かを地面に結びつける「錨」のようなものかもしれません。
次に、ロゴタイプを定義する
ようやくシンボルマークが確定しました。しかしこれで終わりではありません。通常、ロゴと呼ばれるものは、シンボルマークとブランド名称をセットで表示します。この、記号化されたブランド名の部分を「ロゴタイプ」と呼びます。
りんご、スウォッシュ、黄色いM、青い鳥・・・世の中にはシンボルマークだけでもほとんど全ての人が認知できるような企業がいくつか存在しますが、それは高いブランド力の為せる技です。
われわれは少しでも多くの方にサービス名を知っていただけるように、ブランド名を記載したパターンを用意し、そちらをむしろブランドアイデンティティのメインバージョンと位置づけることにしました。
上の画像がWealthParkのシンボルマーク+ロゴタイプです。このスタイルを踏襲して、フォントはHelvetica Neueを採用しました。今回のブランディングの要件を考えると、フォント選びにおいてもWealthParkとの差分を作りたいところでしたが、実際にはWealthParkという文字列をHelvetica以外で表現することは、ちょっと考えられなかったです。そこで我々はHelvetica Neueを唯一の共通点として、それ以外の要素をすべて変化させることにしました。課題となるのは企業名の接尾、事業名であるLabという言葉をどう使うか、です。
参考になる事例があります。同社のSaaS事業、WealhPark Businessでは、企業名+サービス/プロダクト名をフォントウェイトの違い(Bold+Light)で組み合わせるというフォーマットを採用していました。
WealthPark研究所はサービス/プロダクトという枠組みに収まらないので、これを適用することはできません。他にどんな組み合わせ方をすればよいか、いろいろと試行錯誤する中で、VPoD(ヴァイスプレジデント・オブ・デザイン)の吉本さんの助言もあり、最終的にこのアウトライン(輪郭線のみ)のスタイルで落ち着きました。
とうとうシンボル+ロゴタイプで出来たVI(ビジュアル・アイデンティティ)が完成しました。この表現には、どことなく西海岸風のカジュアルさがありますし、何より、同じフォントファミリー、同じフォントサイズ、同じウェイトを使いながら、見た目の差分を最大化することが出来る、という意味で、これは的確な選択肢だったと思います。
シンボルマークを拡張する
いわゆる「ロゴデザイン」の開発はこれにて完了ですが、ここからが楽しいところです。シンボルのデザインを使ってキービジュアルを制作したり、カラーや素材感を変化させて、このシンボルの魅せ方、拡張性やビジュアル・アイデンティティとしての展開の仕方を考えます。
今回は、フラットな3Dデザインであり、幾何学的な形状をしていることを利用して、シンボルをタイル状に敷き詰めたテクスチャ・デザインを制作しました。こういった独自素材は、いざ展開すると、資料の背景やWebサイトのバックグラウンドとして至る所に露出するので、ロゴそのものよりも利用者の目に触れるものになります。そのため、ブランドの世界観を醸成する上で強力なツールになることがあります。
次にCinema 4Dを使って3Dモデルを作りました。Cinema 4Dにはカメラ・キャリブレーションという機能があり、作ったオブジェクトを写真の中に馴染むように配置できる機能があります。
この技を駆使すれば3Dなキービジュアルが作り放題です!また、モデリングデータがあれば、3Dプリンタで出力することも出来るので、立体的なオブジェを作ることができるなどの妄想が捗ります。
以下が、Cinema 4Dにて作成したアートワークです。
リアルに展開してみる
さて、最後に大切なことですが、シンボル、ロゴといったものは、単体で存在するわけではなく、どこかに掲載されることで初めて認知可能になります。大抵はWebサイトやアプリの上部とか、名刺や封筒の端に掲載されることになります。運が良ければ、Tシャツになったり、タンブラーになったり、クリアフォルダやミネラルウォーターのラベルになったりします。
現在、特に製品化の話はありませんが、モックアップを作って、どんな見え方になるのか見てみましょう。以下、僕の妄想です。
「ビジネスカード」基本のアイテムですね
「Tシャツ」多分作りますね
「柄Tシャツ」作りたいけどちょっと高いですね
「MUG」あったらうれしいですね!
「クッション」さすがに無いですかね
あくまで、これらはモックであり、まだ存在しないアイテム。ほしいという要望が多ければ製品化される可能性が少しは高まりますので、みんなで加藤さんに要望しましょうー
ご参考までに、上記のプロダクトモックはMOCKUPS DESIGNが無料で配布しているPhotoshopファイルを使って作成してます。いつもありがとうございます。
最後に、いくつかの記事を紹介します
今回、初めてWP研究所を知った方も多いと思います。何から読めばよいか分からないという方へのオススメとして、対談シリーズをご紹介します。デザインチームでは写真撮影をサポートしています。
第一弾はNYで現代アートのサブスクリプションサービスを展開するCurinaのCEO、朝谷さん。来日の折を見て、代官山のハウススタジオで対談/撮影しました。
そして第二弾は「3ヶ月でお金に強くなる」をコンセプトに、専属のパーソナルコンサルタントが金融知識・ノウハウ提供、資産管理・運用サポートを行うお金のトレーニングサービス、ABCashを運営するABCash Technologiesの代表、児玉さん。渋谷マークシティ本社オフィスにて。
第三段は日本初となるPropTech特化型ベンチャーキャピタルを運営し、PropTech、Fintechのスタートアップ投資・育成、大手企業向けのデジタル戦略、DXに関するコンサルティングを行う株式会社デジタルベースキャピタル 代表パートナーの桜井さん。日本橋、兜町にあるFintech企業が集まるFinGateにて。
いずれも興味深いお話が聞けました。もちろん、対談以外の記事も沢山ありますので、ぜひチェックしてみてください。
おわりに
シンボルというのは、簡潔であればあるほど、複数の意味を持たせることができます。シンボルのデザインにおいて、要素の追加は意味の追加というよりも、解釈の制限に他なりません。「制約と誓約」(by ハンターハンター)によって強度が増すのは念能力に限らないのです。意味を制限していくことと、解釈の多様性はトレードオフです。
デザイナーは通常、メッセージが正しく伝わることを何より重要視します。私もこのオブジェクトに、より多くのメッセージをできるだけ沢山詰め込もうとしました。しかし加藤さんは、あまり多くの意味を追加していくことには賛成しませんでした。そこで私も簡潔で有ることが、より豊かであるような、そんな設計が望ましいと気づきました。
WealthParkデザインチームは、このシンボルが彼らのメッセージを読者に繋ぎ止めるアンカーとして機能することを願っています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?